東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

「騎士団長殺し」とイチローズモルト秩父ウイスキー祭2017(ネタバレしませんのでご安心を)

最近酒の量を控えていた。そして飲みに行っても11時前には帰宅するようにしていた。なぜならば家でゆっくり「騎士団長殺し」を読みたかったからだ。


ウイスキー飲みながら家のソファーに寝そべって好きな小説を読むのは最高の贅沢だ。本を読みながら寝てしまう、というのはさらに贅沢。というのも本の世界に自分を閉じ込めたまま現実に引き戻されずに済むから。そして好きな本を読んでから寝るほうが熟睡できる。

だが適量を守らなければならない。飲み過ぎるとそもそもすぐに眠くなってしまったり、折角味わって読みたい物語の咀嚼が不十分になるので。「これはあそこからつながっているのか」「そういえばこのフレーズは以前ねじまき鳥で読んだな」「このモチーフは壁と卵からだな」などというのが分からなくなってしまう。
美味しい酒を厳選しながら少しずつ啜り、静かに読書できるバーがあれば最高だが、やはりそれはなかなか難しい。そういえば突然思い出したが南青山のBar Radioは図書館っぽいインテリアだった。たまに行きつけのお店が空いていると、「今日は本読みたいのでカウンターじゃなくてテーブル一人で使っていいですか?」と言ってみるときはあるけれど、やはりガヤガヤしたりタバコの煙が気になったりで集中できない。

そういうわけで、最近は仕事の後だらだらと飲むのではなく、美味しい酒をささっと飲んで帰宅するという健全(?)な生活を送っていた。例えばこんな酒。
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お店の売上を考えるとどこでいただいたのか書いた方がいいのかもしれないが、パラフィルム巻いてしばらく置いておきたい、とオーナーがおっしゃっていたのでバーの名前は差し控える。イチローモルト秩父ウイスキー祭2017記念ボトル。小さなシェリー樽で熟成させたとのことで、6年物とはとても思えない熟成感と厚みを感じさせる一本。最後にシェリーの香りが強く立ち上がる。これは気合入った造りですね、と男二人で盛り上がる。
このボトルはインターナショナル・スピリッツ・チャレンジのような世界的コンテストに出品されるらしい。この出来だと山崎シェリーカスクのようにかなりいい評価になるのではないだろうか。そもそも二百数十本限定なので、受賞しなくても飲むことは中々叶わないし、受賞したらとんでもないことになるだろう。

そのお店を再訪して別の酒を飲んでいたら、カウンターの端に座った男性二人連れがこちらとOn the wayをオーダー。どうやらあまり限定バージョンはお気に召さなかったらしい。自分の好みを人に押し付けたりすることはしないが、自分が気に入った酒を人に気に入ってもらえないと少し淋しい気持ちになることが改めて分かった。

お気に入りのウイスキーを時間をかけてちびちび飲むように、立ち止まっては考え、味わいながら少しずつ読み進めていた「騎士団長殺し」もついに読了。出張中の新幹線の中で最後のページに辿り着いてしまった。最後に話が大きく動いて、夜まで待てなかったので。ある意味勿体ないことをした、のかもしれない。だが今晩から思う存分酒が飲める。 

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小説の中にはシーバスリーガルやタリスカー、アイラの話もちらっと出てきます。ぜひご一読を。

 

 

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騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 

 

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

 

池袋 Nadurraにて: もし僕らのことばがウィスキーであったなら

久しぶりに村上春樹の「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」を本棚から引っ張り出してきて読んだ。機内誌向けに書かれたものだと思うが、酒をテーマにしたアイラ島アイルランドの訪問記。氏の奥様による素朴で家族旅行のスナップ写真を思わせる(失礼!)、だが商業写真家が撮るそれとは明らかに異なる写真に彩られていて、気軽にすぐ読める。

酒はそれが作られている近くで飲むのが一番旨くて、なぜかというと酒ができる土地柄、作っている人たち、それを飲む人たちなど雰囲気、空間全てを含めて「そこで」味わうことという体験が特別なものだからだ、という思いが書かれている。それは人の曖昧な記憶のような「かたちのないかたち」でしか残ることはなく、そこに含まれていたメッセージにいつ気づくかもわからないけれど、かたちのない幸福を与えてくれる旅という極めて個人的な経験は素晴らしい、という意味の言葉で終わっている。

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今と違ってまだシングルモルトはごくごく一部のマニアの人たちだけのものだった20年近く前に酒を飲まない人も含めて誰でも手にする可能性がある媒体向けに書かれたようなので、冗長に思えるところもある。おそらくこの本をきっかけにシングルモルトに興味を持った人はたくさんいるのだろう。氏の文章が(特に後半のアイルランド訪問記の方で)比喩表現の点で今と大きく違っているのを確認するだけでも面白い。

村上氏の言うとおり、酒そのものを味わうだけでももちろん悪くはないが、想い出を思い起こすスイッチとして飲む酒も悪くない。私の記憶の再生機はそもそも随分頼りない上にアルコールが入るとあちこちの画像が消えていたり、前後が勝手に編集されてしまっていたり、人の顔がのっぺらぼうになっていたりするものの、記憶の抽斗の中には酒以外にもいろんなものが放り込まれていて、ふと突然何かが渾然一体となって飛び出してくる。感覚の塊のようなものが。香水の香りをふと嗅いだのをきっかけに、昔の彼女の記憶がまとまって一気に脳内に鮮烈にフラッシュバックする、みたいなものか。

たまには自分の内側にある滅多に開けることのない抽斗を開けてみるのも悪くない。再生機以上にポンコツでたてつけの悪い抽斗は、よっぽどタイミングが良くないとなかなか開いてくれないが。ちなみにどれぐらい出来が悪いかというと、本棚にもう一冊「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」があったぐらいだ(恥かきついでに言うと「村上朝日堂」も2冊あってさらに凹んだ)。
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酒を飲む以外にも、淡々とランニングをしているときもいろんな記憶の抽斗が開くことがある。長い距離を走っている間は退屈だし、脳内が酸欠気味になっているせいか、普段あまり思い出さないことや考えないことが突然頭の中で展開する。昨日も走って汗を流した後にバーでウイスキーを飲んだけれど、実はランニングと酒を飲むという行為は遠いようで近いのかもしれない。

自宅から北上して1時間ほど走り、東京なのにとんでもなく濃い錆色をした塩分の強い天然温泉に460円で浸かることができる銭湯、桜台の久松湯で汗を流した後普段乗らない黄色い電車に乗って都心へ戻る。

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そして前から気になっていた池袋のNadurraへ。駅から少し歩いたビルの2階。なぜかこの辺りはモルトバーが密集。
ビルの前のサイネージから几帳面な感じが伝わってきたのでおそらくお店の中もそんな感じなんだろうな、と思いながらドアを開けると、バーにしては明るい照明と、予想に違わないしかし初めての客も包み込む雰囲気が広がっていた。土曜日の夜10時半ということもあってか先客はなく、カウンターの真ん中に座る。

明日は秩父ウィスキー祭りのボランティアスタッフとして朝5時起きで出掛けるのでいつもより早く11時半に店を閉める、ということだったので、一杯目からフルスイングしてBBR復刻ラベルの1982年、27年のClynelish。かなりの年数を経ているのにしっかり度数を感じるうえ、ストラクチャーがロバストで力強い。

オーナーの名前をうかがうことを忘れてしまったが(こちらが名乗らなかったのがいけないのだが)、物腰の柔らかい懐の深そうな方で間合いのとり方が上手なので、初めての訪問なのだが気疲れしない。

バーボン樽の感じがしっかり伝わってくるものが好きだ、と好みを伝えると出してくれたのがG&MのGlenRothes。The Whisky Hoop向けのボトリング。華やかな感じが予想以上。GlenRothesは昔ロンドンの友達から丸っこいボトルのオフィシャル貰って飲んで以来。

f:id:KodomoGinko:20170219095911j:imageその後、常連と思しき大人の男女がお店に入ってきたので一人静かに飲む。そして最後にこれもThe Whisky Hoop向けにCadenheadが詰めたLinkwood。どれも旨かったがこれが一番突き刺さった。おそらくこの日飲んだうちで一番安いと思うのだが、値段と旨さは必ずしも比例しないということを再確認。

寝ないと調子が出ないので夜は比較的早く店を閉めてしまうんですよ、この商売なんですがね、と笑いながらオーナーが話す。私もそうですよ、と言って小さな共通点を確認。そして彼の睡眠時間を削るのも忍びなく、11時半に店を出た。池袋は一応職場から帰宅途中にあるとも言えなくない。また来ようと思えるいい店を見つけることができた。

 

もし僕らのことばがウィスキーであったなら (新潮文庫)

もし僕らのことばがウィスキーであったなら (新潮文庫)

 

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バー ナデューラ

食べログ バー ナデューラ

 

 

 

 

 

代々木上原 Milestone にて

仕事を終えた後、家に帰る前にどこかで時間を過ごしたくなることがある。まっすぐ帰宅して食事を摂ってゆっくり風呂につかり、その後お気に入りのグラスで家に何本もあるボトルのどれかを飲めば安上がりなのに。

冷静に考えればその通りだと思うのだが、大抵理性がうまく働かずバーに寄ってしまう。家の中に昼間とりつかれた禍々しい何かを持ち込まない、という無意識が動物の本能として働いているのかと思ってしまう。バーに寄ろう、と決めるとその前に一人飯を食べる。ウイスキーに響かなさそうなものを選んで。酒に失礼のないように。

そこまでして外すと悲しいので、わざわざ行くべきバーは厳選せざるを得ない。バーマン、置いてある酒、その時の自分の心持ちの3つがどこに行くかを考える時の一番大きなポイント。客筋がイシューになるときもある。いいバーマンがいる店は客筋もいいことが多く、よほど運が悪い時ぐらいしか例外はない。

バーマンは好きだけど優しいウイスキーの品揃えが多くて今晩はガツンとしたのを飲みたいんだけどどうしよう、とか、前訪れた際に飲みたいと思った酒があったけど居心地が微妙でどうしよう、とか、バーとお酒は完璧だけどあの常連さんが話しかけてくるかと思うと今はその気分じゃない、とか様々な想いが巡る。そして一軒目で外してしまったときは大抵損切りして帰宅。

店でのバーマンや居合わせたお客さんとの会話が楽しみな時もあるが、背負っている何かをしばし忘れ酒を愉しんでいる時に、その意図はないのはわかっているとはいえあれこれ話しかけられて結果的に色々詮索されると酔いが醒めてしまう時もある。自分の抽斗は人に開けられるより開けたくなった時に自分から開ける方がいい。

先日まさに真っ直ぐ帰らずにいつもと少し違ったところで落ち着いた感じで飲みたい、それもできれば外れがないように知っている店で、という心持ちになった。そんな時に思い出したのが代々木上原のMilestone。駅から少し離れた井ノ頭通り沿いにある。

気をつけないと通り過ぎてしまいそうな控えめなファサード。風除けのためのドアを二つ開けるとライトに薄く照らされた静かな空間が広がる。私とあまり歳の変わらない西川さんという方がやっているお店。

静かで時間がゆっくり流れる。最初はSpringbankのオフィシャル15年からお願いした。
この店は酒も旨いが、実はとても上等なフルーツを用意してくれている。この晩はお願いしてラフランスを切ってもらった。
たかが洋ナシ1個、と思っていたら結構な量で、白い大皿がねっとりとしたラフランスで埋まる。まるで一人しゃぶしゃぶみたいだな、と思いながらそれをつまみ、官能的な甘みとわずかな酸味に合うように選んでいただいた加水のClynelish、1993年蒸留G&Mの14年を頂く。

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お店を一人で切り回す西川さんは接客のプロ。やはりわざわざ立ち寄るわけだから、落ち着いた気分にならないバーだと意味がなく、そういう意味でとても安心。

最後にSpringbankのLocal Barleyをいただく。もうお目にかかることはほとんどなくなってしまった貴重なもの。他のお客さんも帰られて、男2人で毒にも薬にもならない話をしながら、「実はこんなのもあるんですよ」と店のBGMがジャズからロックに変わる。なんかこの感じ、覚えがあるな、と思ったら学生時代に友達の下宿で好きな音楽聞きながら無駄話していたことを思い出した。こういう息抜きできる場所があると、いろんな意味で大変助かる。

近くの住宅街の中にセララバード、という有名なレストランがあるけれど、そこに寄られた後にでも、あるいは代々木上原で降りてわざわざ足を運んでもいいかもしれない。ただし、大人の方だけで。

バー マイルストーン

食べログ バー マイルストーン




 

 

 

 

 

 

 

Bowmore 9年 シェリーカスク、日本未発売、を個人輸入してみた

(2018年1月20日加筆: 先日武川蒸留酒販売のHPで税込み3980円でまだBowmore 9年 シェリカスクマチュアード買えることを発見しました。今日時点で残り70本です。念のためですが私には一円も入りません、はてなスターでも代わりに下さい(笑))

 

今家飲みしているのがこちらのBowmore。日本未発売。
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普段あまりBowmore飲まないのだが、いつもの渋谷のバーにお邪魔した時に「これYさんがくださったんですが旨いので飲んでみてください」と勧められたのがこの9年シェリー樽熟成。Yさんはウイスキー本の著作・翻訳もされている方でちょくちょく都内のバーでお見掛けする方。
頂いてみたらいい意味で軽快感のあるシェリーとバーボン樽、そしてピートのバランスが取れた飲み疲れしない一本だった。

蒸留所のテイスティングメモには以下のように書いてある。

  • ノーズ: リッチなココア、胡椒とレーズンの香りが柑橘系の刺激、微かなアイラのスモーキーさと調和
  • パレート: ピートを感じるシェリーの複雑さの後にダークフルーツと甘いクレマカラメルの味
  • フィニッシュ: 海の塩とピートの煙の完璧な調和

そして何よりの美点はオフィシャル12年と値段がほとんど変わらない、ということ。だが残念ながら日本では販売されていないという。

そこで初めてのウイスキー海外通販をトライしてみることに。「本当にすぐ来るし、日本への輸出も慣れているし、梱包もしっかりしているしびっくりするぐらいちゃんとしている」と複数のバーにて教えていただいたことがあるWhisky Exchange経由で。

やってみると拍子抜けするぐらい簡単。ウェブサイトも親切で、国内でオンラインショッピングやったことがある人であれば特段問題ない、はず。そして4日ほどでサクッと到着。なぜか中途半端な7本という本数で輸入してしまったが、送料と関税、通関手数料で1万円ほど。一本当たり1500円程度なので、日本で買えないものはもちろん日本で買うとバカみたいなプレミアム付いているものは輸入がお勧め。

上のBowmoreはこの記事を書いている時点で20.79ポンド。3000円ぐらい。

それにLagavulinの200周年記念の8年を追加。52.95ポンド。7500円ぐらい。日本で買うと1万円オーバーかな。

国内ではDHLを通して配送。送料と関税、通関手数料を受け取るときに支払う。
結局出来上がりはこれぐらいの値段となった。

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Benriachを一本おまけに注文。

 

注文4日後に届いたものがこちら。

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梱包がイギリス人の仕事とは信じられないくらい丁寧で、この緑っぽい緩衝材が全体にぎっちり詰められていたうえ、ウイスキー一本ずつを覆う箱の中にもご丁寧に緩衝材を詰めてあった。ピンクの紙に梱包の担当者の手書きのサインが。

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内容物は注文通りBowmore2本、Lagavulin4本とBenriach1本。これぐらい買うと送料、関税などとのバランスがちょうどいいように思われるので、一人で本数がまとまらないのであれば周りのウイスキー好きと相談してある程度まとまった本数を購入するのが吉かと。ポンドもまた140円割れてきていることもあり今がチャンスかも。

だが前にも書いたが信濃屋で買った方が安いものも意外とあるのでしっかりチェックを。ヤフオクで変な値段をつけている転売屋を儲けさせるよりもご自身でいろいろされてみたらいかがでしょうか。(ただし自己責任、At your own riskでお願いします)

 

 

 
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ボウモア 9年 シェリー カスク マチュアード 40度 700ml
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1946年蒸留の52年物Macallanを飲む

1946年蒸留の52年物のMacallanを飲んだ。「次の年末年始にはこのボトル開けようと思っています、よかったらまた来てください」と昨年言われた津のAmberにて。Macallanなのにピートで焚いた唯一のビンテージ。戦時中で石炭がなく「ウイスキーロールスロイス」が泥炭で焚かれスモーキーなフレーバーが付いた。またピートで焚いたMacallan飲みたいな、などと言うドイツ人がいたらなかなかシュールだ。一度ピートで焚くとなかなか香りが取れないというが、1947年も薄くピートが香ったのだろうか。

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翌朝クルマで出発というのに、金曜日の仕事の後会社の同僚と焼鳥屋でビールとワイン1本ずつ開けた後新橋のバーCaperdonichで飲んでしまう。

f:id:KodomoGinko:20170109224010j:plain右のボトルから順々に飲んでいったのだが、どれも外れがない。あまり世に知られていないバーなのかもしれないが居心地もよく置いてあるボトルの趣味もとてもいい上に良心的な価格設定なのでお勧め。

そして土曜日の朝起きると微妙な血中アルコール濃度を自覚。コーヒーその他の水分を摂取してしゃきっとしたところで東名に乗る。

土曜日の朝に東京をクルマで出て、津で一泊して日曜日早朝に伊勢神宮参拝して神宮会館泊、翌日成人の日に再び早朝参拝して帰京、というスケジュール。家人向けには「伊勢西ICと伊勢ICは通行規制で降りられないので、規制が始まる朝8時45分までに伊勢市内にいるには津から朝一で出発するのが一番」、と説明していたが、なぜこのスケジュールなのかの本当の理由は先述の通り。

 

道中それほど混んでおらず富士山が美しく見えた。新東名を調子乗って走っていたら走行車線のバスの陰に隠れていたパンダみたいな車が追越し車線を行く私のクルマの後ろについて赤色灯回した時点で気づいてブレーキ踏んだが間に合わず。次のサービスエリアに連行。


数年ぶりにパンダカーの後部座席に座らされ、「スピード出していたことは認めます。でも追尾始めて赤色灯回した途端にブレーキ踏みましたよ」、と言うと案の定計測できておらず。
結局追越し車線を2㎞以上走ったという通行区分帯違反、1点6000円の青切符をいただく。不幸中の幸いというべきか。高速バスの前にぴったりついて隠れていて2㎞以上追越し車線を走ったことを目視できたはずはないのだが、スピード違反も通行区分帯違反も認めない、となると相当揉めるしあるいは下手して血中アルコール濃度が残っていてもシャレにならないので俺のファンのおじさん二人にサインをくれてやった、と思うことにした。指紋の捺印も。

放免された後は、次は死んでも捕まらないぞと心に固く誓う。皆様も新東名で高速バスや大型トレーラーを抜く際にはお気を付けください。家人曰く去年も名古屋近辺で覆面パトカーをぶち抜いた途端に気が付いて慌てて減速したらパトカーの後部にある電光掲示で「スピード超過」という素敵なメッセージを頂戴したらしい。覚えてないけど。

運転しながら腹が減ったので東海道随一の宿場町桑名にて焼きハマグリを食べる。その手は桑名の焼き蛤、というやつ。麻雀する時の「そいつは東芝日曜劇場」的なクラシックなやつをやってみたかったのだ。はまぐり食道という駅前の店に入り、ハマグリ定食とハマグリフライ定食、焼きハマグリを頼んで家族3人でむしゃむしゃ食べる。ちょっと高いがハマグリ美味い。ひつまむしのようにお茶漬けのように見えるご飯の中にはハマグリのしぐれ煮が入っていて、最初はそのまま食べ、それから急須に入っただし汁をかけていただく。そして焼きハマグリ。
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夕方前に津に到着。城跡近くのホテルにチェックインし、旧伊勢街道のうら寂しいアーケード商店街をふらふら歩く。電器屋さんのショーウインドーにはこんなものがあった。

f:id:KodomoGinko:20170110224004j:image松阪牛で有名な朝日屋を冷やかし、駅前の居酒屋伊勢門にて地元の魚介や肉をいただいて満腹になり、家人たちをホテルに帰してから満を持して私だけAmberへ。

一年ぶりのカウンター、男女二人連れの隣に座る。その二人はウイスキーマニア的な人で、すでに彼らの目の前には箱ごと件のMacallanが。まず一杯目は鷲のマークの大正製薬、じゃなかったArranのGolden Eagle 1999年。

腹も満ち足りているのでゆっくり飲む。一人で黙ってバックバーにらみながら酒飲んでいるほうがウイスキー談義に花を咲かすよりもウイスキーマニアっぽいのかもしれない。カウンターからオーナーの女性が声を掛けてくれたので、「一年前にお邪魔した時にこのウイスキー開けると伺っていたので、お伊勢さん行く途中改めて来てみました」と話す。だが去年おっしゃっていた値段でそのまま出しているとすると正直赤字なのではなかろうかと思うので、それだけ目当てだというとスーパーで特売品しか買わないおばさんのようだ、と少し反省する。

Craigellachieのボトラーものをいただいた後でついに女装が、じゃなかった助走が終わってMacallanお願いすることに。よく考えたらMacallanはCraigellachieにあるのだった。箱だけでもオークションで何万円もする、そうだ。ウイスキーの箱に鍵がついているというのも初めて見た。肩の赤いラベルには誇らしげに数字ではなく大文字でFIFTY TWO YEARS OLD、と書かれている。うちの母親が1歳だったころの蒸留か、と思うとさっき見たVictorの犬の人形が懐かしいというどころの騒ぎでないことに気づき、時の重さで胸が重たくなる。年だけなら私も7年後には負けなくなるのだが。

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とてもスムースな飲み口で一瞬加水されているのかと思ったが、時の流れで自然にアルコール度数が下がったため。ピントのボケる感じは全くせず、凛とした上品なストラクチャーが舌の上で感じられ、酸味の弱いタンジェリンのようなあるいはアプリコットを感じさせる甘みと軽いヴァニラが流れた後にピートの香りがほのかに鼻の奥で震える。これを飲んでピートが強い、という人はいないだろう。とても美しい、痩せて背の高い老婦人を思わせる。最初に「これは旨い!」と叫びたいようなものではなく、飲むうちにじわじわと圧倒される。


そもそも考えてみると、スコットランド銀行の10ポンド札の裏にMacallanのポットが描かれている、というのはすごいことだ。

 


隣の二人連れが引き揚げたので同い年と判明したマスターと少しウイスキー談義。次に何飲むか、というのもなかなかな難問。Macallanなのにピートというレアもの、からの流れでCaperdonichなのにシェリー樽、それも70年代のCadenheadのAuthentic Collection、というレアものを試す。

f:id:KodomoGinko:20170109223945j:plainそもそもこのAuthentic Collectionは欧州向けで今でもあまり日本に入ってきていないうえ、最近80年代ものも手に入らないのに70年代蒸留、そしてCaperdonichという閉鎖蒸留所、そしてこちらの蒸留所は多くがバーボン樽熟成なのにこれはシェリー樽、という意味で先ほどの52歳のスペイサイドの老貴婦人と負けず劣らずレアなのだ。マニア向け過ぎて知名度ないけど。

幸せな夜を抱えたまま津の人通りのない寒空の下一人ホテルまで歩き、二晩連続でスコットランドの液体が身体の中を駆け巡るまま床についた。

翌朝生憎の天気の中、外宮参拝、内宮御垣内で公式参拝、そして御饌をお受けしておかげ横丁の白鷹三宅酒店で1合立ち飲み、そして赤福本店というお決まりのパターン。そして月読宮に行き、4つ並んだまだ新しいお宮に感銘を受け、翌朝日の出前から内宮に改めて参拝して帰ってきた。

 

今年一年が良い年でありますように。

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一年前に初めて訪問した時の記事はこちら。

Amber

食べログ Amber

BAR CAPERDONICH

食べログ BAR CAPERDONICH

 

 

 

 

 

Today is not my day

今回も特段のオチもない長文で、時節柄よほどお暇な方以外は他のより建設的な読み物をされて新しい年を迎えられたほうがよろしいかと思いますので、念のため。夜も更けてまいりましたので大きな声での朗読はご近所の迷惑ですのでご遠慮ください。

年も押し迫ったというのに大阪出張。込み入った話を説明するためプレゼンテーション作成に数日かかり、ようやく本番。羽田発伊丹行きのANAの12時の便は満席、機材は3-3-3の並びのシートで、2-3-2のJALと比べて横幅も前後の幅もすごく狭くて辛い。

窓際の席に座ると、狭いのに隣の人が脚を組むので私の脛に靴が当たりそう。年末なので家族連れも多く、離陸する前から泣き叫んでいるちびっこもいて、いつもの出張とは雰囲気が随分と違う。
居心地悪い中、資料を入れたカバンを足元に置いてプレゼンに目を通していたら「離陸しますのでカバンは前の座席の下にお願いします」とCAに言われてしまい、座席の下に入れようとしたらシートを床に固定する金具が邪魔して自分の前の席の下には入らず、隣のおっさんは脚組んだまま寝てしまって脚が邪魔でカバンが入れられない。こちらは早く仕事に戻りたい。何とか四苦八苦しながらカバンを収納、でも定時を過ぎても動き出す気配はない。

しっかりとしたアナウンスがないまま10分過ぎ、20分過ぎる。伊丹に1時10分に到着予定で2時半からのアポ。30分遅れると結構ギリギリ。30分経ってようやく飛行機が動き始め、「羽田空港混雑のため出発許可を待っていたのと荷物の積み込みに時間がかかったので本機は35分遅れております」というアナウンスが。まあ遅れたのは百歩譲って許すが、時間が読めないと困るビジネス客多いんだから精神衛生のためも含めてもう少し前から状況説明のアナウンスがあってもいい。


予定外にプレゼン前のチェックの時間が取れたのはよかったのだが、着陸時にもカバンの収納についてCAに注意される。「もし座席下に入れにくいようでしたら荷物を上の棚に収納しましょうか?」とでも聞いてくれればいいのに、完全なマニュアル対応。ANAはおもてなしを売りにしていたのではなかったか。

ようやく伊丹に35分遅れで到着。時間の余裕を見ていた分をすべて食われてしまう。そして客先へと阪神高速で向かうと今度は事故渋滞で環状線まで45分という電光掲示。これはもう完全に遅刻だわ、と凹む。ややこしいプレゼンをしたり、難しい交渉事をする際には早目に先方についてアウェイでも余裕を持って対応する、というのが通常で、「遅れてすみません」とこちらが最初に詫びて相手が当初から心理的優位に立っている状況は相当不利。渋滞の中で焦れるが焦っても仕方ないのでバカ話をして気を紛らわせる。塚本あたりでしょうもない追突事故だった。だが何とか時間に間に合う。

お客様の偉い方々を前にしっかりつかみで冗談言って笑わせてから話を始めたのだが、自分の話が刺さっていないのが話しながら分かる。それが分かるので一生懸命話すのだが空回り。いや、そういうニーズがあるって担当営業が聞いてきたのでそのニーズへの解決策を話しているのだけれど。結局1時間以上いろんなテクニックを繰り出して話したものの、今一つで終わってまた凹む。とても時間をかけて準備してきたのに。

プレゼン終わっていろんな意味で脱力状態の中、もうオフィスに戻っても7時過ぎになるし年末なので片づけることも少ないはずで、大阪で何か食べていこうか、そういえば昼食も食べそこなったので、と思い同行者の予定を聞くと、とりあえず羽田に戻ります、とのこと。自分だけ大阪残っておいしいもの食べて帰ります、とは言いにくい雰囲気。後ろ髪引かれながらじゃあ私も、と羽田へ。

帰りの飛行機はJALで席も狭くなく定時到着。同行者二人はそれぞれ直帰するとのこと。えーそれなら大阪残って千草のお好み焼きでも食べて、そのあとRosebankにでも行って古いウイスキーでも飲めればよかったなあ、と後悔するが先に立たず。さらに凹んだがプレゼンの手元資料もずっしり重いし首都高激渋滞なので電車でとりあえず帰社。

オフィス戻るとがらんとした雰囲気。自分用の簡単な出張コールメモを作っていると猛烈に腹が減る。そういえば客先に早目について喫茶店で遅いランチを食べるはずだったのに食べ損なったのだった。

大阪でいいもの食べるつもりだったので、東京でラーメンとか安易に食べることは自分的に死んでも許せない状況。そもそも人生いつ死ぬかわからないので一食一食悔いが残らないよう妥協せず美味いものを食べる、また適当な酒で酔っ払わない、というのが私のポリシー。少し考え、会社から歩いて10分弱の前回ミックスフライ定食事件が勃発した洋食屋へ。

冷たい風が吹く中を歩いて店に着き、一人でも気兼ねなく食事できる4席あるカウンターに空きがあるか見ると、お母さんとちびっ子2人がカウンターにいて残り一席もお母さんのものらしきコートと荷物が置かれている。いつもオーダー取ってくれるおばさんが寄ってきて「だいぶお待ちいただきます」と言われてしまったので諦める。だが気持ちは完全に洋食モード、じゃあ遠いがぽん多にでも行くか、と思って御徒町へ移動。だがわざわざ行ってみたのに定休。またやられた、今日はついていない、と思い、携帯でググって近くのキッチンさくらいをトライ、だがこちらも満席で一人でも入れない、とのこと。心が折れてその下の階の生パスタの店、というので妥協しようとしたが、席に着いたら「お水はご自身でドリンクバーでお願いします、オーダー決まりましたらこのボタンを押してください」と言われファミレスもどきで俺は妥協するのかと我に返って店を飛び出た。
そうだ、ぽん多がダメなときは蓬莱屋だ、と我ながら名案思いつくじゃん、偉い偉いと自画自賛しながら行ってみるともうラストオーダー過ぎたとのこと。しょうもない店に入ったりしていなければ、と今日何度目かわからない後悔。全くもってついていない一日。


こうなったらどこかのバーにでも入ってゆっくり一杯飲みながら美味い店探そう、と思ってバーを探すもののあまりいい店がなく、結局上野駅近くのProntoで妥協してジムビームのハイボールを飲む。正直角ハイの方が好きだわ、とまたまた後悔。
スマホをいじって、近くに上野藪蕎麦があると分かったので、熱燗で体を温めてつまみ食べて蕎麦でも手繰るか、と決定。グーグル先生はまだ営業中とおっしゃったのに行ってみるとすでに閉まっていて、本日何度目の空振りか、と思って本当に心が折れる

もうなんでもいいや、と自暴自棄になり歩いているとえらく昭和なおでん屋が。火が出れば3分で全焼しそうな古い建物だがぱりっとした紺色の暖簾がかかっている。一瞬行き過ぎたが、思い直し戻って暖簾をくぐる。
 
予想通り昭和の雰囲気を色濃く残すおでん屋。カウンター10席程度、テーブル席は5テーブルぐらいだろうか。結構な繁盛ぶりで、遠慮しながらカウンターの一番右端に座る。壁には古ぼけた黒板にチョークで刺身その他の一品が書かれていて、目の前でおでんを煮ている。カウンターの奥には1億円札や招き猫などおなじみの昭和グッズ。中に立っているのは60絡みのこぎれいなお母さんと20代の女性。寒いので熱燗。追加でシマアジ刺しとおでんを数品頼む。

熱燗出てきたら二合徳利だった。さすが上野。最初だけカウンターの中からお酌をしてもらう。隣は常連さん3人連れ、うちの親父と同い年かちょっと上ぐらい。結構飲んでいるが、下町でよく見るきれいな飲み方。

味の染みた大根を食べ、ごっつい厚揚げを食べているうちに身体が温まる。背中越しに引き戸を開く音がして3人連れの客が入ってくる。カウンターの常連さんが一つ席をずれて私の隣に移ってきて、3人連れのために席を作ってあげている。常連さんは一見の客に席を譲る、というお約束が守られている。

私の隣にイトウさん、イトウさんと店の人から呼ばれているごま塩頭のずんぐりしたお父さんが座る。短い話をして最後に冗談を言ってハハハ、と笑うのを繰り返して楽しく飲んでいる。

「兄さん、この店は初めて?俺はね、この店昭和29年ぐらいから来ているよ。隣の新潟から出てきたこいつの地元は、村なのに競輪場があるんだよ、すごいねアハハ。」「この若い女の子はレンちゃんっていうんだよ。中国のハルピンから来た。中国語教えてもらってね、いい子なんだ。レンっていうのは、干支の寅って書くんだよ。後ろの女の子はくみちゃん。日本人。」と言って胸から手帳を取り出して、「くみちゃんは月、火、木曜日にいて、レンちゃんは基本毎日いる」と教えてくれる。黄色いポストイットにおでん屋のバイトの女の子のローテーションが几帳面な小さい字で書かれている。くみちゃんがそれを見て、「イトウさん、本当にメモ魔なんだから。お客さん、イトウさんのメモ帳いろいろ面白いこと書いてあるんですよ」と言って笑う。

イトウさんは東京オリンピックの前に新築の団地に親と一緒に引っ越した話をしてくれ、そのころの公団住宅は夢の未来の住宅みたいだったよ、と教えてくれた。隣の新潟の弥彦村出身の友達はちょっと前に綺麗な奥さんを亡くして寂しがっている、といいながら私のお猪口にお酒を注いでくれる。でも私のことをいろいろ詮索したりはしない。短くて太い指が関節ごとに曲がっていて、爪が横に広がって大きくて、今はツイードのジャケットを着ているけれどこれまでずいぶん苦労されたのだろうことが何も聞かずとも伝わってくる。イトウさんも奥様に先立たれてしまったのだろうか。上野のおでん屋はそんな寂しくても寂しいと言わない人たちのためにそこにあった。私が通り過ぎることができなかったのはもしかしたら偶然ではなく必然だったのか。

 

 

 

 

 

 

蜜まみれでまるでスイーツ(笑)のような究極の石焼きイモを作ってみたの巻

もはやウイスキーなんて関係ないシリーズ。ふるさと納税で安納芋をいただいたので、これまた去年のふるさと納税でいただいたステンレス製のダッチオーブンに小石を入れて七輪で石焼きイモを作った。

安納芋は焼きイモにすると蜜が出るほど甘い、と言われるぐらいで、我が家は数年前からオーブンで安納芋の焼きイモ作るブームが到来していたが、ダッチオーブンで石焼きイモ作ると異次元の美味さ、という話を聞いて我が家でもやってみた。

休日の朝に中野の島忠まで走って行って小石を買う。Amazonでも石焼き用の小石売っているけれど、レビューを見ると加熱した時に塗ってあるワックスが臭い、と書かれていてホームセンターで買えばいいかな、と思ったがやはりだめだった。都会に住んでバカバカしいこと沢山あるが、小石を買うのにホームセンターまで行くのはなかなかバカげている。

火起こしで炭を作る。

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火を起こしている間に濡らした新聞紙でイモを包み、アルミホイルで巻く。

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ダッチオーブンの底に石を敷いてイモを置き、その上からまた石をかぶせる。

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ダッチオーブンのふたの上にも炭をのせ、小一時間待つ。

f:id:KodomoGinko:20161217121842j:plainこの間ずっと七輪を見ているわけではなく、ベンチプレスベンチ持ってきて腹筋したり、落ち葉かきしたり、ムスメと一緒にブレイブボードやって遊んだりしているうちにイモに巻いた新聞紙が少し焦げ臭くなってきた匂いがすれば出来上がり。
軍手で激アツの石をよけて、アルミホイルを丁寧にはがすと濡らした新聞紙が少し焦げかかっているぐらいがちょうどいい。はやる気持ちを抑えてイモを取り出すと手で割れるぐらいの柔らかさ。割ってみるとこんな感じ。スイートポテトもびっくりの甘さとクリーミーさ。

f:id:KodomoGinko:20161217122222j:plain下手なスイーツよりもこちらのほうが圧倒的に美味い。ほくほく、というよりもねっとりしていて異次元の味。裏ごしされたスイートポテトよりも柔らかい、かも。道具さえあれば幸せが比較的安上がりに手に入る。家族の笑顔付き。

ステンレス製のダッチオーブンは手入れが簡単なのでオススメ。焼きイモだけでなくこれにネギを敷いて豚バラ肉800gぐらいと大根切ったの入れて醤油と酒とみりんを1対1対1で割ったもので適当に味付けして強火の七輪の上に1時間ほど置いておけば、極上の角煮ができる。厚めの鍋の遠赤外線がいいのかな。今度はベイクドチーズケーキを作ろうと思う。ウッドチップ買ってくればウイスキーのあてになるスモークチーズなどの燻し系もできる。

七輪も一台あると焼肉するのも楽しいしサンマも焼けるしオススメ。火を起こすのが上手にならないといつまで経っても食事が始められなかったり、焦げこげの肉を食べなければならなくなったりするのでいきなり家族の前でチャレンジすると父の面目丸つぶれになるリスクがあるのでご注意を。

 

 

 

 

 

 

洋食屋でカキフライを追加しただけで私の人間としての器の小ささがこれでもかと問われるまさかの展開に

「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ…」というのはこういう時に使うのか?今日某有名洋食店でランチを食べたところ私の人間としての器の小ささが赤裸々となってしまうという事案が発生。

どんな事案だったかを簡単に説明すると以下の通り。

ランチの開店と同時にほぼ満席、2人がけのテーブルに相席で座りミックスフライ定食にカキフライ追加というオーダーをお母さんに通す
    ↓
中年女性客が入店、私の隣に相席で座りメニュー見ずにミックスフライ定食を頼み、お母さんの「アジフライをカキに変えますか」というオファーを断る
    ↓

混んでいるので料理が出てくるのに時間がかかり、ようやく出てきたと思ったら別の若い店員が「お待たせしました、ミックスフライ定食カキ追加です」といいながら隣のおばさんのテーブルに出してしまう
    ↓
おいおいそれ俺のオーダーだし、俺の方が先に店入ったのに順番狂うのもおかしいし、と思って「間違ってません?」と言おうか逡巡するものの、もしかするともう一つミックスフライ定食カキ追加、が私のために出てくるかもしれず、何も言えず
    ↓
おばさんはなんとカキから食べ始めるのが見えて心の中でずっこける、私のはなかなかやってこない
    ↓
しばらく経ってようやく私の定食が登場、案の定残念なことにミックスフライのみで追加のカキフライなし
    ↓
若い店員に「追加のカキフライは?」と聞くと私の伝票を見た後隣のおばさんの伝票見て、しばらくパニクったあと「間違えたの自分なんで」とおばさんに謝る、今からカキフライ持ってきますんで、と私に謝る
    ↓
ミックスフライ食べ終わりそうになってようやくカキフライ登場、おばさん最後まで一言も言わず

まあこんな些細な出来事なのに、ちょっとしたことで人はとても複雑な思いを抱くわけですよ。こんな目に遭った私はどう考えても被害者で、何一つ悪くないはずなのに、なぜかとっても自己嫌悪。どんな自己嫌悪かというのを自分なりに分析してみた。

1. 頼んだオーダーが隣のおばさんに行ってしまったことで料理が出てくるまで待たされる時間が長くなり、ちょっとイラッとしてしまった自分に自己嫌悪

2. 俺のカキフライは?と言わずに黙って間違いを受け止めてそのままミックスフライ定食を食べ、その分だけお勘定を払っていれば気持ちが千々に乱れることはなかったのに、そんなに心にさざ波立ててまでカキフライ食べたかったのか俺は、と自分を責めて自己嫌悪

3. 席に着くなりミックスフライ定食を注文するぐらい「こなれた」客で、かつアジフライをカキフライに変更しなくていい、と言った割に「はいお待たせしました、ミックスフライ定食カキフライ追加です」と言われて料理が出てきても何も言わずさらになぜかカキフライから食べ始めたおばさんは無言のままで、この人は確信犯に違いないと人を疑ってしまう自分に自己嫌悪

4. 明らかに料理を出す順序もオーダー内容も店員が間違えているのに指摘できない自分のふがいなさに自己嫌悪

5. カキフライが後から出てくる前に食べ終わりそうになり、たかが自分のペースで食事ができなかったことぐらいでストレスを感じている自分に自己嫌悪

6. 最初からミックスフライ定食にカキフライを追加した値段を払おうと思っていたはずなのに、隣のおばさんが同じもの食べてミックスフライ定食の値段しか払わないかと思うと、最初に払おうと思っていた値段を払うのが腹立たしくなっているちっちゃな自分に自己嫌悪

7. 間違えた若い店員はあとから追加のカキフライ持って来れば問題ない、と思っているかもしれないが、実はそうではなくてあなたのせいで本来感じる必要のなかった物凄い自己嫌悪を感じながら食事をしていてすごく残念な感じでどうしてくれる!と思い、だが結果的には自分のオーダーしたものがオーダーした通り食べられたのだから問題ないじゃん、ちっちぇえよ俺、と思ってまた自己嫌悪

思い返すだけでもまた自己嫌悪に陥るので、こういう時はウイスキー呑むに限る。頼むよサービス業の人。我らを試みに遭わせず、悪より救い出し給へ。アーメン。

 

 

 

 

 

秋葉原コーヒー VAULT

秋葉原に所用で出かけ、ついでにコーヒー好きとして以前から気になっていたVault Coffeeに行ってきた。以前も書いた気がするが、ウイスキーをストレートで飲んで旨いと感じられる人の多くは、旨いコーヒーをストレートで飲めばその旨さを感じ取ることができるのでは、と思っている。ソースは俺。

秋葉原の駅から中央通りを少し北上して脇道にそれ、アキバ系雑居ビルの怪しげな入口を入り萌えキャラポスターががっつり貼られたエレベーターに乗って3階に。

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事務所を改装したのだろうと思しき物件のドアを開けると長いカウンターと奥にソファが見える。意外と広い。カウンターの中には若い男性一人。


カウンターの一番端に座ってメニューを眺め、「いつもエチオピアやグァテマラが好きで飲んでいるのですが、何がお勧めですか?」と聞くと名前を失念してしまったが特別なブラジルを勧められる。
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オーダーを終えてほっと一息、改めて店を見渡すと、一人で来ている女性客がカウンターでホットサンドのようなものを召し上がっていて、いかにも秋葉原という感じの4、5人連れが奥のソファーで盛り上がっている。だが意外と店が広いのでカウンターの端に座っていると気にならない。

床は仕上げ材なしで研磨した感じ、壁も天井もかなりミニマルな内装。カウンターの中も手作りな感じなので、おそらくカウンターの中にいる20代のように見える店主が一人で頑張ったのだろう。

コーヒー好きとしてはどのような落とし方をするのか気になるのだが、見ていて正直「これで大丈夫???」と最初思った。というのも豆を挽き、その粉を温めておいたポットに入れ、お湯をポットに注いで蓋をしてしばらく置いて、アラームが鳴ったらナイロンのフィルターにざばっと注いで温めたカップに一気に落とす、という一見とてもラフな淹れ方。まるで紅茶を入れるよう。

普通はハンドドリップで、首の長いケトルでネルに入れたコーヒーの粉をしばらく蒸らし、ゆっくりとお湯を注いで落としていく、という淹れ方をするのだが、こんなざっくりとしたやり方で美味しいのか?と疑問を抱きつつ飲んでみると、これが驚くほど旨い。香りが高いのに飲み口は軽く、何杯でも飲めそう。だが飲みごたえがないわけではない、という不思議な旨さ。

「美味しかったですか?」と尋ねられたので「美味しくて驚きました、なんでハンドドリップしないのですか?」と聞いてみた。

すると返ってきた答えが、「私は豆屋に働いていたので」。答えの意味が分からず、なんで豆屋で働くとハンドドリップではないのか改めて聞く。
そして再び帰ってきた答えが「ハンドドリップで入れると豆が売れないんです」。また???となる。

よくよく聞いてみるとこういうことだった。
「私はかつてコーヒー豆屋に勤めていて、ハンドドリップで美味しいコーヒー出すと淹れ方が上手いのでコーヒーが美味いと思われて美味しい豆が売れなかった。美味い豆から淹れるコーヒーは雑味がないのでハンドドリップでなくても旨い」とのこと。深いわ。VAULTではCup of Excellenceという最上級の豆を使っているので、適当に入れているように見えるやり方でも旨いコーヒーがいただける、ということだ。

「うちで豆買うと高いですけど、新大久保にあるトーアコーヒーで売ってもらうととてもいいコーヒー豆がすごく安いですよ」と教えてもらう。
でももう豆の売れ行きを気にしなくても、上等のコーヒー豆を上手い淹れ方で入れて特別美味いコーヒー出しても別にいいんじゃない、このお兄さんは美味いコーヒーよりも美味いコーヒー豆をこよなく愛している人なのかも、と思い少し可笑しくなった。

VAULT COFFEE

食べログ VAULT COFFEE

 

 

 

 

 

 

香港で置き忘れた現金が何故か手元に戻ってきて運とは何か思いを致す

会社の後輩が出られなくなった某有名マラソン大会に、大した練習もせずに替え玉として参加したら30キロから尻と膝が悲鳴をあげ、やはりマラソンなめてたらダメだと思い知らされたその足で成田へ。そして空港でシャワーを浴び夕方の便で香港へ。

 

香港でお金を置き忘れたのに戻って来た。びっくりした。夕方携帯に現地の番号から着信があり、仕事の電話かと思って出たら先ほど訪れた銀行から。何だろう、と思ったらプラスチックバッグを忘れなかったか?と聞かれ、そうかもしれない、と答えると中身は何だったか聞かれ、1000ドル、およそ14000円ぐらいのお札一枚とコイン1枚、と答えると、もう閉店しているけど扉ノックしてくれれば渡すから今から取りに来て、とのこと。手続きの際にジップロックの袋に入れていた現金をカウンターに忘れてきてしまっていたらしい。ジップロック、とカタカナで書いてあってこれはどうやらさっきの日本人のものでは、と思って書類に携帯番号書く欄があったのを見て電話くれたようだ。

 

手ぶらで行くのも何なので何か手土産を、と思ったが、閉店しているのに遅くなり過ぎても申し訳ないので、近くのコンビニで何かないか探し、あまり冴えたチョイスではないとは承知で日本のどら焼き2つ入りの袋を3つ買って、閉店から1時間以上経ったHSBCの支店へ。

 

店のガラス扉から中を見ると、さっき窓口にいたお兄さんが短パンTシャツ姿に着替えていて、すぐにジップロックの袋を渡してくれた。お礼に、と言ってどら焼きの袋、それも香港のコンビニなので袋にも入れてもらえず包装も何もなしで、を差し出すと、規則で受け取れない、とのこと。いやそう言わずに、と軽い押し問答のようになってしまったが、結局受け取って頂けず。

 

お金はありがたいことに戻って来たが、どら焼き2個入りの袋3つを手に持って途方に暮れ、ホテルに持って帰っても食べないし日本に逆輸入するのも何だし、だからといって捨てるのも抵抗あるし、と思って悩む。そういえば昨晩ホームレスの人があそこにいたな、折角なので差し上げようと思って行ってみたがおじさんはおらず。だが夜露をしのげるところなので今晩また来るかもしれない、と思い、だが一方でゴミのポイ捨てのようで迷惑かもしれず、様々逡巡したが結局昨晩おじさんが座っていた場所にどら焼き6つを置いて来た。

 

しかし何故現金が私の手元に帰って来ることになったのだろう、逆にどうだったら帰って来なかったのか、銀行に謎のお金が残されていると管理上問題だったからなのか、香港の人が親切だからなのか、日本を贔屓にしてくれているからなのか、様々考えながら目についてふらっと入ってみた湾仔のバーで一人飲む。Back Barという、文字通りレストランの裏にひっそりあるバー。入り口はレストランの裏口のよう。気づかず行き過ぎて隣のビルの工事現場まで出てしまったらネズミが数匹逃げてちょっとびびる。引き返して無愛想なステンレスの分厚い扉を開けると、20人は入りそうなバーが現れる。週末は立って呑む人たちでごった返すのかもしれない。客は4分の入り。モルトバーではないがそこそこスコッチ置いてあるのでArdbeg and Soda、と注文。隣の香港人は山崎をストレートで飲んでいる。

 

カウンターで白人のお兄ちゃんが飲み物を作っているのを見ながら、サイドカーを飲み(レシピ見ながら作ってくれた)、タリソー飲んでいるうちに香港の夜は更けていった。

 

翌朝目覚めると携帯がやたらブルブルいうので何かと思ったら家人からのLINEで、大津波警報出ているとのこと。慌ててホテルの部屋のテレビを付ける。NHKのアナウンサーが「津波です、一刻も早く逃げてください」と強い口調で言っているのをずっと聞いているうちに5年前を思い出したのか、何故か涙が出てきた。もうアラフィフのおっさん、それもほとんど被害がなかった東京在住、にとってもトラウマになっているのだとすると、今回どれだけの人が改めてあの出来事を思い起こして再び心を痛めたのだろう、という思いに至った。幸せは築くのに時間がかかるが不幸せは人の人生に一瞬のうちに降りかかる、という非対称性の不条理について、そして昨晩も考えた運とは何かについてまた考えさせられた。どら焼きは捨てられていないと良いのだが。

 

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