東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

余市蒸留所訪問

すすきのの朝は6時からまた電話会議。連休中だが仕事だから仕方ない。家人を起こさないようレンタカーの中から電話。駐車場に移動する間に創成川のほとりの桜が朝日に美しく照らされているのが観られて、早起きは三文の徳、と負け惜しみを言ってみた。
夜の続きの人たちが花見をしていて、若いってうらやましいなと改めて思う。

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朝食後チェックアウト、小樽へ。ゴールデンウイーク真っ只中なのに全く渋滞がない。さすが北海道。小樽の宿に車を止め余市へ。

小樽駅始発の二両編成のディーゼル車は乗車率100%超え、そのうちの半分ぐらいは余市で降りた。駅を出ると今にも降り出しそう、満開の桜を綺麗に見られたのが幸運だったことに気づく。負け惜しみでなく。駅を出ると国道越しに蒸留所が見える。エディンバラ城スターリング城とまでは言わないが、でもそういったものを思い起こさせる。言い方は悪いが昔は余市は何もない寒村だったに違いなく、こんなに威風堂々としたお城みたいな蒸留所ができた時は多くの人がわざわざ遠くから見に来るぐらいだったに違いない。

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宮城峡蒸留所は煉瓦を基調とした明るい近代的なイメージで少し「工場」感があるが、余市は石造りで歴史も相まって重厚、かつ威圧感がある。

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10時半からのガイド付きツアーをインターネットで予約済みで、20分前ぐらいに着き荷物を待合室のコインロッカーに入れようとしたら100円玉がない。受付で両替してもらおうと思ったが、「生憎両替はしておりません」と言われて一瞬しょんぼりするも、「ですが100円玉お貸しします」といって事務所から100円持ってきて貸してくれた。なんという神対応

ゴールデンウイーク中だったが工場は稼働しており麦汁の香りがあちらこちらでそこはかとなく匂う。一番見たかったのは蒸留。石炭でポットスティルを直火焚きしているのは世界でも珍しい。大量生産したいのであれば職人がシャベル使って石炭を手でくべる、なんてことはやるわけないのに、これだけウイスキーが売れてもまだ昔ながらの製造方法にこだわるニッカはすごい。

こちらは1号釜。ポットスティルには注連縄が巻かれている。またノーマルネックのストレート型で、様々な成分が含まれる力強いウイスキーが作られるのがわかる。

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8分に一度それぞれの釜に石炭くべるという。それも一日中なので相当な重労働。電車もディーゼル車もあるのに今どき蒸気機関車走らせているみたいなもので、職人さんはその機関助手みたいなものか。

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そして一番奥には再留釜が。石炭のせいで煤けているのがよくわかる。

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ガイドツアーは30人ぐらいの見学者を1人のガイドさんが引き連れて説明してくれる。「ウイスキー良く飲む方はこの中でどれぐらいいらっしゃいますか?」という質問に勢いよく手を挙げてみるものの、周りを見ると手を挙げたのは3人ぐらい。年齢的には50代以上の人がほとんど。ガチで蒸留所見に来た、というよりは朝ドラ効果と連休中ということもあって観光コースの一つ、という位置づけなのだろう。

ガイドさんが説明する「ニッカ」の名前の由来を聞いてみんな感心していた。改めて話を聞いて、ウイスキーの会社なのに自分達はジュースしか作っていなかったことを想起するような名前を付けたのもただ単にカタカナで外国製っぽい響きになるとかではなくウイスキーづくりに至るまでの苦労を忘れない、という思いが込められているのだろうと勝手に想像。

普段ハードリカー飲まない観光客に、蒸留所見学をきっかけにどんなに真面目にウイスキー作っているか見てもらって、トワイスアップやハイボールなど飲みやすくかつ旨さを引き出す飲み方を覚えてもらい、高くていいものを少しずつ消費してもらうようにするのが一番正しい企業戦略だと思うし、丹精に手間を掛けて本物を造りたかった竹鶴翁の遺志に沿っていると思う。そういう意味でこのガイドツアーはよくできている。

Rita Houseと名付けられた研究所。少し前まで実際に使われていたそうだが、冬は寒くて仕方なかったのではなかろうか。

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一番古い貯蔵庫。立派な札幌軟石でできている。ちなみに新しい貯蔵庫はモルタルづくりになっているものもあった。そもそも原酒は高価なもので、アルコールという危険物を扱う蒸留所で長い年月かけて熟成しているものが仮に火事で焼けてしまった、などということになると本当に会社が傾くことになるのでそれはそれは大切に扱われていたのだろう。

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中では実際に熟成が行われているそうだが、こんなに人の出入りが激しいところで貯蔵して大丈夫だろうか、と思う。宮城峡も同様だった。恐らく手前の方にある樽はなんちゃって、で本物は奥の方にしかないのかも。写真の樽が明るく映っているのはiPhone Xのカメラが優秀だからで、実際は結構暗い。

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ツアーはあまりマニアックなところにフォーカスしないので、後からもう一度見て回ろうと思っていたら大粒の雨が降り出してしまい、写真も思ったように撮れなかったのが残念。

まっさんとリタが住んでいた住居を移築してきた展示の中の以下の写真が印象に残った。若いころでショートカットの髪型のせいかこんなにボーイッシュであどけないリタの写真を見たは初めて。お歳を召してからの写真が多くかつ眼鏡掛けたり和服を着たりしているものが多かったからとても新鮮。政孝を信じて遠い日本にやってきて祖国が日本の交戦国になるなど様々な苦労を乗り越えたに違いない彼女のハートの強さが伝わってくるような写真。

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博物館にある蒸留所設立当時に輸入されたポットスティル、銅の一枚板を鍛造して作ったそうだ。こちらはランタンネック。

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そして髭のウイリアム・ローリー卿のステンドグラス。子供の頃このニッカのKing of Blendersと丸大ハムのコマーシャルで出てくる髭のおじさんは同一人物だと思っていた。昭和の話なので1980年代以降に生まれた方はスルーしてください。

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一号ウイスキーが飾ってある。意外と色は抜けていないのは着色なのだろうか。キャップもボトルもラベルも特徴的。間違いなく樽熟成、ニッカ蒸留所で特別に蒸留、瓶詰とのラベル表記(Guaranteed matured in wood, distilled & bottled specially by Nikka Distillery, Yoichi Hokkaido, Japan)。

f:id:KodomoGinko:20180512100613j:plainそして1時間ほどでガイドツアー終了。無料の試飲をいただく。余市ノンエイジ、スーパーニッカ、アップルワイン。トワイスアップとソーダ割などいろんな飲み方が楽しめる。

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壁側にあるおつまみの自動販売機で「枝豆ポリポリ」をぜひ買ってもらいたい。これが想像以上に美味しくてウイスキーに合う。無料試飲もう一ラウンド行きたくなるぐらい。騙されたと思って試してみてください。

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そしてウイスキー博物館内の有料試飲のバーに逆戻り。蒸留所限定のものや終売になっているものがかなり少なくなっている中で以下の二つをチョイス。シングルカスク余市は最近なかなか飲めない。15ml売り、つまり大匙1杯と書かれているが多分倍量ぐらい入れてもらっている気がする。

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そしてお楽しみのお買い物、宮城峡に続き今回も大人買い余市と書かれた蒸留所限定ボトル、Peaty & Salty、Woody & Vanillic、Sherry & Sweetは500mlで6600円と、通常の700mlボトル換算で1万円程度だからノンエイジにしてはかなりのお値段。そして有料試飲のバーで「鶴17年お願いします」と言ったら「鶴はノンエイジでも蒸留所以外ではもう終売ですよ」と言われたのでノンエイジの鶴も購入。こちらも12000円オーバーとなかなかのお値段。響のメローハーモニーとかを家で普通に飲んでいたころが懐かしい。

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山梨県の蒸留所見学の際、ガイドツアーのお姉さんは「お仕事」感の強いご案内だったけれど、ここ余市ではウイスキー造りに関わる人たちだけでなくゲストに接する人たちからウイスキーそのものやニッカ製品、ニッカの歴史に対する誇りと愛情のようなものが強く感じられてそれが伝わってきた。そもそも地元の人が地元の蒸留所のことをとても誇らしく思っていて、その人たちが働きに来ているからかもしれない。

余市蒸留所見学はマニアだけではなくウイスキー飲まなさそうな一般の人たちにとっても間口の広いとても効果的な企業PRだと思う。

ちなみに100円玉はちゃんと忘れずお返ししましたので、念のため。

 

 

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