東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

丸亀にて:伝説のバー、サイレンスバー再び

あてのない旅に出たくなり、車で京都へ。昔の下宿から数百メートルしか離れていない王田珈琲専門店でオールドのウイスキーをいただき、一泊して適当に西に向かう。大好きな明石の菊水鮓に寄ってから淡路島で宿をとる。そして翌日丸亀へ。久しぶりにサイレンスバーに行きたくなったからだ。

3年前はJRで丸亀に行ってサイレンスバーを訪問し、最終の列車(多分ディーゼルだったので終「電」と書くのはなんだか抵抗がある)で少し慌ただしく高松に戻った。今回は丸亀泊なので帰りの心配をしなくてもいい。素晴らしい。

高松の上原屋で美味いうどんをいただき、二、三十分ほどのドライブの後丸亀城天守に登る。江戸時代からの天守閣が現存している城は12しかないという。

f:id:KodomoGinko:20181227223415j:image丸亀城は遠くから見ると壁のように屹立した石垣の上に小さな天守が乗っかっていてまるでイチゴのショートケーキのようだ。精緻に組まれた石垣がかなり直角に近い角度で聳え立つ。
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今年は自然災害の多い年だったせいか石垣の一部が崩壊していて痛々しかった。
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ちなみに夜の丸亀城は石垣と天守がライトアップで白く映し出される。それを掠めながら月が上っていく様は幻想的で素晴らしいと思った。上手な人が写真を撮ればとてもきれいに撮れるのだろう。

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旅の途中はできるだけランニングするようにしている。ガイドブックなどなしでも10㎞程度走ればその街がどんな街なのか大まかに知ることができるから。沈む夕日を見ながら港に向かって走る。今晩訪れるサイレンスバーを明るいうちに見る。
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私も海の近くで育ったこともあって、こういう景色を見るとなんだか落ち着く。
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ランニング後にスーパー銭湯に行ってサウナでいい汗かき、その後水月(みづき)さんという和食のお店で刺身や白子の天ぷらなど。何を食べても旨くて嬉しくなる。

そして満を持してサイレンスバーへ。

宿から歩いて10分ほど、静かな住宅街を抜け大きな国道を越え、人気なく静まり返った夜の港の一角。

ドアを開けると誰もお客さんがおらず、広いお店に丸岡御大が一人カウンターに立っていらっしゃった。

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一人ですが大丈夫ですか?どうぞどうぞ。カウンターに陣取る。
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予約せずにふらっと一人で来る客は多くないので驚かれたのかもしれない。クリスマスの日だったが、宿からの道すがら街を歩いている人は一人も見かけなかった。港はトラックの出入りもない。

店に敬意を表して一杯目はタリスカーソーダ。厚手の立派なクリスタルのトールグラスに大ぶりの氷を入れタリスカーが注がれ、ウィルキンソンが追いかける。喉に沁みる。そして気持ちも落ち着いてくる。

今日はお仕事で丸亀に?いえ、プライベートで。ちょうど3年前の今日、クリスマスの日に一度伺いました。東京のCaol Ilaさんからの紹介で。ああそうでしたか。わざわざ来てくれたんやね、丸亀まで。ええ。次何飲みますか?では、グレンエルギンお願いします。

そして御大はバーの裏に消え、しばらくしてボトルを持ってきてくれた。

エルギンといえばホワイトホース、立派な蒸留所やな。80年代。
ハーフショットで色々飲んでいったらいいよ、と御大はおっしゃるが、いやいやそれはハーフとは言わんでしょう、というぐらいの勢いで注いでくださる。

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どんなお酒が好きなの?いや、好きな蒸留所はマイナー系のところが多いんですよ。たまたまなんですけど。次はダルユーインお願いします。
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丸岡さんはソサエティ日本支部創設にかかわっていらっしゃったのですよね?そうや日本にも持ってこられるよう一生懸命リースにお願いしたな。今は運営が変わってしまったからなあ。

そう言いながら自分用のタリスカーソーダを作って美味しそうに飲まれる。しばし東京のバーの最近の動向をご報告。

佐治さんにも良くしてもらったし、サントリーのブレンダーも来てくれる。この前も福與さん来てこれ飲んだんだけど、今では入手不可能やな。非売品だからちょっとだけ味見してごらん。1982年の山崎シェリーウッド。
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若い人たちにはやっぱり昔のウイスキーがどんなに美味かったかというのを伝えていかないといかん。Yさんもちゃんと次の人たちに伝えて言ってくださいよ。これは美味いから。

そういって出された60年代流通のグレンリベット。アザミでもなく赤玉。

これは間違いないので飲んでみて。そう勧められて飲んだリベットは自分のこれまで飲んできたウイスキーの中で間違いなくベスト。
普通のオフィシャル12年なのに50年近く経っていることを全く感じさせない力強さとしっかりとした黒いブドウの香りとビスケットの香ばしさと甘みが出ていて驚く。

やっぱり昔は手間暇かけて作っていたから今とは違う。麦芽が違うな。ウイスキーはグレンリベットに始まりグレンリベットに終わるっていうけど間違いない。

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そして見せていただいたのが1876年のマッカラン明治8年。平成ももう終わろうとしているのに物凄いものを見てしまった。1970年ぐらいにスコットランドで自分の師匠がこのボトルを見かけて、三日通って売ってくれと言って当時30万円相当で買ってきたそうだ。最近このボトルを地方で家が一軒建ちそうな値段で売ってくれ、と言われ、車が古くなったから買い換えたいと思っていてちょっと悩んだけど止めといた、と笑いながら教えてくださった。

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東京のキャンベルタウンロッホさんやウォッカトニックさんなど多くのオーナーバーテンダーさんは丸岡さんの薫陶を受けたという。東京に飲みに行き、一軒目から二軒目に行こうとすると大体飲んでいた店のバーテンダーは俺と一緒に飲みに行きたいので店閉める、というから気を遣うし飲みに行くのも簡単じゃないな、それに東京に来てるってわかると「何でうちの店には寄ってくれなかったんですか」って後から言われるから、いつも「丸岡が来たっていわんといてくれ」と言うんやけど大体バレてるわ。あはは。そんな話を伺いながら飲む酒は楽しい。

そのあと1926年蒸留のラムをいただく。昭和元年だ。

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御大はもうすぐ70歳になられるという。最近ご尊父を92歳で亡くされたと少し寂しげにおっしゃっていた。親が大きな借金したせいで中学生ぐらいからバーで働き始めて学校の先生に酒出したりしていたそうだ。昔はジョニーウォーカーオールドパーなどブレンディッドウイスキー全盛の中、ピュアモルトと言われたシングルモルトの旨さに目覚め、それを探求していく中で結果的に日本における先駆的な存在になられたのだという。

今度1月に名古屋のイベントに出店するからYさんもぜひ来てください、アイリッシュウイスキー戦前のものとか安く出そうと思ってます、ブレンディッド500円とか、シングルモルト1000円とかで。でもそんなに安くいいものを出されると周りのお店が困るんじゃないですか?まあそうかもしれないね、でもみんなに飲んでもらいたいから。そう笑いながらおっしゃっていた。

そしてまたお勧めのボトルを出してきてもらっていただく。最近のものでは下の真ん中のモートラックと右のマッカラン・タムデュー・ロセスのヴァッテッドが出色の出来だとのこと。ファークラスは樽買って詰めてもらったけど偉い高かったわー、だけどうちのためにわざわざ樽出してもらったわけだしありがたいな、などと話は尽きない。

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結局日本の伝説のウイスキーバーのオーナーバーテンダーを2時間近く独り占めするという至福を味わった。酔いも回りそろそろ引き上げようかというタイミングでもう一人お客さんが来られたので、記念撮影をお願いした。

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丸岡さんには長生きしてずっとお店を続けていただきたい。「その店を訪れるためだけにわざわざ旅行する価値がある」というのがミシュランガイドの三つ星レストランの定義だと記憶しているが、サイレンスバーを訪れるためだけに丸亀まで旅する価値は間違いなくある。


 

 

 

 

 

 

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