想像力と共感力のないフリーライダーになるな: そこにバーがあることの価値
あなたの好きなバーはずっとそこにあり続けるわけではありません。何もしないで「あの店なくなったら困るなー」と言うのは実はとても身勝手なことかもしれません。
またこの時期にバーに顔を出したときに気を付けた方がいいことがある気がしています。読んでみてください。
- そこにお店があることの価値
- あなたは想像力や共感力に欠けるフリーライダーになりたいですか?
- この時期バーに行った人、「せっかく来てやったのに」って思ってません?
- この時期来てくれた客を特別扱いしすぎるべきではない理由
- 「その」バーに行く理由を増やしたい
そこにお店があることの価値
以前住んでいた街の書店が閉店になってしまった時に感じたことを、かつて書いたことがある。
駅前の歴史ある書店で、某有名女流作家の行きつけの店でもあった。
私はふらりと立ち寄って文芸書のコーナーを見るのが好きだった。
「いつでもそこにある店」だと勝手に思っていたが、おととし40年の歴史を突然閉じてしまった。
そのお店がそこにあったことは私にとっても地元の人にとってもありがたいことで、それは地元への貢献と言ってもよかったかもしれない。
だがそれに対して我々がちゃんとお返しができていなかった結果、店はなくなってしまった。
「閉店します」。その突然のニュースによって、その店があったことがどんなにありがたかったかということを私を含め人々が初めてはっきり認識することとなった。
「閉店が地元の人に惜しまれていますが?」と取材で聞かれたそこの店主が「実は言うのも恥ずかしいぐらいの給料しかもらっていませんでした」と答えた。それを聞き、私は自分勝手に「お店がなくなって残念だ」と思った自分を恥じた。私は1か月に一度ぐらいしかその書店にお金を落とさない、アマゾンの便利さに甘えていたフリーライダーだった。店主の使命感、義務感、そういったものに多くの人がフリーライドしていた。悪気は全くないままに。
あなたは想像力や共感力に欠けるフリーライダーになりたいですか?
以下は今週発表された内閣府の景気ウォッチャー調査の中の2月の飲食業の先行き見通しのチャート。
調査対象者全員が「今後よくなる」と答えれば100、全員が「今後悪くなる」と答えれば0になる数字。
見てお分かりの通り、今回のコロナショックのインパクトは大きく、2月の時点での先行き見通しは過去最低の12.9。
東日本大震災の時の19.7を下回り、リーマンショックの時の25.4のおよそ半分程度となっている。
今回はもしかすると震災の時よりも夜の街に人が少ないかも、と思った肌感覚は間違っていなかった。
2月はそもそも飲食業にとって8月とともに厳しい月で、その分3月に歓送迎会などで取り返す、というのが毎年のパターン。だが2月26、27日からのイベント自粛要請、学校休校措置などの影響をもろに食らい、3月は取り返すどころか2月以上に厳しい状況になっているはず。
だから自分の好きなお店があるのなら、そこに行ってしっかりお金を落とさないといけないと強く思う。
先の自省も込めて身もふたもない言い方をする。
お店がなくなってからでないとその店があったことのありがたみが分からない、というのはぶっちゃけ「あなたが想像力や共感力に欠けるフリーライダーである」ということだ。「私じゃなくて誰か他の人が行って(お金を落として)くれるはずだし」というのもフリーライダーの希望的観測に過ぎない。
この時期バーに行った人、「せっかく来てやったのに」って思ってません?
そんな思いもあり、前回自分の好きなバーがあるならそのバーに是非行こうという記事を書いた。
でも少し言い足りなかったことがある。
この時期大変かもしれないから、少し遠回りになるけどちょっとあのバーに寄って帰るか。そう思って以前行って気に入ったお店にわざわざ足を運んだら混んでいて入れなかった。
この前行ったお店では自分以外にお客さん来なくて、ずっとバーテンダーが話してくれてとても良くしてもらった。だから改めてまた来てみたけれど、今回は忙しくて全然構ってもらえなかった。
バーあるある、ではあるけれどそんなことあった時にあなたはどう思います?
「せっかく来たのに」、と思うかもしれない。
「それだったらしばらく来なくてもいいか」、と思うかもしれない。
「せっかく来たのに」というのは自然な感情だが、もしかしてそれが「せっかく来てやったのに」になってません?
そう思ったということは「俺はわざわざ来てやってるんだぞ」っていう気持ちがあったということだ。それを口に出すか出さないかは別として。
それは「大変な時にわざわざ来てやったのだから何かあってもいいんじゃないの?」と変に期待する気持ちがあることに他ならない。
でもそれ、バーに良くいる「イヤな常連客」、つまり他の客を差し置いて自分に対してだけ店からの特別扱いを要求し、それが満たされないとへそ曲げる客、への道まっしぐらってやつじゃないですか?自分よりも頻繁に来ている客もいるかもしれないのに。
そういう常連客がいると他のお客さんの居心地が悪くなる。百歩譲ってその人が他のお客さんよりも圧倒的にお金落として帰る、というのなら別だけど。でもそういう人はたいてい大したお金を落としていかない。
そして上から目線つまり「お客様は神様です」って客である自分で言ってしまうようなタイプの謎のオーラを漂わせた人が「店の常連」になんてなると、お店にとって今後も含め色々とよろしくないことこの上ない。
加えて、サービス業は需要があった時にサービスが提供できないとダメというタイミングが重要な業態。
例えばパソコン古くて調子悪くなったけど、今はコロナもあって人ごみ行きたくないので落ち着いてから買い物しよう、というのはよくある普通の話。タイミングがうまく行かなくてもその需要はなくならない。
だけどサービス業では「その時失われた需要」は復活しない。
「先週コロナのせいで酒飲みに出かけられなかったから今週はそれ取り返すためにいつもの店で2倍飲む」とか「先週この店満席で飲めなかったから、今週その店行って前回の分と合わせて2倍飲もう」とは普通ならない(といいながらそれに近いことをやっている私が通りますよwww)。
だから需要がある時にできるだけその需要をお金に変えておかないといけない、という因果な水商売、それがバー。
それが分かっていれば、カウンターからバーテンダーが出てきて「満席ですみません」と謝ることができないぐらい忙しかったときでも「たまたま今日は運が悪かった、でもお店上手く行っててよかった。水商売だから明日は混んでいるとは限らないしまた来よう」って思えますよね?
客は店が自分に媚びることを期待すべきではない。なぜなら客が店に媚びる必要はないのと同様に、店が客に媚びる必要はないから。バーでお酒を飲むという行為は、店がお酒と時間と空間といったサービス、体験を提供して、それと引き換えにそれに見合った金額を客が払う、という本来イーブンでフェアな商取引であるはず。
手間暇かけて丁寧に作った野菜を普通のものよりも高く売り、それがいいもので価格に見合うと思えばその価格を払って買う人がいる。バーでの体験にお金を払うのは、それと基本的に何も変わらない。だけどモノを買うときは「買ってやったのに」とあまり言わないのに、コトというか体験を買うとき、サービスにお金払うときに偉そうなこと言う人が増えるのは一体どうしてなのだろう。
この時期来てくれた客を特別扱いしすぎるべきではない理由
また逆の視点から。店はいくら暇な時に来てくれたからと言って、お客さんに対して再現性の低い過剰なサービスをする必要はない。異論は認める。
なぜか。客の期待値を高め過ぎるような、常に必ず再現できるとは限らないようなレベルのサービスをしてしまうと、次回その客が店を訪れた時にがっかりさせかねないから。結果として長い目で見た時のその客とお店との関係が、スタンダードなサービスを提供していた時に比べて短くなってしまうかもしれないから。そういう意味でも店は客に媚びる必要はない、と思う。
ただし、お客さんもお店も一定以上のスタンダードとリスペクトを持ってお互いに接するということがこの議論の前提となる。
私は客として、お店が他の客に対して変に媚びることなく毅然とした態度で接することを期待したいし、私も店に対して常にいい意味での距離感と緊張感を保ち、変に馴れ合うことのない客でありたい、と思う。
「その」バーに行く理由を増やしたい
最後に。あなたに推しのバーがあれば、その店のことに加えて周りにあるお気に入りのレストランやラーメン屋、その他オススメのスポットについても積極的に情報発信してほしい。推しの店が立地のあまりよくない場合は特に。
そのバーのためだけに足を運ぶのはちょっとしんどいかな、というときでも、「東池袋の瞠の本店の油そばがめちゃ美味い」とか「西川口のザムザムの泉まで行かなくても西池袋の火焔山蘭州拉麺が超美味い」とか 「奥渋のアヒルストアやフグレンだけじゃなくてさらに先のアイリッシュパブのタラモアのフィッシュアンドチップス一度食べてみて!」とか「東中野の阿波や壱兆の温かいそうめんやもつ焼きの丸松もめっちゃ美味いけど山手通りはさんで反対側のうなぎ串焼きのくりからがサイコー」とかあれば、「それだったらあの店寄ってからバー行こうか」、ってなる人も必ずいるだろうから。
バーのカウンターで「あの店美味しいね!」「そうなんですよ、地元でも有名で…」って話していれば他のお客さんも「今度自分もその店行ってみよう、そのあとまたこのバー来よう」と思うだろう。
飲食店で「あのバーのカクテル、この料理の後の食後酒にぴったりじゃない?そのあとベンネヴィス飲んだら優勝でしょ」とか話しているのが聞こえれば、他のお客さんもバーに行く気になってしまうかもしれない。
実は自分の店だけでなく、地元全体が盛り上がれるようなネタがあれば回りまわって自分の得にもなるかも。誰にも迷惑掛からないWin-Winなのでお客さんもバーテンダーの方もバーが開いている時間の前後で楽しめそうなお店周辺情報の発信よろしくお願いします!