東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

松本のバー摩幌美に再訪して私の2019年が終わる

またしてもふらっと旅に出た。ウイスキー好きの聖地のひとつ、バー摩幌美のある松本へ日帰りの旅。

前回摩幌美にお伺いしたのは11月、We Love Expediaにて「ウイスキーを巡る東京からの小旅行」というお題で記事を書かせていただいた時。しかしその時からずっと心に引っかかっていたことが。記事で人さまにお店をお薦めしたのに、取材だったので自腹では飲んでいなかったのだ。その上無理言って取材許可をいただいたにも関わらず、オーナーバーテンダーの堀内さんと奥様には初めてお伺いしたのに大変良くして頂いた。それなのに裏を返せていないというのもあり、順序は逆になってしまったが何とか年内に再訪して自分の金で飲むのが今回のミッション。

バスタ新宿から10時55分のバス。電車だと東京行き最終が20時10分と早い。ノイキャンヘッドフォンして低周波ノイズをカットするとバスも快適。安住紳一郎の日曜天国の2019年総集編をニヤニヤしながら聞きつつ弁当食べて、ちょっとうとうとしているうちに昼過ぎの松本に着いた。中央道は年末なのになぜか全く渋滞がなかった。所要時間3時間、片道3800円。

お店は19時半からなので、前回は慌ただしすぎて見られなかった国宝松本城へ。江戸時代から残る天守閣は全国にたった12、そのうちの5城が国宝でそのうちの一つ。サイレンスバーのある丸亀と摩幌美のある松本の両方に江戸時代からの天守閣があるというのはどういう偶然か。松本城は学生の頃以来で改めて天守閣に登ってみたいと思っていたのだが、とても残念なことに中には入れなかった。お役所の御用納めとともに年内は閉まっているらしい。書き入れ時なのに。

松本の気温は5℃。日が隠れるとさすがに寒い。だが運よくお日様が顔を出し、雪つりされた松と雪を頂くアルプスと松本城、という写真が綺麗に撮れた。
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開智学校も閉まっていて中には入れなかった。色付きのガラスが見たかったのに。
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洋館なのに玄関の上には鳳凰像や仏像の雲座のような模様があって面白い。
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お城の裏にある開智学校からまた戻ってきて写真を撮った。
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松本の街もなんだか面白い。

謎の自転車屋
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謎の小道。「ファミリーパブ ナワテ横丁」。
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横丁入口にある彗星倶楽部、というお店が渋かった。大抵のところは怖気なく入るけれど、なかなか入りづらい店構え。後から知ったが両腕にタトゥーを入れたお姉さんが有名なのだそうだ。外から見えたらさらに入りにくくなったかもしれない。
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ぐるぐる歩いているうちに体が冷えてきて、蕎麦でも食べて温まろうかと思ったが夕方に開いている蕎麦屋が見つからず、結局5時過ぎに居酒屋「まるか」さんへ。

臭みが全くない馬刺しは薬味なしで全然オッケー。本番に備えて肝臓の無駄遣いは禁物だとは知りつつも寒いので麦焼酎のお湯割りやお酒を飲んでしまう。おでんもカキフライもおいしく、親戚のおじさんおばさんの家でご馳走になっているかのような居心地の良い店だった。

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それでもまだ時間があり、酔いも冷ましたかったのでひとっ風呂浴びることに。銭湯は好きなのでそれなりの数を訪れたが、その中でも秀逸、かなりの風情。

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番台のある銭湯は久しぶり。カーテンの奥、ちょうど男湯と女湯の間におばさんが座っている。大人400円は東京の470円と比べるとえらく安い。タオルとシャンプーリンスセットを買う。長野だけに御嶽海の優勝の額のポスターがあるのもまた渋い。
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思ったほど熱いお湯ではなかったが、塩化物鉱泉で湯冷めしにくくずっとポカポカしていた。壁画は富士山、ではなくてモダンなデザインのタイル張りでちょっと意外感があった。いいお風呂。ひとっ風呂浴びてからバーに行かれるなんて最高だ。


塩井の湯を出るとさすが松本、底冷えする寒さで耳は冷たいけれど、暖まった体がポカポカして幸福感に満たされ、すっかり暗くなった街を歩く足取りが心なしか軽い。おそらく色街だったであろう寂れたあたりをふらふらと歩き、少し年末の雰囲気のある飲み屋街を冷やかしながら摩幌美へ。

最終の21時のバスで帰る予定だったので、19時半の開店から90分一本勝負。
風呂で暖めた身体もそろそろ冷え始めてきた。普段の生活の中で起きる最も残念なことの一つは、サウナや銭湯入った直後に入ったバーのタバコの煙がきつくてせっかく綺麗になった体や髪の毛がタバコの匂いがつくことだが、摩幌美は禁煙なのでありがたい。

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寒い街ならではの二重になっているドアを開け、堀内さんと奥様に過日お世話になったお礼を申し上げた。お二人ともお変わりない。事情をお伝えしてあったので、本来の開店時間より少しだけ早くお店に入れていただけてお気遣いがありがたかった。

お店の開店当時、つまり40年以上前から使われているカウンターと椅子に落ち着き、最初にいただいたのはロイヤルブラックラの1970年蒸留、16年。ゼニスが詰めたもの。およそ半世紀前に蒸留された酒だが57°ということもありとても状態が良い。こういう麦感のあるのを飲みたかった。
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そして閉鎖蒸留所の研究家である堀内さんに最近グレンガイル蒸留所のことについて調べました、というお話をしながらスプリングバンクをいただく。彼はグレンガイル蒸留所3周年記念のパーティーに東洋人として唯一招待されるぐらいスプリングバンク蒸留所と関係が深い方だ。ベンウィームス蒸留所の話がスラスラできる人も世界広しといえどもそんなにいないだろう。

 

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キャンベルタウンの街の歴史とその隆盛について教えていただきながらスプリングバンクを飲む経験ができるバーもなかなか珍しい。

前回伺った時は私にとって初訪問の上に初めての取材ということもあって緊張していたが、今回はただ自分が楽しむために飲む。当然その方が気楽で落ち着ける。
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カウンターに座ってじっと黙ってウイスキーを味わうことに没頭して終わるお店もあるけれど、開店して1時間ほどずっと堀内さんとお話ししながら飲むのが楽しかった。ロッホナガーを飲みながら今のロイヤルファミリーのお話を伺う。気持ちのお若い、サービス精神の強い方だなあと改めて感じ、41年もお店が続いている理由の一つが分かった気がした。
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今回いただいた中で一番好みだったのはこのオーヘントッシャン
オールドの加水は抜けてしまったりひねてしまったりするものもそこそこあるけれど、松本の気候もあってかどれもとても状態が良く、「昔のウイスキーは旨かった」という人たちに向かって「あなたたちが当時飲んでいたのと変わらない、もしくはそれより状態のいいものを飲んだことがあります」と胸張って言えそうな気がする。
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そして〆はこの95アラン。前回飲んでこれまで飲んだアランとは全然異なり軽やかでフルーティでソプラノ歌手のようで深く感銘を受けたものを再び頂く。
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私の後にお店に入ってきた20代前半と思しき男性二人は、安曇野出身だけれど横浜に今住んでいて、白楽にあるバーラディで摩幌美の周年ボトル見たので一度長野に帰省した時に来てみたかった、と言っていた。

堀内さんが彼らにお薦めしたボトルの一つが摩幌美の周年ボトル、イチローモルトのブレンディッド。

東京や横浜の普通のバーでは倍の値段でも飲めないと思うし、将来「あの時あの店であれ飲んどいてほんとよかったー」ってきっと思うだろうから間違いなくそれ注文した方がいいよー、とついカウンターから後ろのテーブルに座っている若者に向かって余計な老害発言をしそうになり、思いとどまる。
お店の方に一杯ごちそうすることができるようになった時は自分も大人になったなあ、と思ったが、さすがにカウンターの隣にいるわけでもなく一言も話もしていない見ず知らずの人の初めの一杯を突然ごちそうするのもどうかと思いそれも差し控えた。

せっかく横浜の名店でウイスキーを知って松本の名店に来ているわけで、ウイスキーにがっつりはまってくれる上手いきっかけができればいいな、という単純な老婆心なのだけれど。

そしてタイムリミットが近づき、お勘定をいただいて改めてのお礼と年末のご挨拶をして辞去。松本バスターミナルまで歩き、最終の新宿行き高速バスの出発5分前に3列目の窓際の席に座る。

ゆるゆるとバスが動き始め、暗闇の中で後方に流れていく信州の景色を眺めているうちに一年が終わる実感がようやく湧いてきた。去年は全くの他人だった人たちと今年たくさん知り合うことができた、と思い改めてさまざまな機会をいただいたことに感謝した。そしてお世話になった方に自分が納得いく形でちゃんと裏が返せてよかった。

はてなブログ編集部のMさんからお声がけいただいて書く機会を頂戴したウェブ原稿はとっくに納品・掲載済みなのだけれど、摩幌美を再訪できた今晩をもって私の中ではようやくミッションコンプリートとなった。さようなら、私の2019年。


 

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