東京ウイスキー奇譚 Islay Whisky’s blog

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 その1 その2 その3
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

大事にしたいバー

ひょんなことから、2日連続して同じモルトバーに行った。

 

都心で豪勢な食事をいただいた。エラい方とご一緒すると、早く始まって早く終わるからいい。その分濃密に気を遣うのだが。そしてその日もお客様を送り出したらまだ9時半前。同僚ともう一杯だけ飲みに行くか、ということになって少しだけ歩く。
 
確かこの近くにいいモルトバーがあったはずだ、と思い出して昭和なビルの昭和な機械油臭いエレベーターのボタンを押してその店へ。およそ一年ぶり。
 
ドアを開けると先客なし。バックバーを見ると、楽しそうなボトルがたくさんあって心が躍る。一緒に行った同僚はワインエキスパート、利き酒師の資格は持っているものの、あまりウイスキーには詳しくない。彼はMonkey Shoulderのソーダ割を頼み、私はハイランドで何か優しいものをお勧めしてもらえますか、と超ざっくりしたお願いをする。
 
すると出てきたのがGlenMorangieのAstar。2008年に出て終売になってしまっているはずのブツ。57.1度というスペックからは想像できないスムースさ。黄桃を思い起こさせる甘みがふっくらと広がる、期待通りの優しさ。ささくれだった心をじんわりいたわってくれる美しい女性が隣にいるのに、その彼女をそっちのけで男2人で仕事の話で話し込んでしまっているかのよう。酒の前で心苦しくなる経験、というのはあまりないがまさにそんな感じ。
接待の後の飲みだから仕事の話が多くなるのも仕方がないが、旨いウイスキーは雑念を払いのけて純粋に楽しみたいものだ。
 
そして次はGlenLivetのNadurraが目についたのでお願いしてみる。最近のノンエイジのものではなく、最初に出た18年、だった気がするのですがもしそれがあれば、と言ったら18年は勘違いで16年が出てきた。ボトルの最後の一杯。カスクストレングスとは思えないフルーティな癒し系。だがしっかり。ありがちな線の弱い優しいだけの酒とは一線を画す。
  
仕事の話を一通りした後、冬休みに行きたいと思っていたグランドキャニオンやセドナの話を聞く。日本から行くにはフェニックスかラスベガスからが便利で、どちらも直行便がないのでロスかサンディエゴから行くことになるらしく、ちょっとめんどくさくなる。あまり長くない休みで飛行機に15時間乗るのはやっぱり気が引ける。そんな話をしながらもう一杯だけ、となり、最後の一杯を選んでもらった。Dailuaine。ダルユーイン。読めないよ。ジョニーウォーカーの原酒の一つだが、シングルモルトとしてのオフィシャルのリリースは現在ないために超マイナー系。だが骨太のストラクチャーと長い余韻が楽しめる、ガツンと来ないがそれでも男らしいウイスキーだった。
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一杯だけ、のはずが11時半過ぎだったので引き揚げる。久しぶりに来たが改めていい店だと思った。
 
翌朝、仕事用の携帯が見当たらない。家人に連絡したが、家にもないという。最後に見たのは昨晩のバーだ。間違いない。仕事が終わったらまた立ち寄って飲んで帰ろう、と思って仕事を続ける。
 
昼休みに会社の私のラインが鳴り、電話に出ると「中村といいますが昨日お店に携帯をお忘れにならなかったでしょうか?」と言われる。「ええすみません、今晩取りに伺おうと思っていました」「いや、そちらの会社の近くを通りますのでお届けしますよ、仕事でお入り用でしょうから」「いえいえ今日はたまたま外出がないので、お気遣いなく」「本当に大丈夫ですか」というやりとり。自分がお店に置き忘れた携帯をわざわざ会社まで持ってこさせるほど私は度胸ないです、さすがに。
 
無事仕事を終え、手ぶらで行くのも何なので丸善で小さなRhodiaのメモパッドをお礼に買って再び昨晩の店へ。丁重にお礼を申し上げる。「いや、よく会社の番号がわかりましたね」「携帯忘れられたことに早く気づけばよかったのですが。昔名刺をいただいていたので」確かに私は携帯の待ち受け画面に自分の名前と連絡先が出るようにしていた。だが電話番号は会社が移転する前でもう使われていない古い番号のまま。それで私が以前差し上げていた名刺を名前だけで探し出してくださり、会社に電話いただいたようだ。
 
「これ、お礼にと思って」とRhodiaのメモパッドをお渡しする。「いいんですか?恐れ入ります」「いえ、こういう時にしっかり裏を返しておかないと、次から物が出てこなくなるんですよ」「では遠慮なく。こういうものは商売柄結構使うのでありがたいんですよね」。
 
タリスカーソーダを手始めにいただく。こちらのお店では10年ではなく、57°Northを使っているとのこと。こちらのほうがタリスカーのいつもの香りに甘みが加わって、ソーダ割に合うかも。喉が渇いていたのであっという間に飲んでしまい、昨日も気になったFarclasの10年、オールドのボトルをお願いする。特級、という時代ではないが、輸入元が今は亡きトーメンとなっていた。
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一人だけいた先客が帰り、しばしウイスキー談義。バックバーをよく見ると、BroraやPort Ellenなどの閉鎖された蒸留所のボトルが。「下世話な質問ですけれど、おいくらぐらいで出されているのですか?」「いえ、うちは一杯二、三千円から出していますよ」「えー、それってすごくないですか?」「確かにそれだけを目当てに来られるとこちらも困ってしまいますが、ちゃんとコミュニケーションが取れる方であれば普通に先代が出していた昔の値段でお出しします」
 
聞けばかつてはウイスキー初心者の女性が来た時には比較的女性に好まれるからと白州のシェリーカスクを出していたそうだ。さすがにそれはやめてしまったそうなのだが。
 
「Port Ellenも飲んだことありますし、美味しいとは思いますがあの値段を出すのであれば他にもっと美味いものがある気がします」「そうなんですよ、珍しいので飲んでみたい、という気持ちわかりますし、そういう方のリクエストに応えてお出しすることはあるのですが、安く出しているからそれだけ飲みに来られても、ちょっと。だからSNSでは出さないでくださいね」
 
そう約束したので、店の名前は出さない。どこの街かも書かない。あまり人気がないと店が潰れてしまって困るが、人気が出すぎて飲みたかったボトルがなくなってしまうのも困る。その後Caol Ilaを頂く。大事な店なので、大事にまた来ないと、と誓う。