東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

中野 Bar Esterにて

中野という街は、私の住むところからそれほど遠くはないのだが不思議とこれまであまり縁がなかった。

サンプラザ中野で、30年前熱狂的に好きだったギタリストが老いたとはいえまだ健在だったことを確認し、公演後居酒屋に入ったら店の中はまさにさきほど同じコンサートから出てきた中年の善男善女ばかりで、「昔ヘビメタ好きだった人たちは魚の旨い昭和の匂いのする居酒屋に集う年齢になったのだな」と変な感銘を受けた。
外国人観光客もたくさん集まるようになったと聞いた中野ブロードウェイを、週末の午後家族で冷やかしに行き、ダンジョンのような、あるいは大型のビレバンのような猥雑な建物と一部のマニアックな人たちが意図せず発する圧倒的な熱量のようなものでお腹が一杯になった。

私の中野体験というとこれぐらいのものだ。

だが最近、雨のしのつく平日の仕事帰りに中野サンロードからブロードウェイを抜けて早稲田通りを越えて新井薬師のほうに歩く機会があった。最近感度が悪くなっていたわたしの中の好奇心の受信機が、夜の中野の裏道が放つ波長を受けて激しく反応する。下北沢とも渋谷とも歌舞伎町とも違う、集積度の高い飲み屋街がそこにあった。所用のせいで再来を誓って帰宅。

そして昨日、満を持して再訪。自宅から軽く7㎞ほどジョギング。前回来て目をつけていた新井薬師に向かう商店街の中の天然温泉の銭湯、ことぶき湯に浸かって汗を流す。最近訪れた銭湯の中では最も混んでいて、湯船に浸かるのに少し待たなければならないほど。東京の温泉というと黒湯のイメージがあるのだが、ここは透明な柔らかいお湯。でも水道との違いは正直分からない。

中野ブロードウェイの東側にあるいい意味でぐだぐだに店が広がる夜の街角に気になるバーを見つけた。闇に沈む色に塗られた店とMalt Bar Esterと書かれた看板。屈まないと入れない控え目な引き戸の窓からこぼれる光に惹かれて入ってみる。

5、6名ほどしか入れなさそうなカウンターだけの小さな店に先客が一人。カウンターの中には2人は立てないだろう。圧巻のバックバー。ビンテージのボトルのみ。こういうところは一杯目を頼むのが難しい。最近好きなLinkwoodが目に入ったが、Rare Maltsの22年。一杯目にしてはかなりのフルスイングだとは思いながらもお願いする。
1972年の蒸留。私よりも1歳若い。もうすぐ半世紀が経とうとするぐらいのビンテージなのに全く枯れておらず力強い。そんなウイスキーがBaccaratの脚の長いグラスで出てくる。

先客が帰ったので客は私だけになり、お店の方とたわいのない会話が始まる。一昨日に京都の千ひろでいただいた食事が素晴らしかったこと。バックバーはネットのオークションではなくオールド専門の酒屋から仕入れていること。ネットオークションだと偽物が多くて、お客さんがイタリアから買った1950年のTaliskerが偽物だったこと。でも黙って飲むと違う蒸留所でも古いビンテージの原酒を使っているのでそれなりに旨いこと。などなど。

そんな話をしていると立ち飲み屋から流れてきたというやや酔っ払い気味の二人連れがご来店されて静かな会話はいったん終了。現行のボトルをほとんど置いていない店なのでウイスキーに詳しくない人が限られた知識の中でオーダーしようとすると結構大変。一杯の値段と好きな感じを伝えてお店に任せるのが得策なのだろう。

よく行く渋谷の店も、かなりハードコアなモルトバーなのにもかかわらず場所柄「どんな感じのお酒が好きですか?」と聞かれて「ウイスキーみたいな強い酒『以外』だったらたいてい好きです」的な答えをするカップルも割と来店し、そんな客にも嫌な顔一つせず美味しいカクテルを作って出すのだが、こちらの店も雰囲気に惹かれてウォークインで予備知識なく入ってくる人が結構いるかも。でもおそらくカクテルは作ってもらえない。

その後、偽物のTalisker1950年、というのを少し舐めさせていただいた。やはりTalisker独特のクレゾール臭がするので飲み比べたことのない人間からすると本物の気がする。そしてスペイサイドのバーボン樽熟成のお勧め、といういつものリクエスト。Benriachのオールドの10年を何本かの中から選び、完成度の高さに驚く。
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自家製のおつまみをいただきながら、カウンターに置いてあるSpringbankの丸くてずんぐりした陶器でできたボトルが気になる。オールドのものはベリー系の香りがするらしい。それもラズベリーではなくストロベリーのような甘い香り。そんな話を聞いていたらまた少しだけ味見をさせていただいた。確かにいちごのように甘いエステル臭。世の中にSpringbankのマニアの人がいるのも納得。だが私の好みはDaluaine、Glen Elgin、Capadonich、Mortlachなどで、幸いなことに値段がそれほど上がっていない蒸留所のもの。

そしてMaltmanのMortlach13年をお願いして〆とした。いい感じでパフューミーで旨い。Hart Brothersの22年を少しだけ飲み比べさせていただいたが、22年はパフューミー過ぎてちょっときつかった。今日のハイライトはオールドのBenriach。最近流行っているBenriachだが、昔のオフィシャル10年という基本のキがあそこまで旨いとは、と感心した。お勘定は3杯飲んで諭吉が2人いなくなって漱石が1人帰ってきた。まあそんなものだろう。
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気が付いたら真夜中近くなり、酔っぱらって走って帰るわけにもいかないので中野駅から新宿に出て、春の宵に咲くツツジを愛でながら歩いて帰宅。ツツジは桜などと比べて圧倒的に過小評価されているけれど、東京の街によく似合うとても美しい花だと思う。

 

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