居心地のいいバーの条件(の一つ)
久しぶりにお邪魔した新橋キャパドニック。前回ドアを開けた時はすべての席が埋まっていて、諦めて帰ったことをマスターは覚えていてくれた。2か月ぐらい前のことだっただろうか。
一杯目はGlenrothes20年、Caydenhead。最近高騰気味のシェリー系なのに気軽に気取らず飲めるのがいい。Rothesを飲むうちに、いつもの渋谷のバーでよくお話しするKさんが入ってきた。新橋でお会いするのは初めて。かつてたまたま「新橋で飲んでいた時に」という会話になり、「もしかしてキャパドニックさんですか?」「やっぱり」となったのでいつかお会いするかも、とは思っていたもののそれでも驚く。やはり趣味が似ているので、行きつけになる店も似たような店が多く、必然的に行動範囲が似てきてしまうのだろう。面白い。我々二人で好きな店の情報交換すればすごく有意義かもしれない。
そういえばAmazonで「オススメ」される商品も、ビッグデータ分析で私と同じような買い物している人が実際に購入したり高評価したものをジャンル問わず勧めてくるアルゴリズムだから、それと一緒。
二杯目は「トロピカルフルーツを拾えるボトル」というオーダーをして出てきたTeeling。どの辺から持ってきてくれるか、選んでもらっている間楽しみだった。バランスの良い佳酒。
そしてまだ飲んでいなかったLaphroaigの今年のアイラフェスティバルのボトルをいただく。
この店は適度な距離感と「押し込まれた感」がないところが気持ちいい。
バーにて「押し込まれる」というのはどういうことか、客の立場からちょっと説明させてほしい。よくある話だが、ちょっと(だけ)わかってるなこいつ、というような客が来て「こんな感じのをお願いします」と任されたときに、どのぐらいのものをいくらぐらいで出すか。店やバーテンダーが試される瞬間。売上のことを考えなければならない立場でもあり、純粋にいい酒出して客に喜んでもらいたい立場でもあり、そこのバランスは簡単ではないのだけれど。そこで「押し込んでくる」店とそうでない店がある。「押し込まれた」というのは客からしてみて勘定貰ってちょっとやられたな、とか自分の心の中の予算から大きく外れたな、と思う時。もちろん一杯ずつCash on Deliveryで払うわけではないから事後的にしか分からないけれど、大体これぐらいだろう、というのはまあある程度飲んでいるから分かる。そこから大きく外れていると「ああ、押し込まれたんだな」と思う。あるいは高くていい酒薦められて断れないようなシチュエーションを作られると。
誤解のないように言うと、好きなバーが潰れてしまったり、良くしてくれるバーテンダーがオーナーから言われている売上が達成できずにクビになってしまっても困るので売上に協力するのは全くもってやぶさかではない。でも初めての店やどうでもいい店で押し込まれると流石にまた来ようとは思わない。まあそれは自分の嗅覚が悪かった、ということで納得できる部分もあるけれど。
客として一番辛いのは、もう飲み足りたので本当は家に帰るべきなのだけど、あのバーにはしばらく寄っていないからあのバーテンダーさん元気か顔だけ見ていこうかな、と思って行ってみて「押し込まれた感」が出てしまう時。上から目線な言い方で恐縮だが、客の立場からすると良かれと思って行ったのにやっぱり行かなかった方がよかった、と後悔する展開になり、次回から足が向かなくなることも含め店にとっても客にとってもあまりいいことがない。すでに別の店で飲んできているのだからいい酒出さないと、と思ってくれているのだと思う(思いたい)が、とてももやもやした気分で家に帰ることになる。
いい酒には喜んで高い金を払う。だが安くて美味い酒も世の中にはたくさんある。ちょっと割高だけれども一度は飲んでおきたい酒もあるし、隠れた安ウマの酒を知っておきたいときもある。かっこつけたいときも、そうでないときも。手持ちがある時も、店に来る前にお金をたくさん使ってしまっているときも。
多くの言葉を交わさないでも、どういうシチュエーションなのか想像力を働かせてくれたり、言葉だけに頼らないコミュニケーションがうまくいくバーが居心地のいいバーなのだろう。酒の知識や作り方だけ勉強したらバーのカウンターに立てるわけではないということだから、なかなか難しい商売だ。人が酒を飲みに行くにはいろんな理由があり、その理由から外れない酒が出されたと客が感じた時に客は納得して金を払う、すなわち居心地よく感じる、ということなのかもしれない。
でも今ふと思ったが、新橋ではまだお店に自己紹介していなかった気がする。随分前から伺っているのでいまさら感あってちょっと照れる。もういい年したおっさんなのに。
【店頭】ハンターレイン OMC タリスカー [2009] 6年 シェリーホグスヘッド HL12095 FOR SHINANOYA
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