東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

中野 South Parkにて、あるいは初めて訪れるバーに期待すること

先日、中野飲みを敢行するため久しぶりに東西線に乗った。いつも乗っている丸ノ内線とは全然雰囲気が違う。銀座にて仕事帰りに食事したり買い物したり、あるいはそのあとから仕事が始まる女性たちのおかげかかなり雰囲気が華やかな路線に比べ、東西線は車両が古かったせいか照明がなんとなく薄暗く、車内の空気の成分の2割ぐらいはサラリーマンの溜息でできているのではなかろうかという気がした。


猥雑な北口をすこしふらついて、駅からさほど離れていない魚の旨そうな居酒屋へ。微妙な高級感のあるしつらえで、箱がでかい。谷中の新生姜、空豆、シャコ、焼き地ハマグリなどをお願いする。隣では金目の煮つけの大きな皿をつつきながら一人で飲んでいる人がいる。ある意味粋。一皿1000円を超えるものがあるなど中野にしてはハイエンドだが、結局二人で飲んで食べて5000円ほど。クオリティを考えると安い。そしてもう一軒焼鳥屋へ。


おそらく中野は日本一の焼鳥屋密度が高い街だろう。感覚的には5分歩けば20軒以上の焼鳥屋を見つけられる気がする。そして大抵の店は混んでいる。昔の秋葉原と一緒で、「あの店ダメだったらこの店行ってみよう」ということでお互いに補完しているのかもしれない。何軒か覗いてみたがなかなか入れず、しばらく散歩がてら夜風に吹かれつつ店を見つけ、ハイボール飲みながらつくねや皮、レバーなど。ここにも1時間ほどいたがお勘定は4000円ちょっと。2軒回って酔っぱらってお腹もいっぱいになったが一人5000円しなかった。東京の真ん中ではこうはいかない。

飲み終わって私一人で以前から気になっていたSouth Parkというバーへ。松本清張の「砂の器」の蒲田操車場を思い起こさせる暗くて少し寂しい線路横を歩き、紅葉山公園の坂を下った交差点の近くのビルの地下。公園の南だからSouth Parkなのか、あのシュールなアニメから名付けたのか。

店に入ると、思ったよりも広いことに驚く。20人くらい並べるのではないかというカウンターがあり、バックバーもその分大きく、圧巻の数のボトルが並ぶ。そしてカウンターにはCadenheadの黒いラベルのSmall Badgeシリーズと金ラベルのSingle Caskシリーズの角ボトルが二重にずらっと置かれている。カウンターは広くてボトルが二重におかれていても、酒飲みが圧迫感を覚えることはない。

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先客は私の左右に一人ずつ、そして大分離れたところにカップルが。左の人は立ちながら飲んでいて、おそらく私と同様に腰痛持ちなのだろう。親近感が湧く。

日本人離れした上背の一見いかつく見えるスキンヘッドのバーマンが、丁寧にオーダーをとってくれる。ハイランドのバーボン樽のものでお勧めがあれば、とお願いしたら、どこの蒸留所のものを飲んだことがありますか、と聞かれた。結構いろいろ飲みました、と答えると、Teaninichの27年、Bladnoch Distillery Forum向けボトリングを持ってきてくれた。

初めてのバーだとコミュニケーションが少し難しい。席に通されてさてどうしましょうか、というのを上手い感じで言って頂けるとこちらも頼みやすい。常連客の相手をしていてこちらに振らなかったり、店が客を試すような注文の取り方をする店はたまにあるが、そういう店に再び行くことは結果としてあまりない。


大抵わたしから「この地域のこんな感じのものでお勧めを何本か持ってきてください」とお願いし、バーマンがどんなものを持ってきてくれるのかでまず店の雰囲気を探る。そしてバーマンはそれらのボトルを紹介しながら、こちらが何を言いながらどれを選ぶのかを見て客の雰囲気を探っている。

初めてのお店に、あるいはすべてのバーもしくはバーマンに期待していることは、こちらのストライクゾーンを広げてくれる、あるいはこれまで試していなかった超ストライクの球を見繕って投げてくれるかどうか。

ちょっと変な喩えで言うなら、スタイリストにお任せして髪の毛をカットしてもらって、自分だとこのような髪型にしてくれ、とは思いつかなかったけれど、鏡をよく見ると実は意外と自分によく似合っていた、あるいは、最初はなんだかなあと思ったけれど次の日周りの人から「その髪型とってもよく似合っているよ」と言われた、そんなような仕事をしてくれるスタイリストと巡り会えると、とても嬉しい。

それと同様に、見ず知らずの他人同士なのにもかかわらず、わずかばかりのコミュニケーションの中からこちらの好みを見抜いてくれて、それに合う私の知らないもの、そして飲んでみたら感激してしまうようなものを提案してくれるバーマンと巡り会えるのは酒吞み冥利に尽きる。

そんな店のストックを広げるために、初めての店のドアを開く。

持ってきてもらったTeaninichは初めて飲む。こんな蒸留所があったんだ、と嬉しい驚きがあった。まだまだ飲んだことがない蒸留所は残っていることは、むしろ嬉しいことだ。全蒸留所を征服するという目的のためだけに急いで飲むよりも、今後時間をかけて自分の好みの酒を見つけていく楽しみを温存したい。

2杯目はCadenheadから。Cadenだけのメニューというかカタログがあり、おそらく200種類は下らないだろうというコレクション。その中で大好きな蒸留所のひとつであるDailuaineを選ぶ。これも間違いのない選択だった。

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そして3杯目はElginかBurgieかでお勧めがあれば、とお願いして出てきたGreen Elgin。本当に緑がかっている。樽がなせる業に驚くことは多いが、酒が緑色になるとは。そして先入観からかもしれないがさわやかな果実を思わせる涼しげかつ繊細な味わい。いい物を飲んだ。

カウンターで飲んでいた客がカウンターの中に入っていったので???と思っていたら、実はその方は二方さんというオーナーで、初めて来た客であるわたしに挨拶してくださった。奥様もお店に立たれていて、こちらもご挨拶。その後オリジナルボトルのClynelishを飲んで、その日は退散。

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そして数日後、改めてまたSouth Parkへ。今回はわざわざそれだけのために。裏を返す、というかまた何かを期待して。

スウェーデン語で「炎の水」を意味するSvenska EldvattenというボトラーのBenriachから始め、CadenのAuthentic Collectionからお勧めいただいたCaol Ila8年、そしてこちらも好きな蒸留所のひとつ、Burgie21年。

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そしてDuncan Taylor のPeerless Collection、というかDimensionsのCaperdonich37年。ちょっと力強さは失われているがやさしい味わい。最後にIchiro's MaltからMalt & Grainの白黒飲み比べ。

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どれだけのボトルが入れ替わるか、というバックバーの回転の意味では他の店に譲る部分はあるかもしれないが、ストックされているボトルの数で行くと途轍もなく楽しめる店だと思う。もっと通うと、いろんな違った面が見られるのではと思うとまたひとつ楽しみが増えた。

ちなみにSouth Parkは禁煙なので、念のため。

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