イチローズモルトの秩父蒸留所に行ってきた
金曜日の遅くまで赤羽で酒を飲んだが職業病(もしくは加齢のせい)で翌朝も早く目が覚める。コーヒー豆挽いてゆっくり朝食をとり、Facebookなど見て過ごす。
家人が起きだしてきて、一人の静かな時間は終わりだな、と思っていたらFacebook上に「秩父蒸留所見学ツアーにキャンセル出ました」との記事を発見。9時池袋駅東口集合、と書いてある。時計を見ると8時10分。ダッシュで身支度を整え、家を飛び出てタクシー捕まえたら30分ちょっとで池袋東口に到着。意外と近いじゃないの。
正直いわゆる「オフ会」的なものは得意ではない。だがこの手のものであれば人見知りでもなんとかなるかな、と思って参加。特急券が配られ、誰も知り合いがいない中で2人掛けの席を回転させて向かい合わせにして歓談。10時にもならないのに酒盛り開始。慌てて出てきたので私はボトルを持って来られなかったのだが。
車窓からは梅が咲いているのが見える。ウイスキー談義で盛り上がるが、まるでバーで隣り合わせたお客さんと話しているときのよう。あっという間に秩父に着いた、と書きたいところだが、レッドアロー号で2時間弱かかる。ということはいい感じ、もしくはそれ以上酔っぱらうということだ。
一度トイレに行って1号車のドアを開けたら、微かなフェノール臭が。
秩父に到着、懇親も兼ねてレストランでランチ。マチエールというところで鯛とホタテのグリルを戴いたのだが、大人数でのランチなのに手抜きのないきっちりした仕事で感銘を受けた。かつて秩父を訪問した時にはいい店見つけるのに苦労したのだが、ここは強くお勧めします。
食事を終えて、イチローズモルト肥土(「あくと」と読みます)社長にサインしていただくために地元の酒屋でDouble Distilleriesを購入。秩父だからイチローズモルトたくさん売ってたりすることはないらしい。
秩父駅からタクシー乗って約20分、4000円弱で秩父蒸留所に到着。予想通りではあるが、やはり小さくて驚く。ビジターセンターは試飲はさせてもらえるが、付属のカフェもなければ小売りは土産物だけでウイスキーは売っていない。
ツアーを案内してくれるブランドアンバサダーの吉川さんいわく、秩父蒸留所の年間9万リットルの生産量というのは、スコットランドの大きな蒸留所の2、3日の生産量程度だそうだ。麦の粉砕から糖化から発酵から蒸留から瓶詰からすべての工程が、小さな小学校の体育館程度の建物の中で一気に行われる。
まずは原料となる麦を食べてみる。素朴に旨い。そういえばマクビティースのビスケットってこんな感じだったかも。
一袋20kg。ここに置いてある160kgが一回当たりの仕込みの量だそうだ。
吉川さんが、粉砕した麦をハスク、グリッツ、フラワーに分ける工程を説明しているところ。小石が入っていたりするので手作業で取り除かないといけないそうだ。
大麦の絞りかすを取り出しているところ。牛の餌になる。
麦汁が仕込まれるマッシュタン。ミズナラの木肌に乳酸菌が住み着いていて、独特のフレーバーをもたらしてくれるそうだ。
マッシュタンの中では発酵が進む。
そして麦汁はポットスティルに送られる。秩父蒸留所はこの2基のみ。
吉川さんはすべての質問に即答できてびっくり。もともとはバーテンダーをやっていらっしゃったのだが、スコットランドの蒸留所でも働いたことがあるという。何とかイチローズモルトで働こうと名前を憶えてもらうために5年間クリスマスカード出し続けたり、断られると凹むのでいつ働かせてくださいと切り出そうかとタイミングを見計らったり、様々な苦労をしながら今の仕事にたどり着いたそうだ。
左側のウォッシュスティルで一度蒸溜されたものを右側のスピリットスティルで再溜し、出来上がったスピリッツのいい部分=ミドルカット(ハートとも呼ばれる)だけを熟成させる。
一番面白かったのは、どこからがハートなのかをスティルマンがノージング、すなわち自分の鼻だけで決める際の決め方。
写真はスティルマンの山岸さん。若い。最初に出てくるイヤな臭いってどんな感じか、という質問に答えているので、ちょっと渋い顔をしている。
実際に最初に出てくる部分とミドルカットが始まる部分の両方を嗅がせてもらった。
金属を舐めたときのような重苦しい臭いがきついのがヘッド、すなわち最初の部分。そしてフルーティーさが錆臭さを打ち負かしてミドルカットを始める部分。違いがよく分かった。面白い。
カットするときのスイッチの役目を果たすスピリットセーフはこんなカタチをしている。
そして第一貯蔵庫へ。
土の上に樽が直に置かれている。Makers MarkだのJim Beamだのと書かれたバーボンバレルや、シェリー樽など色んな種類があった。
そして樽工場へ。これまでは樽を海外から仕入れるだけだったのだが、自分たちでも作れるようにしようとしているそうだ。
新樽の内側に焦げ目をつけているところ。
そして第二、第三貯蔵庫を拝見したあと、ビジターセンターに戻って試飲。
上の中から5種類ほど飲んだが、面白かったのがニューポット。すなわちウイスキーになるまで熟成する前のスピリッツ。
Non Peated Concertoと書かれているものは、私にはミドルカットの前のヘッドのような臭いというか香りがしてちょっと厳しかったが、Heavily Peated Concertoと書かれている方は既に旨かった。
どこかで見たことあるような(?)絵も飾ってある。
そして肥土伊知郎社長と歓談して、サインを頂いたボトルがこちら。
自分たちで樽を作ることもそうだが、今度は秩父で作る大麦のみを使ってウイスキー作りたい、とか、これまではモルトスターから発芽、乾燥させた麦を買っているのを自分たちでフロアモルティングしてキルンで乾燥させる試みを始める、とか様々なチャレンジを試みているのがまさに株式会社ベンチャーウイスキーのベンチャーたるところだ。
正直、妙に人気が出ているので何となく手を出しづらかったイチローズモルトだが、ここまで細やかにウイスキー作りの作業をしているかと思うと頭が下がった。
祖父が始めた造り酒屋が行き詰まり、民事再生法が適用されて新しいスポンサーがウイスキー事業の引き取りを拒んだため、行き場のなくなった熟成原酒を決して無駄にしまいと奔走した肥土伊知郎社長の物語は、埼玉県のHPにある彩の国経営革新モデル企業事例集の一部としてこちらで読める。
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0803/documents/555851_1.pdf
帰りの電車でまた酒盛りが続く。突然決まった秩父蒸留所見学だが、楽しい大人の遠足だった。
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