東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

あの日から6年:思い出とPeer Pressure、ブラックニッカ クロスオーバー

あの日から6年が経つ。当時1ヶ月後に幼稚園に入ることになっていた娘は既に9歳。昨日「地震のこと覚えてる?」と聞いたら「覚えてない」と即答されたが、大人が不安に思っていたことは確実に伝わっていて、記憶の底に残っているはず。
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地震直後に家内と娘を京都の親戚が持つ使っていない家に送り、幼稚園が始まるまでそこに居させた。娘と家内の顔を見るために毎週末新幹線に乗った。
土曜の朝、京都で一人掘り炬燵に座って原発についてのニュースを暗澹たる気持ちで見ていたら、3歳の娘が座っている私の背中にくっついて立った。しばらくそのままテレビを見ていたのだが、ふと振り返ると彼女は私の背中で声を出さずに泣いていた。こんな小さな子が耐えられなくて泣いてしまうぐらい辛いのか、と思って呆然とした。
そして声を出さず黙ってぽろぽろ涙を流していたことを思うと「もっと大変な思いをしている人がたくさんいるから自分たちは少々の不便は我慢しなければ」という大人の思いがまだ小さな子どもにも何となく伝わっていたのかも知れない。
そして全く地震の実害のなかった我が家でこうなのだから、被害を受けた地域の無数の人たちとその家族は比べものにならないほど辛い思いをしているのだろう、と思っていたたまれなくなった。

当時は渋谷のスクランブル交差点は真っ暗だった。LEDのスクリーンや三千里薬局のネオンも節電のため全部消えていた。平日の夜は外食せざるを得ず、会社の周りの居酒屋によく行った。みんな飲み歩く気分でもなく自粛ムード、というか「今飲み歩くなんてあり得ないだろう、東北の人たちがあんなに辛い思いをしているのに」という同調圧力が強くてどのお店もガラガラで、顔を出すととても喜ばれた。来ないお客のために用意して無駄になってしまう食材があればそれ食べるのでお任せで、とどこに行っても言っていた。週末は京都で新幹線を降りると街が明るくてまぶしくてびっくりした。当然、と思っていたことは当然でないことを改めて教えられた。

やはり当時一番不思議だったのは、あまりにも強い同調圧力だった。昨日日本に初めて来たアメリカ人を連れて新幹線に乗ったのだが、彼は車内があまりに静かなことに驚いていた。何で街でも新幹線の中でもこんなに日本は静かなの?と聞かれて、多分Peer Pressureだと思う、と答えた。そうしないと周りから後ろ指差される、だから明文化されていない規律に服従しなければならない、という圧力のことだ。当時はその圧力がとんでもなく強かった。原発メルトダウンしようとしている時に「みんな逃げずにいるのに、お前何で東京から逃げるの?フクシマ50とか命張って頑張ってるのにありえなくね?」的な言葉がインターネット掲示板的なところに満ちあふれていた。

東電の関係者が圧力容器が爆発しそうなときに福島第一から退避しようとして大きな非難を浴びた。それと同様の非難が、万が一のことを考えて東京を離れようとしていた一般の人たちにもぶつけられていた。東電や政府関係者がいないと原発事故は収束しないので彼らに残れ、というのは百歩譲って理解できるが(本当にダメになってしまうときに(実際に本当にダメになってしまう一歩寸前だった)技術や知識を持って現場で動ける人たちが現地で全員死んでしまえば、その後誰も何も出来なくなってしまうことをみんなちゃんと考えたのだろうか)、我々一般人が東京にしがみついていたところで何の問題解決にもならない。だがたとえばツイッターを多用する社会学者的な言論人が家族と東京から避難したときは悪意ある言葉がたくさんインターネット上にばらまかれた。
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原発に万一のことがあっても緩やかに放射能で汚染されるだけだから慌てて逃げるやつはバカだ、みたいな言い方もよく聞いたが、最悪の事態が起これば1300万人、日本の人口の1割を超える人たちが日本の西側に大移動する、という飛んでもないことが起きたはずで、そうなれば地震当日の都内のようにどこも大渋滞、公共交通網も機能しない事態になっていたことは想像に難くない。そうなる前に東京を念のため離れ何もなかったら戻ってくる、というのは大したコストも掛からないヘッジなのでリスクリターンを考えたら当然のことだと思うが、それを感情的に許さない人たちがたくさんいた、ということだ。津波に関しては少しでも大きな余震が来たら高台に逃げることが強く推奨されていたのに、違うリスクについては何の根拠もなく過小評価(することが正義だと)されていたのだ。

人は自分が何らかの事情で出来ない、あるいは自ら何らかの理由で抑圧している欲望を他人がやってのけた時、他人が欲望を満たしたことが露見した時に最も嫉妬心が刺激される。くっそー、あいつだけいい思いしやがって、というやつだ。長い列に並んで横入りされると腹を立てたり、主婦が不倫するタレントを嫌うのも、もしかしたらそういうことなのかも知れない。実はこの「空気の重さ」みたいな同調圧力が日本の社会を目に見えない形で形作っていて、それが何かのきっかけで噴出するのではないのだろうか。

日本人はゴミ捨てるときに手間かけてリサイクルするのは素晴らしい、新幹線を降りるときはリクライニングを直すのは他人に対して配慮していて素晴らしい、携帯電話を車内で使わないのは素晴らしい、道にゴミが散らばっていないのは素晴らしい、高速道路で一台一台譲り合って交互に合流するのはマナーが良くて素晴らしい。その素晴らしさの裏には嫉妬心と密接に結びついた同調圧力が存在する。そんなことを昨日、都内某所のバーで飲みながらつらつら考えた。やはり酒を飲むと記憶の抽斗が開く。そして最後にお店の方と二人、ブラックニッカを飲んだ。

 

モルトバーと呼ばれるところで閉店間際まで、あるいは他のお客さんが居なくなるまで色々飲んだあと、お店の方と「じゃあ二人でゆっくり飲みますか」となった時、すなわち営業ではなくプライベートに近い形で飲む時の「あるある」の一つに、「ブラックニッカ飲みましょう、これが一番コストパフォーマンス高いよね」というのがある。少なくとも2つの有名なモルトバーで同じセリフを聞いたし、実際熟成されたスコットランドシングルモルトをおすすめ頂いて何杯も飲んでお勘定が済んだあと、お店の方が裏からブラックニッカを持ってきて、お勘定要らないので、といわれながら改めて一緒に飲んだことも何度かある。そして二人でしみじみと「これって旨いよねー」とつぶやいてしまう。昨日もまさにその展開だった。

昨日伺った話だと、直近ブレンダーズスピリットが再発売されたばかりだが、5月にはシェリーの香りとピートの煙さが同時に楽しめるクロスオーバーというのがリリースされるらしい。これもとても楽しみだ。

キーモルトはピートの強いモルト(ということは余市?)で、それぞれの酒販店から入った予約の数だけしか作らない、ということで限定発売、ということだそうだ。今年はブレンダーズスピリットの再発売とあと2種類ブラックニッカの限定品がリリースされるうちの一つ、ということらしい。しばらくするとプレスリリースで詳細が明らかになるらしいが、どうやらフライング気味に情報が出てしまっている模様。

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数量限定と聞いて、また本当の大人はやらないはずの大人げない大人買い、というのをやってしまった。まとめて買ったはずのブレンダーズスピリットも、飲んでしまったり人にあげたりで随分なくなってしまったので、と自分に言い訳しながら。


 


 

 

 

 

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