東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

バー飲みを愛する男がカウンターで考えていること

とある酒飲みの一日。

ウェブサイト眺めてたら飲んでみたいラムを発見。ラ・メゾン・ド・ウイスキーが詰めたスリーリバース向けワーシーパークシングルカスクカスクストレングス、シングルポットスティル蒸留、11年ジャマイカ・2年ヨーロッパ熟成。ラムは勉強中、スペックだけでもかなり興味深い。どこかのバーで試してみたい。

ワーシーパークってスペルどうだったっけ?とりあえずカタカナでTwitter検索するも意外と見つからない。「メゾン ワーシーパーク」ではヒットなし。「ワーシーパーク」だと京都のラムアンドウイスキーさんのボトルばかり。Twitterの「最新」タブでようやく吉祥寺と池袋でお目当てのボトルが開いていることが判明。店の基本情報を確認し、仕事終わりに比較的行きやすそうな池袋のBar Crossさんに行ってみることに。


初めてのBar Crossさん、JR池袋駅から少しだけ歩いた懐かしい感じの飲食ビルの地下にある。雨が降るとちょっと行きにくいかな、ぐらいの距離。カウンターに落ち着くとヒュミドールらしきものが奥に見え、タバコ吸っているお客さんもいたのでどうかな、と思ったが、換気がいいのか全く気にならない。

バックバーにはグレンフィディックスプリングバンクなどのオフィシャルのオールドボトルが並んでいて見ていて楽しい。一杯目からワーシーパークを頼むべきかうかがうと、「力強いので最初は違うのがいいかと思います」とのこと。そこでカーデュの80年代オフィシャル加水をチョイス。

ああこういう素朴な麦感好きなんだよな、飲み疲れないし一杯目にぴったりだわ、グッドチョイス、と思いながら一人静かに飲む。
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その後お目当てラムを飲むことができた。

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確かにこの重厚な飲みごたえはいきなり頼むものではないかも。ウイスキーと違ってラムは原酒と樽の強さのバランスが原酒寄りだなあ、と改めて思う。かといってバランスが悪いわけではない。ラムならではの複雑なグラッシーさ、後からフルーツの甘みとスパイシーさが出てきて変化を楽しめて面白かった。

さらにその後あまり詳しくないコニャックをお薦めいただく。ケイデンが詰めたシャルパンティエ蒸留所カスクストレングス30年。これもオッサンのハートを直撃。即2本ポチる。さらにグレンキンチー10年のオールドのオフィシャルも飲めてとても楽しめた。

バックバーを見ると、ボトルの前面にA6とかB4とかラベルが貼ってある。それぞれ1ショット1600円、2400円ということなのだろうな、と思いながら見ていると、80年代から2000年代初頭ぐらいに出ていたオフィシャルボトルがリーズナブルに色々試せることが分かった。ハーフで頼んだら相当な種類が飲めて楽しそう。

何杯か頼むと一番高いショットが半額、というお年玉サービスの最終日だったこともあってか、お勘定をいただいたところ「この体験に対してならこれぐらい払って然るべき」という自分の感覚から3割ぐらい安い破格のチャージ。

ご自宅どちらなんですか?と聞かれて「渋谷方面です」と答えたら、「じゃあ副都心線ですかね」と言われる。しばらく歩いてJR池袋駅に戻らないと、と思っていたけれど、店を出たらすぐ目の前が副都心線の入り口で、実は家からさほど不便でないことが分かった。

家飲みだと味わうことのできない、バー飲みならではの美しい流れ。様々な意味で満足度が高く、またお店に寄りたいと思った。

そして昨日改めてお邪魔して自己紹介とご挨拶をし、裏を返すことができた。井手尾さんという方がオーナーバーテンダー。30代半ばぐらいだろうか。前回来た時にいただいたコニャックが気に入ってポチりました、という私のツイートをお店の常連さんが見ていたらしく、やや身バレ。
再訪一発目にお薦めいただいたのがスペイバーンのセミオールド、オフィシャル10年。そこをお薦めいただくかー、と思ってまたちょっと感心してしまう。

いいんだよこういうので。毎日雄弁過ぎるのばかり相手にしていると疲れが貯まってきてしまうから。
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私はハーフショット4杯で失礼したのだが、その間にも隣に座っていた若いゲスト3人連れのボトルについての質問に丁寧に答えられていた。

飲みたいボトルを見つけられて有難かったこと、セミオールドのオフィシャルなど気軽に試せて楽しく居心地も良かったこと、副都心線だと家から来やすかったことをお伝えしお礼を言う。

久しぶりにまた改めてお邪魔したいと思うお店を見つけられて幸せだった。


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今回はバーで飲むのが好きな私がいつも思っていることを改めて考え直すいい機会だった。

バーでは仕事のことを極力忘れて飲みたいと思っているので、いつもあまりしゃべらず空気の抜けた感じでぼーっとしている。けれど職業病なのかどこに行っても頭の片隅では仕事の感覚が抜けきらず、目についたことや気が付いたことについて様々考えてしまう。

この日はいろんなバーで飲みながら気になっていたことをあまり気にせず飲めたこともあっていつも以上に飲んでいて楽しかった。


初めて入ったバーに改めてまた来よう、と客が思うプロセスと心理について書かれているのはあまり見たことがない。またバーテンダーの向かい側にいる客の一人として、そしてカウンターの隣にいる別の客として、一人静かに飲んで何も言わずに帰る客が心の中で何を思っているか、というのも。

見えている景色がこちらとそちらでどのように違うのか違わないのか、というのをご参考までにお伝えできればと思い少し書いてみる。

念のためですがどこか特定のお店やそのバーテンダー、あるいは特定の他の飲み手に対してどうこう言いたい、ということでは全くありません。また私個人のかなり偏った感想であることをお含みおきください。

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そもそも来店するきっかけがないことにはリピーターにはなりようがない。今回きっかけとなった理由は以下の2つ。

#1 飲みたいと思ったボトルが試すだけの価値があり、どこに行けば飲めるのかインターネット/SNS検索ではっきり分かった

「このボトル興味あるので飲んでみたい」と思い、検索してバーでの開栓情報が見つかり、信頼できそうなテイスティングコメントも書かれてあったので「このボトルはやはりわざわざ試す価値がある」「そのボトルはこのバーに行かないと飲めない」と分かったので、初めてのバーへの訪問というそれなりに高いハードルを越える強い動機付けになった。

Twitterでボトルの情報を見つけられ、お店のブログがあることが分かりそこでさらに詳しいテイスティングコメントが書かれていて参考になった。

blog.goo.ne.jp

これだけ情報があればお店に行こうという動機も強まる。文体や写真からどんなお店なのか雰囲気も察することができる(し、実際に伺ったらイメージ通りだった)。

インターネットの世界では検索できないもの、あるいは検索ヒット数が多すぎて埋没してしまうものは存在しないのと同義。工夫がないと、情報を出しているつもりでもなにもしていないのとあまり変わらなくなってしまう。

「このボトル開けてみました」という写真を投稿するだけだと、すでにお店をフォローしている既存顧客はそれ見て「今度行かなきゃ」となるけれど、キーワード検索でヒットしないのでフォロワー以外はその店行くとそのボトルが開いているという事実を知ることはほぼ不可能。

また輸入元からのボトル情報とオフィシャルテイスティングコメントをコピペしてウェブ上に情報をあげる、あるいはそれに「いいですねー」的なコメントを付け加えるだけではあまり意味がない(もちろん何もしないよりはいいが)。なぜか。理由は3つ。

  1. 同じことをしている酒販店やバーはたくさんあるので埋没する
  2. リピーターになりえるような客に「その店に行くとなにか新たな発見が得られるかも」と直感させて来店を動機付ける「なにか」が感じ取れない
  3. 自分の店で出しているボトルで客に薦めるのに自分では試していないのでは?と熱心かつ誠実な店ではない印象を与える

少なくともバーテンダーなら自分で入れたボトルに対してそれなりにコメントもあるだろう。それが何もないなら、何かが間違っている。

ボトルのスペック詳細(特にビンテージ、ボトリング年、度数)が書かれているとキーワード検索がはかどってありがたい。Worthy ParkとかGlen GariochとかBunnahabhainではなく、カタカナでワーシーパークとかグレンギリーとかブナハーブンと書いてないと見つけるのは厳しい。

(ついでにいうとお店の正式名称が英語の時も、英語とカタカナの両方で表記してSNS登録していただくと検索ヒット率が高まるのでありがたい。)

自分の興味を惹いたボトルが試してみる価値があるという情報と、「そのボトルがここに行けば飲める」ということがセットになっていたので、初めてのお店だけど行ってみようか、という気にさせられた。

「知る人ぞ知る」的なボトルについてはウェブ上でも情報量が少ない。有名ブロガーが取り上げてみんなが知っているボトルももちろんいいが、あまり注目されていないけれどもめちゃくちゃ美味いボトルを知っていることの方が酒飲みの自尊心(あるいはSNS中毒者の承認欲求)を満足させるかもしれない。

SNS中毒者の承認欲求が刺激できれば、わざわざお店がコメント書いたりしなくても客が勝手にコメント書いて宣伝してくれるので手間が省ける。それがお店にとって諸刃の剣であることも重々承知している(以前詳細に書いたので繰り返さない)。

「これは!」と思った(が他の人があまり取り上げていない)ボトル、口開け直後はあまりよくなくてみんながそっぽを向いたけれど瓶熟してびっくりするほどよくなったボトル、などについての投稿は、書き手の想像以上にとても価値があるし、値段を下げて客寄せするなどよりもっと効果的のある集客方法かもしれない。


#2 TwitterFacebook、ブログ/HPのわかりやすいところに店の基本情報が書いてある

ボトルが開いていることが分かってそのお店に初めて行ってみようか、という気になったとしても、定休日や営業時間、アクセスがはっきり記載されていないと初めての店に行くのには相当躊躇してしまう。

わざわざ行ってみたのに定休日でした、とか、21時から営業であと1時間待たされる、とかは流石にイヤじゃないですか。かと言って初めての店にわざわざ電話してから行くか、というとワンオペで忙しいところに一見の客が電話したら迷惑かも、とか考えてしまい気が引ける。だから定休日や営業時間が明記してあると初めての店に行ってみようと思う心の中のハードルが大きく下がる。
 
オーナーバーテンダーが一人でやっているお店が「不定休」となるのは仕方のないことというのはよくわかるので、「不定休、ただしお休みの際はTwitter(もしくはFacebook、HPなど)で告知します」とでも書いて実際に告知していただいていると助かります。

アクセスに関しては、先ほどの例だとJR池袋駅からは少し歩いたので雨の降る日だったら行かなかったかもしれない。でも副都心線池袋駅の出口から目の前、というのを知っていれば駅から徒歩3分のバーに傘差していくよりも若干時間かかったとしても行きやすい。東京メトロ池袋駅C3出口出て道渡ったところ、とか書いてあると助かります。

また別の代々木公園にあるバーの話を友達にすると「代々木公園ってなんか行きにくくない?」と言われることがしばしばある。だが実は渋谷からも新宿からも原宿からも10分以内に着く。渋谷駅西口からだと1時間に20本近く走っているバスに乗ればすぐ。新宿からも小田急線の各停で5分、そこから徒歩2分。下手にターミナル駅周辺でうろうろ店を探し歩くよりもよっぽど近い。そんな情報が書かれていれば、店に行こうか悩む人の背中を押すことができると思う。

日々入荷するお酒のボトルの情報をアップデートするのと違って、基本情報は一度丁寧に書けばいいだけなので大した手間は掛からない。お休みの告知は飲食業の基本動作かもしれず、当然だがお知らせなく店を開けないと常連さんも失うリスクがありこれも大した追加の手間ではないだろう。その割にはどちらも費用対効果がお店が想像する以上に高いと思う。

来店に対する心のハードルを下げられるかどうかというのは新規のお客さんを獲得するのに非常に重要だが、そのハードルが上がったか下がったかというのは目に見えない。店の中を一生懸命整えていい酒用意して待っていても、店のドアに掛かっているサインを「Closed」のままにしていたら誰も入ってこない。よほどの有名店でない限り、基本情報をおろそかにするのは目に見えないサインを「Closed」のままにしている行為と近いのではないかと思う。

 

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#1と#2を受けてバーとSNS/ウェブについて


上記#1と#2は常連さんだけで十分でもうこれ以上新しいお客さん増えなくていい、あるいはSNS見て来るような一見の客が増えて店の雰囲気が荒れるのは嫌だ、という店からすると気にする必要がないかもしれない。お一人でやっていらっしゃるお店だと、一見の手間のかかる客が増えると常連客が離れていくので逆効果になる可能性も強い、というのもよく分かっている。これについては過去にもいろいろと書いたので繰り返さない。

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

islaywhiskey.hatenablog.com。

だが「知る人ぞ知る」的なボトルに関する情報を一生懸命検索して初めての店にも関わらず開栓情報を見てわざわざやってくるような客はただの承認欲求の強いインスタグラマーではない。むしろ相当研究熱心な酒好きで、好きな酒には金使うことを惜しまない客で、店のコンセプトに共鳴すれば常連になる可能性が高い。#1は手間はかかるもののそれなりの費用対効果があるかもしれない。

#3 嗜好の異なる客同士への配慮がある

あるボトルを真面目に試してみようと思ってバーに行ったら、香水の匂いをぷんぷんさせる女性が隣に来てしまった、となるとその方がどんなにステキな方でも全然嬉しくない。
そんな時に1ショット6000円のブローラ飲んで「真剣にテイスティングしよう」と思うかというと答えはNo。気が散って集中できないし(いろんな意味で)、店の売上にも貢献できない。

「私は香水慣れているので繊細なウイスキーでも香りはとれますよ」と彼女が言ったとしても、隣にいるこちらはその匂いに慣れていないのでムリなのだ。

香水の匂いぐらいでテイスティングできなくてどうする、お前が我慢しろ、と思われる方も一部いるかもしれないが、大抵の方は同意いただけるかと思う。いかがだろうか。

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もし同意いただけたのなら、一つお願いがある。先ほどの文章の「香水」の部分を「ある言葉」に置き換えてみてもらいたい。 

「私は香水慣れているので繊細なウイスキーでも香りはとれますよ」と彼女が言ったとしても、隣にいるこちらはその匂いに慣れていないのでムリなのだ。

「私はタバコ吸い慣れているので繊細なウイスキーでも香りはとれますよ」と彼女が言ったとしても、隣にいるこちらはその匂いに慣れていないのでムリなのだ。


タバコの匂いぐらいでテイスティングできなくてどうする、お前がタバコの匂い我慢してウイスキー飲むべきだぞ、と思われるだろうか。

念のため先にはっきりしておくが、私は非喫煙者だが禁煙原理主義者でもなくバーでタバコを吸う人やその行為を非難するつもりは毛頭ない。タバコの吸えるバーにもちょくちょく顔を出している。換気のいいバーや煙の行方に気を遣いながらサクッとタバコ吸ってくれるようなお客さんが多いバーだとタバコもあまり気にならない。

前にも書いたが、他者に対する気づかいやリスペクトがあるお客さんが集まる店は様々な意味で居心地がいいので喫煙可でもむしろ結果的に何度も通ってしまうことが多い。

だが他者の感じ方に対する想像力が低い人、他者をリスペクトしない人たちが集まるところは様々な意味で居心地よいとは感じられず、結果として足を運ばなくなる。

なぜなら他者に対してこちらが払うリスペクトと、こちらが他者から受けるリスペクトとのバランスが取れていない場合、居心地がとても悪くなるから。

目に見えない形でバランスが取れていない時が一番辛い。目に見えなくて分かってもらえないからその状況が改善されにくいので。先ほどの香水の例はその一つだ。もう一つアンバランスの例を挙げてみよう。

お店に入って、カウンターの一番端の女性一人の客の隣だけ席が空いていて、そこに通されて座ってしばらく酒飲んでいたら、その女性以外のカウンター客が全部帰ってしまい、期せずしてカウンターの端っこで赤の他人の女性とカップルのように肩並べて飲むシチュエーションになってしまった。でもただ静かに飲んでいるだけで特段の会話はない。たまにありますよね?

そういう時にその女性が何も言わずに自分のグラス持ってあなたから一番遠い席まで移動したらどう思われます?
普通の男性なら「さっき食べた焼肉のせいでニンニク臭いのかなオレ?それとも加齢臭?」とかいろいろ思ってやや傷つきますよね。

そういう経験は何度かあるので、席が空いたとたんにいきなり何も言わずにグラス持ってその人から一番離れた席まで移動する、ってのは相手に対してかなり失礼な行為だと認識している。
だから男性の私でも隣の人のタバコがちょっと煙くてつらいな、と思った時でも上手な言い訳が見つけられないと席の移動は簡単にはできないんですよ。

「タバコを吸わないものでちょっと移動させていただきますね」ってあえて言ってもいいけれど、「タバコ沢山吸われるとこちらはメイワクなんですけど」というように相手に曲解されて気分を害させてしまうことになるかもしれないし。それはこちらの意図ではない。だから結果的に席の移動をあきらめてタバコの煙を我慢することになる。でも隣の人は私がそんな気持ちでモヤっとしていることは多分分からない。

ここで何が言いたいかというと、非喫煙者も喫煙者に対してリスペクトを持ち、それぐらい喫煙者が喫煙する権利と彼らが気分を害さずにお酒を飲めること、店の雰囲気を悪くしないことに気を遣っているという事実を分かってもらいたい、ということ。このリスペクトは恐らく他者、特に喫煙者から見たら全く見えないと思う。

そして非喫煙者の多くが、自分の払っているリスペクトがはっきり目に見えるものではないがゆえに自分は十分なリスペクトを喫煙者から受けておらず、先ほど述べたアンバランスでアンフェアな扱いを受けている、と感じることがある。

そんな時に気を遣ってくれて
「「いつもの席」が空きましたのでもしよければこちらにどうぞ」
って煙くない席に移るよう言ってくれるようなスマートなお店も存在する。ほんとありがたい。
(当然「いつもの席」にいつも座っているわけではない)

(ちなみに女性と肩並べる先ほどのようなシチュエーションの時でもそう言って女性をエスコートしてほしい。オッサンの繊細なガラスのハートはすぐ壊れてしまいがちなので。)

アンバランスの例をさらにもう一つ。

葉巻の吸える店ではどうしても服に匂いがついてしまう。その匂いは2、3日取れなかったりする。非喫煙者は葉巻を売りにしているバーには最初から覚悟の上で行くので問題ないが、葉巻推しではないけれど実は葉巻が置いてあるバーとか、喫煙可だがいつもは葉巻を吸う人がいないのに誰かが葉巻を吸い出す、とかのシチュエーションが一番困る。

うちの娘は強い匂いが苦手なので葉巻の匂いをつけて帰ると翌日いつも文句を言われる。また葉巻の匂いがついた上着着て混んだ電車に乗ると冷たい視線で見られることが多い。いや私のせいではないんですが、と大きな声で言い訳するわけにもいかない。

先日の例でも、裏を返しに行った際にカウンターで2つ離れた席で楽しそうにウイスキーをいろいろ試していた若者3人連れを見てほほえましく思いながら飲んでいたけれど、そのうちの1人が「このグレンフィディックのオールドに葉巻合わせたら最高だね」と言って注文しそうになったのでお気に入りのウール地のダウンジャケット着てきた私はムスメに嫌われたくない一心で慌ててチェックをもらいました。

扉付きのクロークもしくはコートに被せるビニールのカバー(けむい焼き肉屋によくおいてあるやつ)があると助かります。

非喫煙者はタバコの匂いに敏感すぎない?」と思っているスモーカーの方がいるのは知っている(もちろんそれはあくまでも一部のみでマナーのいい喫煙者がいることも知っている)。

でもちょっと考えてみてほしい。お皿をフォークでひっかく音や黒板を爪でひっかく音を聞いて全然気にならない人と背筋が凍るぐらい気持ち悪がる人っていますよね。人によって特定の刺激に対しての生理的な反応はそれぐらい違いがある。(私は後者なので今こう書いただけでちょっと背中の筋肉が硬くなった)
その音が全く気にならない人がお皿や黒板をひっかいて、「なんでこんなの気にするの?」と言うのっていうのと先ほどの「敏感過ぎない?」っていうのとは本質的に変わらない。

そもそもタバコの匂いに敏感で、タバコの匂いが苦手な人が非喫煙者なのだ(非喫煙者の全員がそうだとは言っていない)。どっちがいいとか悪いとか、健康にいいとか悪いとかの価値判断の話ではなく、お互いに対するリスペクトの問題。

うちは喫煙可にしているけどタバコ吸わない常連もしょっちゅう店に来ているから全然オッケー!と思われる方もいるかもしれないが、非喫煙者は隣でタバコや葉巻を気遣いなく吸われると値の張る酒をまず頼まない、もしくは飲むペースが極端に落ちる。
あるいはこれ以上は厳しいと思うと何も言わずに勘定貰って帰る。これもアンバランスな見えないリスペクトの一例(「タバコ吸っている人は楽しいかもしれないがこれだと自分は楽しめない、俺はもっとお酒を楽しみたかったけどスモーカーの気分を害したりバーの雰囲気を壊さないため「ちょっと煙がしんどいです」などとは言わず静かに帰る」)で、見えない形で売上げに響いてますよ奥様。

だが絶対禁煙にしてくれ、とか高いお金かけてダイソンの空気清浄機入れてくれ、などというつもりは全くない。私も仲良くしていただいているバーテンダーやバー仲間にスモーカーはいるので、スモーカーとノンスモーカーが仲良く酒が飲める場所がある方がありがたい。

換気がいいと、今ずっと書いてきた問題が一気に解決する。非喫煙者も長居できるので売上にも貢献することができる。換気扇を「強」にして換気扇のフィルター清掃を頻繁にし、たまに外気と入れ替えていただければ大体OK。

バーテンダーもゲストもバーにいるすべての人ができるだけ居心地よくなるようなさりげない気遣いがそこここにあれば、居心地よさを感じて人が自然に集まってくるお店になると思う。

 

 

#4 ショットの価格が明示されていて若い人でも安心して飲める

おかげさまで今はあまり懐具合を気にせず飲めるようになったけれど、若くてお金ない頃だったら自分の頼んだウイスキーの値段わからなかったらドキドキしてた。

価格が表示されてないガソリンスタンドと表示されているガソリンスタンドあったら、わざわざ積極的に表示されていない方選んで給油しますか?普通の人は「書いていない理由は高いからに違いない」って思いますよね?
それと同様で、値段書いてあるのとないのでは頼みやすさが違う。値段が書いていないと一定の予算の中で値段と自分の好みをすり合わせながら効用最大化を考えて何をオーダーするか決める、ということができない。日本人的にはオーダーのたびに値段確認するというのも現実的ではない。このお店だとだいたいこれだけ頼めばこのぐらいだよね、という相場観ができていないとリラックスして飲めないから楽しめない。

今でも若干頼みにくいのは見たことのないオールドボトル。相場が分からないから高いか安いか全く分からない。親切な、というか普通の店なら、高いものをそうと知らずに注文すると「それはちょっといいやつですね」と言ってくれたり具体的なショットの値段を教えてくれるが、そうでない店があるのも事実。最近はこちらがわかってて頼んでいると思われてしまう部分もあるけれど。そして結果はチェックをもらう時までわからない。また初心者だと「それはいいやつですね」の裏の意味が取れない可能性がある。

最近見た都心のオールドボトルを売り物にしているバーへのGoogle口コミの例。多分クオリティ対比での価格としては悪くなかったのではないかと思うけれど、猫に小判かつ絶対値が高いとこういうことを言われてしまうので誰も幸せにならない。

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良心的な価格の店でも値段書いていないとチェック見た時に「この体験に対してその値段なんだったらあと2杯は飲みたかった」みたいなことは起こりえて店も客もLose-Loseになってしまう。

今回訪れた店はボトルの前面に符丁で価格が明示されていた。オールドボトルが多いので私にとってもありがたい。グレンファークラス15年の20年前ぐらいのボトルで1ショット1800円だったからそれほど心配することはないけれど。だがやっぱり値段が書いてある方が頼みやすいな、と改めて思った。

価格を明記すべきか、どう明記するかは議論はあるとは思うが今どきの若い人たちにとって値段が示されていないというのは恐怖以外の何物でもないのでは、と想像する。ボトルに値札をぶら下げたりメニューに値段を書くのが無粋だ、というのであればお勧めのボトルの説明をするときに聞かれなくても必ず値段を言う、とか価格帯で色分けした小さなシールを貼る、とかお店のHPなどウェブ上に価格を出しておいて、二次元バーコード的なものをカウンターにさりげなく貼っておいて携帯から見てもらう、とか工夫があるとお客も安心して財布を開きやすくなるのではなかろうか。

#5 今まで知らなかった素晴らしいものが世の中にはまだまだたくさんあることを改めて教えてくれる

先日の例でいうと、一杯目は重いワーシーパークでない方が、と言われたので私なりにカーデュを選び「これは80年代のボトルですかね?」と聞いた時点でそれなりにウイスキー飲んでいる客だな、とは分かってもらえたはず。

そして「こういうオールドのオフィシャルで飲み疲れない甘くてモルティな感じのボトルは大好きです」「ラムはまだまだ勉強中で飲みに来ました」と自分のことについてお伝えしたところ、ラムの後にいつもはあまり飲まないコニャックをお薦めいただいた。これも私のハートを撃ち抜く美味さ。飲みごたえのある珍しいカスクストレングスの長熟、ケイデンのボトリング。お伝えした情報から好みに合うと判断してお薦めいただいたのだろう。

最後に薦めていただいたグレンキンチーのオフィシャル10年、(私の推察で)90年代ボトリング、これもカーデュ同様に私の大好きなタイプ。そもそもグレンキンチーのオフィシャル飲む機会もそんなにない。

出してきてくれるボトルを見て、「ああこのバーテンダーとはコミュニケーションが成立しているな」と確信できた。

単に自分の気に入ったものを人に薦めるのと、相手の好みを踏まえたうえでその延長線上にあって相手の視野を広げることのできる材料となるものをお薦めするというのは全く次元の違うスキルだ。ゲストの好みを聞き出すことができるだけのコミュニケーション能力があり、聞き出したそれにぶつけてみせることができるだけの自分の中の引き出しと店のバックバーにボトルのストックがあり、それを客に気に入ってオーダーしてもらえるようにコンパクトにプレゼンできる能力がないと後者にはなれない。

あるボトルをバーテンダーに薦められ、飲んでみたら好みと違っていた、ということももちろんある。そんな時でもバーテンダーとコミュニケーションが成立していて彼の知識や力量に対するリスペクトができていれば「これが分からない自分がまだまだなんだな」と納得できる。むしろ今の私はそういう経験をしたいぐらいの気持ちでいる。

だがそこまでの関係が築けていないのにお薦めされたボトルが自分の好みから大きく外れたり、飲む前に聞いたプレゼンと飲んでみた時の印象が大きくずれたりするという経験を何度かすると客としては結構つらい。店から足が遠のいてしまったり、しばらく来なくていいか、と思ってしまう。

初めて訪問したのにお互いにコミュニケーションが成立して、バーでの体験が本当に価値あるものになると客としても嬉しい。これまでの自分の体験の中から自分が好きだったものを再びオーダーするという過去の美しさを追体験する行為だけでなく、世の中には自分が知らない素晴らしいものが沢山あって、将来また何か別の素晴らしいものに出会えるチャンスがまだまだ残っている、という物凄くポジティブなメッセージをバーテンダーから受け取ることができる客は幸せだ。でもそのメッセージこそが私たちが明日も明後日も生きていく意味なのだろう。

一日の終わりにそう思って家路につけるのは幸せなことだ。だから私はバーに行く。