東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

南千住の尾花でうなぎを食す

世間では山の日からお盆休みが始まっているらしく、朝起きてニュース見たら中央高速が相模湖から50㎞渋滞とのこと。じゃあ都内は空いているかもしれないので、久しぶりに南千住の尾花に行ってうなぎでも食べるか、と思い立つ。

拙宅から尾花までは電車で一時間。10時ごろにお店に電話してお盆休みでないことを確認して、開店30分前の11時に現着すればいいかな、と考えいそいそと準備。で、10時になってそろそろお店の方も来たかな、と思い電話してみた。

確認するとお店は営業しているとのことだが、「11時にきて並んでもおそらく1回目には入れませんよ」と言われる。いや、今から行っても11時になるんですけど。うなぎ、うなぎと盛り上がった気分が一気に冷める。

一瞬あきらめかけたが、クルマで行けば30分ちょっとで着くので酒飲むのをあきらめて慌てて首都高乗って入谷を目指す。外環と中央環状線ができてほんとありがとう、空いてるぜお盆の都心。すっ飛ばして行ったら10時半過ぎには南千住の線路沿いの尾花に。昔はドヤ街の中に突然うなぎ屋が出現、という感じがしたが今は周りも随分きれいになった。でもすでに炎天下に人が15mほど列をなしている。店の隣のコインパーキングにクルマを停める。
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日光街道を浅草から尾花のある南千住に向かうと、常磐線の高架の手前に泪橋、という交差点がある。その先、尾花のすぐ近くに江戸の三大刑場の一つ、小塚原刑場があった。そこに向かう罪人が最後の涙を流したから泪橋、と言われている。刑場は今は小塚原回向院となっている、というか正確に言うと常磐線の建設で寺が南北に分断され、日比谷線常磐線に挟まれたところにある延命寺が刑場だったといわれる。まあそういうところだ。

朝は比較的涼しいな、と思ったが大間違い。1時間弱並んで待つのに帽子もしくは日傘、そして飲み物は必携。線路わきで陽を遮るものがない。いきなり店入った途端にぐびぐびビールとか飲んだらひっくりかえってしまうかも。そして汗かくからうなぎもよりうまく感じられるのではないかとも思う。


11時過ぎにお店の人が人数の確認にやってくる。店に入る前に全員揃っていないと入れてもらえない。その後改めて開店10分前ぐらいに人数揃っているかの確認があり、ちょうど私を含む2、3組が一回転目に入れるかどうか微妙なところ、と言われてしまってドキドキする。11時に入れないと、次に入れるのがおそらく早くても1時間半後。ということは並び始めてからは2時間待ち。ネズミーランドも行かないし、バーゲンで並ぶなんて死んでもしないので、私の人生でそんなに並んだことなど記憶にない。

そして開店。お庭の前のシャッターが開く。大丈夫か、大丈夫かと思ったが滑り込みセーフ。われわれが並んだのとほぼ同時に列を作ったひと組あとの二人まで入店。その直後に来た人たちはさらに1時間半待ちぼうけ、とわずかな差で明暗が分かれた。

店は入れ込み。神田の鳥すきのぼたんの二階のように、大広間にちゃぶ台がたくさん並んでみんなで一緒に仲良くいただく。
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奥の調理場には蒸籠が積み重なっているのが見える。

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鰻重、肝吸い、白焼きと鯉のあらいをお願いする。鯉のあらいをつまみながら小一時間ほど待つと、まず白焼きの登場。

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身が厚く、箸で持つとほろほろと崩れてしまうぐらいの柔らかさ。何とか摘まんで山葵を乗せ、軽く醤油につけるとさっと醤油の表面に脂が溶け出す。山葵もうなぎも甘く、山葵がうなぎの脂を引き締めてくれる。

我々が白焼きを食べているうちに他のお客さんのお重がどんどん運ばれてきて、香りが漂ってきてますます食欲がそそられる。白焼きを食べ終わって待ち構えているとようやく本日の主役が登場。

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こちらは大きいほうのお重。関西のうなぎは焼きが強くてパリッとしているが、尾花のうなぎはそれの対極にある。しっかりと脂の乗ったうなぎの旨さを蒸しで閉じ込めてたれの香ばしさを引き出すために軽く炙る、という感じだろうか。
身と皮の間の脂が甘いこと。そして白焼き同様にふっくらふわふわ。蒸しが強いと身が水っぽくなってしまいがちだが全くそんなことはない。そして主張しすぎない米とさっぱり目のたれがよく合う。これまでも東麻布や川越や三ケ日や名古屋、京都などさまざまなところでうなぎを食べてきたが、ここまで他の店との違いがはっきりしている事実を思い知らされ、改めて偉大さに想いを馳せる。ある意味東京のうなぎの極北。そして東京の食べ物の極北。

店内にはとても大きな神棚があり、庭には二羽ニワトリが、じゃなかった、庭にはお稲荷さんが祀られている。目には目を、歯には歯を、庭には二羽ニワトリを(©安住紳一郎)。
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家人と3人でお勘定は昼から二諭吉を超える。なかなかな贅沢だが、こんな贅沢がそんな値段で味わえるのは世界中で東京だけだ。ある確立したジャンルの食べ物の最高峰を極めるのにそんな値段で済む、と思うととんでもないバーゲンだと思う。だから人は夏の暑さの中でも寂れた常磐線の横の小道に今日も列を作るのだろう。

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