東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

一期一会

久しぶりにバイクに乗って、久しぶりに盛大に転んだ。そしてあまりよく知らない土地で初めて会う人たちに親切にしてもらい、長い話をして別れ、初めての店で酒を飲んで家路についた。人生とは、などと大きく振りかぶるつもりもないが、一期一会、予想もつかない出来事というのはこういうことなんだな、ということを改めて思い知った。

土曜の午後、少し遅めの紅葉を見にバイクで塩原から日光へ。快晴だが風の強い東北道を下り、山に分け入っていくと空が暗く重くのしかかる。ヘルメットのシールドに水滴がつき、指先がどんどん冷たくなっていく、東京を出た時には予想していなかった展開。こんなところで転んだら電話も通じないしシャレにならない、と慎重に運転しているうちに水滴ではない白いものが降ってきた。

盛りは過ぎていたものの、広葉樹が完全に裸になっているようなところに突然燃えるような紅葉があってとても美しい。だがちらつく雪で視界が悪いうえ濡れた路面で転ばないのに必死で紅葉狩りを楽しむどころではない。日塩紅葉ラインに辿り着いて山を下りて来るうちに陽射しが出てきて路面も乾き、ようやく紅葉を楽しめるようになった。

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途中でバイクを降りて写真を撮ったりする余裕ができ、相当街に近づいたところでいきなりの転倒。自分でもびっくり。正直気が抜けていたのかもしれない。スピードは大して出ておらず、しっかりバイクを倒し込まないと曲がれない180度コーナーで若干乱暴にフロントブレーキの操作をしてしまい、乾燥はしていたがつるつるだった路面で前輪が滑って転んだ、というのが冷静になってからの分析。

不幸中の幸いはしっかりとしたプロテクターの入ったレザージャケットを着ていたのでほぼケガがなかったこと、対向車も後続車もいなかったこと。バイクのダメージは限定的だがクラッチレバーが折れてしまい、エンジンは掛かるものの自走不能に。

バイクを起こしていたら対向車線の車が止まって夫婦が降りてきて手伝ってくれる。保険会社に電話してレッカーを要請。1時間以上かかるという。オペレーターはマニュアル通りの丁寧さで対応してくれるものの、山の中の吹きさらしの路上から冷え切った体で電話している、というところまでは思いが至らない。電話をつなげたままでお待ちください、と言われたままずっと待たされ、少しでも日当たりがいいところに行かないと凍えてしまうので片手で携帯持ちながら坂道をバイクにまたがって下って行こうとしたら今度は立ちゴケ。バランスを崩して左足で踏ん張ろうと思ったらそこは溝。携帯が壊れたら万事休すだった。

そのかっこ悪い現場にツーリングの人たちが通りかかってまた助けてもらう。事情を話し、山を登ると雪が降っているので気を付けてください、と伝える。
件のオペレーターにレッカー到着までにバイクをどこに持っていくのか自分で探してください、レッカー車には同乗できないので自分で帰宅の足の手配をしてくださいと宿題を出される。

保険で無料対応なのは50㎞までのレッカーとのことだが最寄りのディーラーを調べたら一番近いところでも120㎞先。1㎞当たり500から600円程度レッカー代かかるので東京までだと10万円コース。バイクを買った店に電話で相談して、近くのバイク修理・販売店に片っ端から電話してみるものの「外車は扱ってません」「自分のところで売ったバイクしか面倒見ません」という答えしかなく途方に暮れる。

悪戦苦闘しているうちにあっという間に時間が経ち、レッカー車が到着。街から上がって来るのかと思ったら峠を下ってきたのと、車が載せられるぐらい大きなのが来たので少し驚く。20代前半から半ばに見える若いお兄さんが降りてきて事情を説明。名刺をいただき自己紹介され、「身体冷え切っているでしょう、レッカーの助手席座っといてください」と声を掛けられて言葉に甘える。結局行先もそのSさんが宇都宮の南海部品がいいですよ、と教えてくれる。後日ディーラーからクラッチレバーを南海部品に送ってもらって装着し、翌週末にでも電車で宇都宮まで来て東京までバイクで自走して帰ってくることに。

宇都宮までは本来無料の50㎞をわずかに超えるが、「ほんのちょっとだからいいですよ」と言ってくれ、本来ならレッカーには同乗できないことになっているけど南海部品まで乗せていってくれる、と言う。大きな駐車場に停まったのでどうしたのかな、と思ったら「体冷えて寒いでしょうから自動販売機であったかいもの買って飲んだらどうですか?」と言ってくれる。1時間半ほどトラックの中で話し、レッカーの仕事がどんな仕事なのか、峠はどの辺が危ないのか、先週末に新潟に抜ける峠道で動けなくなってしまった車を助けに行ったら積雪30㎝だったとか、サマータイヤでスキーに来る人を助けるのは仕事ながらアホらしい、とかいろんな話を聞いた。

S君は塩原の実家に住んでいて、私が若いころに乗りたかったS13シルビアを駆って峠でドリフトするのが楽しみらしい。だからレッカーの仕事もある意味仕事と趣味の両立のような感じだそうだ。でも全然ヤンキーっぽくなく、今どきの顔立ちの整った目のきれいな好青年だった。「僕らも地元だけど峠は一人では行きませんよ」。そう言われ少し反省。一人呑み、一人遊びが好きなのだから仕方がないのだが。

1時間半ほどで目的地に到着、遠慮するS君の手に心付けを無理やり握らせ、お礼を言って別れる。

宇都宮の駅までバスで出るともう7時過ぎ。家人も心配しているだろうと思い、「バイクにトラブル発生したので今まだ宇都宮、先に食事済ませといて」とLine。さすがに転んだとは言えない。

駅前の焼鳥屋で角ハイボールを飲みながら、今日出会った人たちはみんな親切だったことに想いを馳せる。バイクは傷つき、直すのにも物入りではあるものの、それよりも目に見えない得たものが大きかった気がした一日だった。