東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

好きなバーの条件

Twitterの質問箱に「好きになるバーの条件」というお題をいただいた。

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Twitter上でお返事しようかと思ったが、140字では言葉が足りなくなりそうなのでこちらに書いてみる。

最近とある媒体にウイスキーやバーについての記事を書いてくださいと頼まれたので、どう自己紹介書いたらよいか悩んで、過去12か月間に自分がどれだけバーにお金を落としたかカードの明細見て調べてみた。結構いいバイクが買えるぐらいだった。東京以外のバーを訪れるための旅費なども入れるともっと膨らむ。それをここしばらく続けている。それぐらいバーで飲むことには思い入れがある。

そもそもなぜバーでわざわざ金払って飲むのか。
家には自分好みのボトルが結構な本数開いている。
静かでゆったりとした自分のスペースで、本を読み好きな音楽を聴きながらお気に入りのグラスで酒が飲める。タバコの煙を気にすることもない。

それなのにバーのカウンターの、大抵あまり座り心地の良くない椅子に座って飲む。「これだったら家で飲んだほうが良かった」と思うこともごくまれにあるが、自分の好きなバーに行って飲むのは基本いつも楽しい。

ではどんなバーを好きになるのか、と聞かれるとまず初めに頭に思い浮かぶのがバーテンダーの顔。バーテンダーをリスペクト出来るかどうかが一番大きい。

リスペクトというといろんな切り口があるが、まず知識の広さ、深さ。
最近キャンベルタウンロッホで飲んでいて、グレンファークラスがどのようなサイクルでいい樽を使いまわし、どの樽詰めのビンテージが当たり年なのかという話を中村さんからお聞きしたのがすごく面白かった(詳細はあえて伏せるので、興味ある方は有楽町行って聞いてみてください!)。

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グレンファークラスつながりになるが、池袋J's Barの25周年記念ボトルのラベルには鷲があしらわれている。蓮村さんからは「昔のグレンファークラスのトールボトルで鷲をモチーフにしたラベルのボトルがあって、それは蒸留所にとって特別な意味を持つボトルなのだけど今回の店の周年ボトルはダンピーボトルではあるけれど同じようにイーグルをあしらった」旨の話を伺った。
独立家族経営の誇りの証として孤高の存在の象徴であるイーグルをラベルにあしらうことがどれくらいグレンファークラス蒸留所にとって重要なのかがわかるエピソード。

これらの話は実際に蒸留所と歴史的なつながりが強い方だけが知っていてウェブに転がっているようなものではないので、こういう話を聞けるのはバーならではだな、バーに来てよかったな、と思う。

そして記憶力と表現力。
「このボトルどんな感じですか?」という質問に対しバーテンダーが的確な記憶力と表現力でイメージを飲み手に伝えることができ、実際に飲んでみた感じがそれに近いと「やはりプロはすごい」、となる。店にある相当数のボトルのそれぞれについてしっかりイメージを持っているなんて、そして口開けの時の印象だけでなく、開栓してからの香りと味の変化についても語れてしまうなんて本当にすごい。
自分の家にあるボトルについて、他人にどこまでしっかり説明できるかというと正直あまり自信がない。それも自分が好きで何度も飲んでいるボトルなのに。

新橋のキャパドニックの原子内(はらしない)さんは過去に自分が飲んだ同じビンテージの別のボトルと比べてこのボトルはこうだ、というところまでしっかり教えてくれる。さすがプロ。リスペクト。
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そして観察力も重要。
「このボトル上手くバーボン樽の甘みが乗っているのですごくオススメです!多分お好きだと思うんですよね…」(私が微妙な表情→察し)「あ、そういえばこの前これ飲んでいただいてましたよね」的な観察力と機転。こちらとしては「いやそれこの前飲みました」とか超ストレートに無粋なこと言って場を気まずくしたくないので、黙っていても気づいてもらえると本当にありがたい。
記憶力も観察力も残念なバーテンダーの場合、熱いボトル推しトークを何度も聞くことになり、上手く角が立たないように断るのに仕事の時のように気を遣って疲れるので足が遠のいてしまう。

あとは自分の知らなかった世界を見せてくれる提案力。
「たぶんこれお好きだと思いますよ」と勧められて飲んだ、まったくノーマークだったボトルがめちゃくちゃ自分好みだった時は、自分の知らない世界を教えてくれたバーテンダーに心から感謝したくなる。家で飲んでいると自分が知っている世界だけで完結してしまい、自分の知らなかったことを知ることは基本できない。未知の知というか、自分の知らない世界がありもっともっと素晴らしいものに出会える機会があるという当たり前のことをバーで教えてもらえると、大げさだが生きる希望が湧いてきて本当に有難く思う。今は北京に行ってしまったけれど、渋谷のカリラとポットスティルにいた元永さんはこの意味で凄かった。
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さらに言うと、技術が卓越していること。
例えば最も有名なウイスキーベースのカクテルの一つマンハッタンは、ウイスキーとヴェルモットをステアしてビターズを数滴たらすとできるという単純なレシピのはずなのだが、家で作ったのと銀座ゼニスの須田さんが作ったものでは全然味が違う。
もっと言うとウイスキーソーダで割っただけのハイボールでもバーで作ってもらった方がたいていの場合美味い。
やはりバーテンダーの技術は単純な飲み物を作ってもらうとすごくよくわかる。
鮨とか天ぷらとかと同様にカクテルも基本はおうちで作るものではない、というのが最近達した結論で、やはりプロの技というのは尊敬に値する。


(こちらでご紹介していないバーマンでももちろん素晴らしい方はたくさんいらっしゃるので念のため)
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リスペクトできるバーテンダーがいるというのはそのバーを好きになるために非常に重要なことだと思う。

お客さんがバーテンダーをリスペクトしている店では、バーテンダーが他のお客さんの相手をしているときは自分のグラスが空いても客は自分のオーダーを聞いてもらえるタイミングが来るまで大人しく待っている。それがバーテンダーの仕事に対するリスペクトだから。

そしてちゃんとしたバーテンダーは客が気を遣っていることに気が付いていて、何も言わなくてもすぐに次の一杯を何にするか聞きに来てくれる。それによってお互いをリスペクトする関係が成立する。そして隣にいるお客さんもそれを見て同じような気遣いをする。

だが客が店に気を遣ってもそれに気づかないようなバーテンダーがやっている店はたいてい店が荒れる。
自分に声がかかるのを待っている客がいるのに気づかず、何も考えずに「すみません!」と声掛けする別の客をバーテンダーが先に相手してしまったりすると、お行儀よく自分の番が来るのを待っていた客がバカバカしくなって店に気を遣わなくなる。
そして悪循環が起きてどんどん店が荒れていく。
人からリスペクトを受けられないのに一方的に人をリスペクトするというのは人間の感情の上では非常に難しい。

そういう「言ったもの勝ち」「声のでかいもの勝ち」みたいな、世の中でありがちだけれど自分の理想とは程遠いことが起きる場所にわざわざ金を払って行く理由を私は持ち合わせていない。仕事なのであれば百歩譲って我慢するけれど。仕事を終わった後の自由な時間でそんなことが目の前で普通に起きるようなところにわざわざ金払ってまでいたくはない。

だからリスペクト出来るバーテンダーがいる店が好きだ。そんな店では「金払っている客が一番偉い」みたいな勘違いした人はほぼいない。

 

 

 

 

 

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