東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

「聞かぬは一生の恥」をバーで学ぶ

Twitter眺めていたらこんなツイートが流れていた。ちょっと「釣り」っぽい気もするけれど。

 

えらいぞ高校生、素晴らしい。でももうちょっとリスクの低い別のやり方がある。普通のじいさんだったかもしれないお年寄りが「くそじじい」に変化するリスクも避けられ、「せっかく良かれと思ってやったのに」と自分の気分を害することにもならず、世の中にTwitterで拡散されることにもならずに同じ結果を達成できる可能性が極めて高いやり方。

それは、単純に「何も言わずに駅で降りるふりして席を立つ」というもの。


その男性がとても座りたいモードなのであれば席が空けば狙い通りに座ってもらえるはずだし、念のためあえてその人に気づかれやすいような移動の仕方をすることもできる。そうやっても座らない人は席を譲っても「年寄り扱いするな」という地雷の可能性が高い。

ダウンサイドは譲った席が他の人に取られてしまって上手くいかないこと。だが前述したように気づいてもらいやすいやり方はあるわけだし、仮に他のおばさんが座ってしまったとしてもそのおばさんも座りたくて仕方なかったわけだからあなたがいいことしたことに変わりはない。そのおばさんより疲れていない誰かに使命を託したと思えばいい。


このやり方だと地雷は回避できる。かなり高い確率で波風立てることなく誰にも気まずい思いをさせずに目的を静かに達成できる。ただしこのやり方は自分がいいことをした時には必ず相手の人から感謝してもらいたい人向きではない。私なら何も言わずに席を立ったなあ、と思いながらそっとTwitterを閉じた。

世の中で何が起きているかはぱっと見では分からないこともある。気づかない人は気づかない。気づいた人も何も言わない。そういうコミュニケーションの方がいい結果を生みやすい状況があって、そういうことができる人はトラブルを避けることもできる。そして大事なことは、こういったテクニックは意識しないと決して学習できない、ということ。だって誰にでも気づかれてしまったらそもそもの意味がないので。

例えばよく行くバーに行き、初めの一杯を飲んでいる。隣でマスターと和やかに話しているお客さんがお酒のイベントの話をしている。どうやらお酒のインポーターの営業の方らしい。

そんな時、次に何飲むか特に決まっていないのであれば、
「xxx  (そのインポーターさんから出ている酒)をお願いします、この前勧めていただいて美味しかったので」
とオーダーする。

実際にお店から以前勧めてもらったかどうかなんかまったく関係ない。むしろ勧めてもらってもいなければ店の人に与える印象はより大きくなるだろう。営業の人もお店の人も悪い気持ちがするわけがない。

そういうことをサラッとできる人は、やはりどこのお店に行っても良くしてもらえる。ただし勘違いして違うインポーターの酒をそうやって頼んでしまわないように。

こういう「世の中の知恵」は学校や会社のマナー研修などでは教えてもらえない。いわんや上司や先輩が業務時間中に教えてくれることでもない。だけどそれを知っているのと知らないのとでは時間の経過とともに凄く大きな差ができる。だから若いうちに身に着けることがとても重要になってくる。「正しい電車での席の譲り方」だけではなく、「ストリートスマート」、すなわち実際に場数を踏み、時には痛い目にも会いながら学んだ人生の知恵、を。

周りにいませんか、何かあっても全く動じず、交通機関のトラブルがあってもちゃんと着くべき時間に到着し、部下が起こした致命的なトラブルを見事にリカバリーできてしまうような人。
私にとってのストリートスマートの師匠は20代半ばの頃の上司だった。西海岸の大学に留学し、ロンドンで仕事していたこともあったおじさんで、アルファロメオ75のV6エンジン、右ハンドルという滅茶苦茶渋いクルマに乗っていた。

当時はちょっと前のビットコインバブルの頃に似たITバブルの時期で、ソフトバンク時価総額が2年で100倍になり20兆円を超えようとしていた頃だった。

そのおじさんは会社で私に向かって「本当に株が暴騰すると思うんだったらありったけ借金して会社も辞めて退職金も全部ぶち込んじまえ」と言い放ち、また当時私が好意を寄せていた女性が突然社内結婚することを聞いてショックを受けていたら、「本当に好きなんだったら今からでも引止めろ、なんでそうしないで黙っているんだ」と叱られた。

鮨屋でいつもお勘定を現金で払うので、「いつもはカードなのにどうしてですか?」と聞いたら「鮨屋仕入れは現金だから、カードだとタイミングずれたり他にも大人の事情があるんだよ、同じ魚頼んでもどこ切ってもらうかで味は全然違う、分かってない客にはそれなりのものしか出てこない」と教えてもらった。

六本木に飲みに連れて行ってくれて店の入り口ですれ違ったスーツ姿の二人組を見て、「あの二人、サラリーマンみたいに見えるだろ?G組(当時イケイケだった武闘派ヤクザ)の若いのだから。お前喧嘩っぱやいから気を付けろ」などと、なんでこの人そんなこと知っているんだ?というようなことも教えてくれた。

知らないことを教えてくれるだけでなく、既成概念というものをぶち壊して物事を考えろ、という考え方のフレームワークを教えてくれたおじさんだった。厳しい業界の荒波に揉まれ始めたばかりでまだ完全に学生気分が抜けきっていなかったその頃の私にとっては大変ありがたい学びがたくさんあった。仕事の後に食事や飲みに連れて行ってくれて仕事場では聞けない話を教えてもらい、生きていくための知恵を教わった。
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仕事は定刻でさっと帰り、会社の飲み会には原則不参加、一緒に飲むのは同年代だけ、というような今の若い人たちはこういう知恵をいつどこで誰から学ぶのだろう。

社会人になったら最近の就活塾みたいなチートは当然ない。若いうちに身に着けておかないとできる人とできない人でどんどん差が大きくなっていくし、そもそも歳をとってからだと周りから教えてもらうこともなくなる。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というけれどバカな質問しても許されるうちにいろいろ聞く方がいいと思う。

この人の話聞いてみたいな、という人がいれば、「一杯だけでいいのでお勧めの大人のバーに連れて行っていただけませんか」と思って言ってみるのはどうだろうか。目下の人間に「大人のバー」に連れて行ってくれ、と頼まれてイヤな気分がする人はいないし、連れて行く店は当然それなりの雰囲気の店になる。そんなお店でバカ話するわけもなく、せっかくなので、ということで普段では聞くことのできない話を教えてくれる可能性が高い。

そして一杯だけ、と言っておけばどちらにとっても負担感は少ないし、最悪話がつまらなかったときには「こんな私一人では来られないようなお店(=高そうな店)ですので約束した通り一杯で結構です、とても良い経験ができましたありがとうございます」と言って帰れば全く角は立たない。

ただし頼む際に「飲みに連れて行ってください」と言ってしまうと最悪居酒屋で自慢話、とか「大人」を強調しすぎると変な店に連れていかれたりしかねないので「大人のバー」と念押しすることを忘れないように。

筋トレと一緒で、ちょっと背伸びしてこれまでやらなかったこと、やれなかったことをやってみるのが成長なのだと思う。私もまだまだ学ばなければいけないことがあるので、上手に学べるよういろいろ工夫してみようと思う。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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