東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

福岡Bar Kitchen、サウナでととのって佐賀へ

バーテンダーに初めて自然にお酒を奢れるようになった時は「自分も大人になったなあ」という気がしたが、最近サウナの仮眠室に初めて泊まって「俺もおっさんになったなあ」と改めて実感。日本のサウナ界の聖地のひとつ、ずっと行きたかった福岡のウェルビーというサウナにて。

今でも若干そうだが神経質なところがあって、知らないおっさんがいびきかいている横で寝ることなんて昔は想像できなかった。もちろん耳栓とアイマスクはしたけれど。

早朝、個性的ないびきがいろんなところから聞こえてくる仮眠室を抜け出し、サウナの中で普段はほとんど見ないテレビを見る。俳優の奥田瑛二若手俳優二人と酒飲みながらトークする、という日曜の朝7時にふさわしいとは思えない番組をやっていた。

若手のうちの一人は苦労人で映画出身、もう一人はイケメン俳優でトレンディドラマ系。映画出身の二人はテレビと映画が同じ演技する場とはいえあたかも別の惑星のように違う、という話をイケメンにする。イケメン俳優はテレビドラマの撮影で監督から罵倒された経験などないのだろう。映画の世界ではそれは日常茶飯事のようだ。

苦労人の若手(とはいえ後で調べたら40代、井浦新という人だった)は、師匠と仰ぐ若松孝二監督とのエピソードとして、「お前のしょうもないプライドやこだわりなんか全部捨てて、来た役は選ばずに全部やるんだよ」と言われた、という話をしていた。奥田瑛二も「それは大切なことだ」と相槌を打つ。だが二人そろって「傷つくけどね…」と顔を見合わせて苦笑い。

それを見ながら、自分のつまらないこだわりや好き嫌い、それも食わず嫌いも多く、のせいで本来自分が出会うはずだったものを自分から遠ざけて自分の人生をよりつまらないものにしてしまっているかも、と思い至る。

バーに入って、酒というとてつもなく広くて深い大海に較べるとその一滴にも満たない自分の知っている酒の中から「好きなもの」を頼んでもいいが、その大海の中で自分を待ってくれているかもしれない、今の自分がまだ知らないものを新たに知る方がいいに決まっている。

そんなことを旅の途中にサウナで考えていたらのぼせてきて、ウェルビー名物水温8度の水風呂にざんぶりと浸かる。手先足先、体中の末端がびりびり痺れる。前の日の夜中まで摂取したアルコールが抜けていく。

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前の晩に訪れたのは天神のBar Kitchenさん。秋の月夜にドアが開け放たれていて気持ちのいい風が吹き込む。東京だと中々ない。

バックバーが圧巻。3000本ぐらいあるのでは。イチローモルトのカードシリーズの空き瓶が一番上の棚にずらっと並んでいて壮観。
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銀杏の一枚板のバーカウンターは15メートルぐらいあるかもしれない。オーナーバーテンダーの岡さんからいろんな話を伺いながらグラスを傾ける。
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Elgin、Benriach、Tobermory、Laghroaig、Kilchoman。なかなかいい流れだった。いろんなウイスキー飲みたがるのは県外の人か外国人が多いそうだ。

福岡人にとってのソフトバンクホークスとは、とか、ご自身のプライベートの話などを伺っているうちに明日どこに行くべきかという話になり、佐賀の金立公園でコスモス祭りをやっていて満開で綺麗なはずだ、と教えてもらう。

礼を言って辞去し、サウナでまた一歩おっさんへの階段を上った。さあ、今日はどうしよう。やはり人が勧めてくれるものを素直に受け取ろう。そう考えクルマで佐賀を目指す。

稲穂がたわわに実って黄金色に光っているのを見ると、黄金の国ジパングというのもあながち間違っていないなと思う。美しい日本の風景で誇らしい。

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金立公園はコスモスが満開だった。真っ青な空と緑濃い山と淡い色のコスモスのコントラストが素敵。蛍の頃も来てみたい。

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佐賀市は何もないと思われがちだし実際唐津の方が楽しかった過去の記憶があるが、今回改めてゆっくり歩いてみると相当楽しかった。

松濤鍋島公園が近所にあったり今右衛門窯の磁器が好きで家にあったりするのでそもそも佐賀のお殿様には勝手に親近感を持っていたのだが、初めて徴古館という鍋島家の宝物を展示してあるところを訪問して感銘を受ける。
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鹿鳴館時代の小紋柄の和服から作ったイブニングドレス明治天皇ご下賜の花瓶一対、とても上品な透かしの入った鶴と亀の縁起物が描かれた花瓶一対など、ずっと見ていてぜんぜん飽きない(リンクを一度クリックしてみることを強くお勧めします)。特に明治天皇ご下賜の花瓶は、明治維新のため前田家という最大のスポンサーを失ってすたれてしまった金沢銅器の象嵌技術が見られるとても貴重な品。銀が輝いていた頃もさぞかし立派だったに違いないが、黒錆をまとった今の姿も渋く味わい深い。自分がこういう細かい手仕事がされている古いものを見るのが好きなことに改めて気が付いた。

そのあと、徴古館の受付の方に勧めていただいた肥前通仙亭、というところまでふらふら歩き、煎茶と生菓子をいただいた。古い街では必ずと言っていいほど美味しいお茶と和菓子がいただける。ハズレを引くことはあまりないので探してみることをお勧めする。
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三煎目が終わったところで茶葉を取り出して濃い目の昆布出汁をかけてお茶っぱを食べてみてください、とのこと。下の写真は出汁を茶葉に掛けたところ。全然苦くなくむしろ爽やかで、お茶と昆布の二つの旨味成分が口の中で渾然一体となって広がる。こういうのも、勧めてもらわないと知りようがない初めての素敵な体験。
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佐賀の街はところどころで時計が昭和のまま止まってしまったような光景が見られる。 

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何か目に見えないものに導かれたかのようだった秋の一人旅はしみじみと楽しかった。地味なイメージのある佐賀は実は魅力的なところ。松雪泰子も牧瀬理穂も佐賀出身、ぜひ行ってみてください。

 

 

 

 

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