オチのない池袋での徘徊の記録
東京であまり縁のなかったところの一つ、池袋。Bar Nadurraさんにたまにお伺いするぐらい。何で来ないのかちょっと考えてみたが、私が必要とするもので池袋にしかないものがなかったからなのかも、というのが結論。だが最近その認識が間違っていることが分かった。蘭州料理が食べられる自宅から一番近いところが池袋なのだ。
ここしばらくツイッター眺めていると西川口の「ザムザムの泉」という蘭州ラーメンが美味いという情報がやたらと流れてきて、調べているうちに蘭州料理がどうしても食べてみたくなった。でも西川口はちょっと遠い。ザムザムと並んでよく名前の出る「火焔山」には池袋店があることが分かり、日曜の昼、私にとっての魔境池袋を目指すことに。
9月も半ばとは思えない酷暑の中、山手通りをランニングで北上、訳あり風の30代半ばの緊張気味の顔の男性が女性の手をやや引っ張り気味に歩いているのを横目に見ながらラブホテル街のど真ん中にあるサウナ「池袋プラザ」で汗を流し火焔山へ。日曜日の昼下がり、客は6分の入り。カウンターで隣になった人以外は全員中国語で話している。店員も中国の人なのだけど、「後ろ失礼しまーす」とか「ラーメンでーす」とかは日本語なのがおもしろい。日式サービスというのにバリューがあるのだろうか。
麺は細麺、平麺、三角麺の三種類から選べる。何も指定しないと「並」になります、と謎みがあることが書いてあるのだが恐らくデフォルトは細麺、ということらしい。折角なので珍しい三角麺を注文すると、店の奥で小麦粉の塊を叩いて伸ばしてねじって畳んで、というのが始まった。注文してから麺を作ると聞いていたがまさにその通り。2リットルのペットボトルと同じかそれ以上の小麦粉の塊を空中でうまく伸ばしてねじって折って、台で叩いて伸ばして、とやるのは見た目以上の重労働だろう。
麺から作るとそれなりの時間がかかるのは仕方ない。むしろ丁寧に作ってくれているので時間かけてくれて全然構わない。そして出てきたのがこちら。
調理場にいる男の人は全員ムスリムの人が被る刺繍の入った小さな白い帽子をかぶっている。麺の上にのっているのは叉焼ではなく当然牛肉、スープも牛肉ベース。意外とあっさりとした塩味、だけど独特のスパイスが奥に隠れている。辣油がかかっているがそれほど辛くない。しかしスープを飲んでいるうちに体の中からホカホカしてきて、せっかく運動して汗いっぱいかいてサウナに入ってさっぱりしたのにまたいい汗をかいてしまう。謎のスパイスの魔力。
ラーメン食べてて途中で麺を噛み切るということは基本しないのだが、ここの手打ち麺は長いのでどうしても噛み切らざるを得ない。でも麺はモチモチ、噛むときの感触が讃岐うどんを噛み切るときの感覚に近い。麺の表面から奥に入っていくにつれてより弾力を感じる、あの感覚。癖になるわ。
そしてクミンのようなスパイスがかかった羊の串焼き。これも旨い。あまり辛くなく、噛みしめると羊の脂と肉汁が渾然一体となって口内を満たす。
隣の中国人のお兄ちゃんが蘭州ラーメン食べながらなんか店員さんにお願いしているなあ、と思っていたら店員がニンニクまるっと持ってきた。ひとかけじゃなくて、ひと房まるまる。そして兄ちゃんはおもむろに皮をむき、生のままのニンニクをひとかけひとかけかじっていく。すげえ。
メニューの一番後ろにおつまみがあり、羊のモツや干し豆腐の和え物などやたらと魅力的。今回は諸事情によりビール飲めなくて極めて残念だったので今度リベンジ果たしてやる、と心に誓う。塩分と水分を欲する身体の欲望に素直に従いラーメンのスープまで完食、店を後に。
そして翌日、即行リベンジ。職場からは池袋は地下鉄で一本。再び池袋プラザでサウナ入って体調を整えてからの火焔山。羊のモツの和え物、ジャガイモのピリ辛和えと羊肉の串を一本、ハイボール。
初めて食べた羊のモツ。全然臭みがないコラーゲンの塊のような食感。麻辣味のタレ、パクチーと完璧なまでに合う。ハイボールが進む進む。
写真を撮り忘れたがジャガイモのピリ辛和えも旨かった。だが味付けが羊のモツとかぶっていたのと、頼んでから低糖質ダイエットしていたことを思い出して少しだけ。串は当然完食。つまみ一皿と串だけで良かったかも、と思いながらリベンジ完了。ラーメン食べなくても楽しいことが確認できた。
満足した腹を抱えながらどこへ行こうか一瞬悩み、歩いてすぐのジェイズバーへ。行ったことないバー行くの久しぶりかも、と思ったが最近赤坂のバーで塩対応されたばかりだった。
モルト侍は残念ながらいらっしゃらず、少し若いバーテンダーの方が相手をしてくれる。雨の月曜日の夜、ということもあり関西から出張で来て飛び込みで入ったと思しきおじさん二人連れがカウンターにいるのみ。カウンターの端に通されて何を頼むか少し思い悩む。厚岸のニューボーンを見つけ、自分でも買ったけど口開けしていなかったのでお願いする。
厚岸はニューポット特有の金属臭がわずかにするけれど、それが悪く働く手前でピートの香りがまろやかに包み込んで丸くなり、少し後を引く感覚が残る。もう少し瓶熟したらまた違う世界が開ける気がする。
次はシェリー系のお勧めをいただく。モルトマンGlen Keith、1998年蒸留19年。月が映り込む静かな夜の海を思わせる綺麗なシェリー。そして麦の香ばしさがしっかり感じられ甘みが後からやってくるバーボン樽熟成Glenlossie。こういうスタイルが一番好きだ。
カウンター4席分ぐらい離れたところに座っているおじさんたちが仕事の話にかこつけた悪口成分多目の人物評をやっているのが聞こえてきてしまう。そういうのは居酒屋でもどこでもできるけどモルトウイスキーはどこでも飲めるわけではないのでできれば他に行ってやってもらいたい。
あと何杯飲みますか、と聞かれ、2杯ぐらいですかね、と言ったらモルトヤマとのコラボのBen NevisとGlenglassaughが目の前に置かれる。Ben Nevisは芯の太いシェリーで味に厚みがあり、食後に甘いデザートをいただいているような気持ちになる。Glassaugh1974年蒸留37年は文句のつけようのないスムースさと上品さが枯れずに出ていて高貴な感じ。
5杯だけにしておこうかと思ったけれど、バーテンダーと話をしていたらもう一杯飲みたくなってしまってBraeval。最後に飲んでも力強い穀物感と甘み、アルコールの辛さがバランス良くて心地よい。
フラフラしながらお礼を言って辞去、駅前の中華食材店でよだれ鶏のタレを作るときのために粉トウガラシと花椒をそれぞれ一袋買って家路についた。都心で暮らして23年になるけれど、まだまだ知らない場所が多いことに改めて気が付いた。
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