東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

私がウイスキーのネガティブなコメントをしない理由

先日信濃屋さんのお招きで台湾のボトラーAqua Vitae(アクアヴィッテ)のAllen Chenさんによるテイスティングイベントに参加した。「自分の好きなオールドスタイルのウイスキーはなかなか見つからないので気に入ったものを自分で詰める」「味や香りが開くまで手間のかかるオールドのボトルを気軽に飲めるようにしたい」というコンセプトで始めたという、比較的若いボトラー。40歳前後だろうか。
「好きなボトルが世の中にあまりないのだったら自分で探して詰めてしまえ」、というのはウイスキー好きの夢。それをお仕事にされているのは本当に羨ましく、既にウイスキーブーム真っ只中の2015年から始めたのにどうやって蒸溜所とコネクションを作ったのかとかいろいろAllenにお伺いできて楽しかった。

Allenと会えた以外にも沢山の有名なウイスキーの飲み手とご一緒できてそちらも大変いい刺激になった(もちろん信濃屋の方々ともですが)。
真剣な飲み手と様々なボトルを飲み比べるうちに、やはり人によって知覚と好みの違いがなぜ生まれるのかという普通の人には当たり前すぎてあまり考えないかもしれないことについて改めて考えてみるいい機会になった。

色んな国の人に「どの色が一番好きですか?」と聞いた答えが国によって全然違う、という調査結果は興味深い。青がどこの国でも圧倒的に一番人気なのは水と青空がないと人間は生きられないという事実を反映しているのかもしれない。最近自分が青いネクタイばかり持っていて、バイクも青でクルマも紺で、ということに気づいて「もしかして俺ってアオレンジャー?」と不安に苛まれていたのだが、世界にアオレンジャーはたくさんいることがわかって少しほっとした。
アジアの国にはなんとなくキレンジャー(含む茶色やオレンジ系)が多い気がする。
国の差だけでなく同じ国の中の男女の差も大きいらしく、アメリカでは40%の男性が青が一番好き、と答えたが女性は24%、イギリスでは40%対27%だそうだ。日本人の答えはないのが残念だが青ではなくて白が一番多いらしい。

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民族が違うと一番好きな色が違う、というのは直感的に納得できるが、同じ日本人同士でも「あなたが見て一番落ち着く色はどれですか?」と10人に聞いたら答えはかなりばらけるだろう。私は緑を見ると一番心が落ち着くが、あなたはオレンジを見てそう感じるかもしれない。
また同じ色を見ていても、私の色味の感じ方とあなたの感じ方が全く同じものとは限らないし、たぶん違う。だから「落ち着く色はどれ?」みたいな質問で人によって答えが異なるのだろう。それを証明するのは極めて難しいと思うが。


それと同様に、同じウイスキーを飲んでも私が感じる味と、隣の人が感じる味は間違いなく違うはず。味覚・嗅覚のインプットに対するセンサーの性能は人それぞれだし、感じたものを分解する能力は人によって異なるだろう。虹の色を7色だと思う人と、5色や9色だと思う人がいるように。

味覚・嗅覚などの知覚情報をポジティブに受け止めるかネガティブに受け止めるかは記憶や経験ともリンクしているはずだ。子供のころにコーヒーやビールをどう感じたかを思い出してほしい。それらの記憶や経験は、当然私と隣の人では全く違うだろう。

またウイスキーというかお酒特有の問題もある。遺伝的にアルコール耐性の高い人はアセトアルデヒドに果実香のような甘さを感じるかもしれないが、耐性がないもしくは低い人は同じアセトアルデヒドを嗅いでも生理的に粘膜への刺激が強いために甘みというよりもアタックや辛さを感じるかもしれない。私は後者の傾向があることに以前Twitter上でいただいたコメントで気が付いた。

(少し話はそれるが、これが欧米人とアジア人(モンゴロイド)では好みの酒のタイプの違いがある理由であってもおかしくないし、台湾のボトラーのボトルが日本で受ける理由の一つなのかもしれない)

インプットを分析するセンサー性能も違い、感じた味覚や嗅覚を脳内で分解し整理する能力も人によって違い、そもそも同じものを飲んでもそれを旨いと感じるかどうかは人それぞれ。そしてその旨さを人に伝えるためにアウトプットする時のボキャブラリーだって人によって全く異なるのだから隣の人のテイスティングコメントが私のそれと一緒のわけがない。

人の好みについていうと、納豆を死んでも食べられない人もいれば大好きでいくらでも食べられる人もいる。私がジャムパン好きだからと言ってカレーパンが一番好きな人を非難しても何の意味もないし、「お前何でジャムパンみたいな食べ物好きなの?カレーパン最高なのに意味わからん」と言われても私の知ったことではない。

ソーピーな80年代ボウモアが好きな人がいても全くおかしくないけれど、私はソーピーなのはいろんな意味であんまり得意ではない。

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けれどソーピーなボウモアを好きな人が間違っているとは全然思わない。(写真は本文とは一切関係ありません)

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飲む順番だって味覚と好き嫌いに大きなインパクトがある。
ストレートで長熟の甘めのラムを飲んだ後にグレンドロナックみたいなシェリー樽熟成のウイスキー飲んでタンニンを強く感じて嫌いになってしまうかもしれないし、アードベッグスーパーノヴァ飲んだ後に加水のオールドのノッカンドゥー飲んだら水飲んでるようにしか感じなくてなんだこれは、と言ってしまうかもしれない。



それにキルホーマンよりもラフロイグが好きで、ラフロイグよりもアードベッグが好きで、アードベッグよりもラガヴーリンの方が好きだったとしても、ラガヴーリンとキルホーマンの二つが並んだ時に100%ラガヴーリン選びますか?と聞かれると自信ない。自分の中での評価軸が一つしかないわけではないということだろう。時と場合によってどの軸を使うかは異なるように思われる。

というわけで、私はあるボトルを試して自分の好みに合わなかったとしても、自分のセンサーの性能がそもそもポンコツだったかもしれず、飲む順番や体調が悪かっただけかもしれず、口開け直後で固かっただけかもしれず、バーに行く前におにやんまで食べた冷やし鳥天うどんの鳥天にかかっていたコショウが強すぎただけだったかもしれず、池袋の蘭州ラーメン屋の羊の串焼きのクミンが酒を飲まないムスリム向けの味付けでウイスキーに合わないだけだったかもしれず、自分の意見はマイノリティで他の人はこのウイスキーをおいしく思うかもしれないぞ、と思うようにしている。

仮に同じものをその場で居合わせた数人で飲んで評価が低かったとしても、最初に評価をした人のネガティブな評価に引きずられたり、エコーチャンバー効果でちょっとのネガティブがすごくネガティブになってしまうことだってあり得る。誰かが褒めちぎっているボトルを「あんまり気に入らなかったんだけどな…」と思うことはあっても褒めちぎっている人に面と向かってそう言わないのと同様に。

だから自分の味覚の絶対的な正しさに強い確信を持てない私のような人間が、バーでネガティブなことを言ったりずっと残ってしまうかもしれないブログだのSNSだので否定的なことを書くというのはちょっと違うかな、といつも思っている。反対に美味しかったときは声を大にして言っておりますが。

 

私にとってウイスキーは楽しい時間を過ごすための手段であって目的ではなく、極論すると居心地悪いバーで美味いウイスキー飲むよりも居心地いいバーで普通のウイスキー飲む方がいい。こういうと「お前は真のウイスキー好きではない」と言われそうだが、否定はしない。

私は飲んだウイスキーの悪口をわざわざ言ってその場の雰囲気を悪くしたくない。自分の好きなウイスキーの悪口を隣の人が言いだしたら楽しく飲めないから。そのボトルを選んだインポーターやそれを買って客に出したバーテンダーにも申し訳ないし、その場に居合わせたお客さんでそのボトル前回来た時に飲んでおいしいと思った人も気分を害するかも、と思ってしまう。

もちろん私と考えが違う人がいても別に非難するつもりは全くない。ジャムパン好きとカレーパン好きが喧嘩して意味ないのと一緒なので。

私がバーに行く理由の一つは試してみたいボトルがさまざま置いてあるから。
クオリティの高いボトルを日本に引っ張ってきてくださるインポーターさんにはとても感謝しているし、自分が飲んでみたいボトルを私の代わりに買ってくれてさまざま飲ませてくださるバーは超ありがたい。

様々なボトルを入れればハズレもあれば好き嫌いの分かれるボトルもあるだろう。だけどいろいろ入れなければ大当たりを引く可能性も下がってしまう。そしてインポーターさんやバーはある程度ボトルを売り切らなければならないのも事実。そうでなければ商売が回らないし、彼らがつぶれてしまえば私は困ってしまう。それを考えれば飲んだ一杯が仮に気に入らなかったとしても私はあれこれ言わずに黙っていたいし、ネガティブなことを人前で言いきるほど自分のセンスに自信もない。

(ただし私があるボトルについてコメントしなかったからと言って必ずしもそれが好みではない、ということではないので、念のため。気に入ったのに酔っぱらってしまい記憶が飛んだ、とか飲んでて楽しくなってコメント書くのがめんどくさい、とか普通にあります)

ちなみに先週金曜日に飲ませていただいたAqua Vitaeの中でとても気に入ったのがブナハーブンとグレンキース。もちろんこれも異論は認める。1989年蒸留の28年のブナハーブンは度数が落ちてとても口当たりがスムース、70年代のハイランドのウイスキーのように骨格がしっかりとして崩れない。華奢で綺麗な上品なクリームの中にブドウがいるタイプ。グレンキースはマクヴィティビスケットのクリーム味を思わせるバーボン樽熟成の王道タイプ、そもそもキースは好きだしこのスタイルは一番好き。
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今度Allenが60年代っぽいエステリーなオールド感のあるボトルで気軽に飲めるものをリリースしてくれたら最高だ。ムチャ言うなという話かもしれないが。
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金曜日の20時半から1時間、という営業ゴールデンタイムにJ's Barさんを貸切にして太っ腹に飲み放題、という色んな意味でゴージャスなイベントだった。
信濃屋の(あ)さんとJ's Barの蓮村さんへの私の気持ちとして上記のAqua Vitaeのボトル2本とJ's Barと信濃屋銀座店のジョイントのグレンファークラス、イーグルボトルを注文することにした。(あ)さんメールお待ちしております!(笑)

 

 

皆様の清き一票のお願い

 

ところで奥様、別のサイトに「長野・山梨でウイスキーの蒸溜所と聖地を巡る。東京から1泊2日の小旅行」という記事を書きました。

白州蒸留所、マルス信州蒸留所に行き、松本にある伝説のモルトバー「摩幌美」さんを訪問した内容をまとめた記事です。駒ケ根のArikaさんというバーもよかったな。

皆様にたくさんアクセスしていただくことによって、新しい蒸留所や各地の伝説的なバーを巡って(サウナでも食い倒れでもよいのですが)記事を書かせていただく機会を再び頂戴することを虎視眈々と(?)狙っております。

いつも読んでくださっている皆様、こちらちらっとクリックするといつもよりマジメなわたくしの記事が読めますのでよろしくお願い申し上げます。かしこ。



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