東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

ニッカ宮城峡は日本のウイスキーの将来を救えるか(もしくは酔っ払いの杞憂)

寝ていたら携帯が鳴った。夜半、中学、高校時代からの友人からの電話。急ぎの用とも思えなかったので、悪いが後にしてくれい、と呟いて目をつぶる。

 

翌朝留守電を聞くと、「9月に出たばっかりの宮城峡ノンエイジ、めっちゃ旨いからファーストロットを箱で買っとけ」という謎のメッセージfrom大阪。

 

爆睡中の疲れた中年サラリーマンをわざわざ起こすほどの内容とはとても思えないが、友からの電話はありがたい。しかしそもそも初期出荷分じゃなくてもずっと同じ味のはず、味変わったらブレンダーいる意味がない。どうやらファーストロットは一番気合い入れて作っているはず、というどこぞのバーテンダーからのご託宣があったのかもしれない。

 

機会があればどこかで試そう、と思っているうちに10月も半ばを越えた。京都に出張に出た時に寺町サンボアで飲めるか、と思ったら残念なことに定休日。それでは、と木屋町サンボアに初めて行って頼んだら、ノンエイジが出た代わりに10年がなくなるからせっかくなので10年どうぞ、と言われ、まあいいか、と思ってそれを飲み、鶴17年を飲む。

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こういっては怒られるかもしれないが、サントリーと比べてニッカのボトルのデザインは鈍臭いところもあって、品質で勝負すれば見た目は気にしない、という意味でスコットランド魂をより濃く引き継いでいるのはニッカのほうかも知れない。響のボトルはきらきらしていて女の子の部屋にあってもおかしくない気もするが、鶴のボトルが置いてあったらその女の子の顔を二度見してしまうかもしれない。というか女の子の部屋にはもう呼ばれないはずのでそんな心配をする必要はないのだが。鶴、という書は2代目の竹鶴威さんの筆によるものだそうだ。

 

日本のウイスキーに対する世界的な再評価の機運の高まりと同時に国内でもウイスキーへの関心が集まったという点で、朝の連続テレビ小説には一人のウイスキー好きとして感謝しなければならないのかも知れない。見たことないけど。

日本代表の活躍でラグビーのにわかファンが増えたという人もいるが、子供がテレビで見てラガーを志す、など見えない効果は少なくないと思う。ウイスキーブームも長期的には悪いことではないのかもしれない。しかしモルトウイスキーは急激に需要が高まっても、5年から10年前に蒸留した量以上には絶対に生産できない。今急に売れ出したからと言ってすぐに作れるものではないのだ。

 

だから急激に増えた需要にこたえるため、「宮城峡10年」ではなく「宮城峡」になった、すなわち蒸留してから10年経たない原酒を製品化したり(山崎も白州もそうですが)、グレーンウイスキーの新製品(知多)を作ったりしているのだ(ろう)。

 

こう書くと宮城峡ノンエイジが適当に作ったもののように聞こえるかもしれないが、先日渋谷のCaol Ilaで初めて試すことができ、その旨さに感嘆した。宮城峡飲んで、The Warehouse CollectionのMortlach1996年の18年もの、オロロソシェリーカスクとGlen Grantのオールドを飲んだが、決して宮城峡が力負けするということはなかった。4000円出せばこれが買えるのであれば、無理してスコットランドのものを飲まなくてもしばらくはこれで楽しめるし、ウイスキーって旨いものだと初めて知る人たちも増えるだろう。f:id:KodomoGinko:20151018100624j:image

どれぐらいマッサンブームのインパクトがあったかちょっと気になって、ニッカの親会社のアサヒグループホールディングスディスクロージャーから、洋酒セグメントの売上を引っ張ってきてまとめてみた(筆者調べ、単位億円)。

マッサンの放映が始まったのが2014年9月末だから実質2014年第四四半期から(アサヒグループホールディングスは12月末決算)。終わったのが2015年3月末(=2015年第一四半期)。2013年第四四半期からジャック・ダニエルなどを新規に販売し始めたため四半期売上が100億円を突破しているが、マッサン放映中の2014年第四四半期は150億円以上と、尋常じゃない数字になっている。毎年第一四半期、すなわち1-3月期は季節的に売上が落ちる傾向が見て取れるのに2015年は130億円超え、と物凄い数字になっている。

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相撲中継で懸賞の幕が土俵に上がると音声もOff、画面もズームアウトするくせに半年も毎朝15分間アサヒビールの売上に絶大な貢献をしたコンテンツを放映する日本放送協会ってのは本当に不思議なところだ。

売れること自体は悪いことではないのだが、需要に対応するために今から蒸留所を24時間フル稼働させても、ボトルに詰められて飲まれるのは早くて5年後、普通は10年後。過去にArdbegなど80年代に閉鎖に追いやられたのも、70年代のスコッチブームの反動だったとアイラ島で説明を受けた記憶がある。

5年、あるいは10年後にウイスキーブームが持続しているかわからないのに、今一生懸命設備投資して増産するのはかなりハイリスクのように思える。そう考えると、ノンエイジの宮城峡で当面の需要をこなしながら、過剰な設備投資と粗製乱造をすることなく長期的な視点で品質を保っていってくれればいいと思う。一時的なブームは経営を無駄に不安定化させるだけで、5年後、10年後にもウイスキーを選ぶ飲み手をどれだけ増やせるかが会社の命運、あるいは日本のウイスキーの将来を賭けた本当の意味での勝負になってくる。

 

そういう意味で、比較的若い原酒を使いながらも旨いノンエイジを作り出したニッカという会社はすごい。良心的な価格で息の永い商品を作って、徐々に飲み手のすそ野を広げ、10年、15年後に彼らがまたウイスキーを選んでくれる、という理想の展開になればと毎晩応援しながら酔っぱらって寝ます。

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