東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

京都 寺町三条 サンボアにて

京都寺町三条を下ったところにあるサンボア。

学生時代を過ごした京都だが、サンボアは畏れ多くて立ち入ることがなかった。というか酒の味を全く分かっていなかったので、お店のありがたみが理解できていなかった、というのが正直なところだろう。

10月だというのに蒸し暑い夕方、寺町通りを歩くとサンボアの窓が開け放たれていて、店に自分が呼ばれている気がした。おそらく何かが「そろそろあなたもこの店に来てみる潮時なんじゃないの」と背中を押してくれたのだと思う。

まだ先客はいない。思ったより薄くて軽い木の扉を押して店に入ると、ごま塩頭のマスターが一人カウンターに立っていた。

カウンターに陣取って、しばらく店の中を眺め、白州12年ソーダ割りをオーダー。

少し厚めだがピカピカに磨き上げられたグラスに、無造作に目分量で白州が注がれる。そして四角い薄いレンガのような形の氷。ウィルキンソンも氷を避けることなく、大胆に。

蒸し暑い夕方にはソーダ割りが旨い。白州12年ってこんなんだったっけ?と思いながら啜る。

京都新聞の夕刊が手元に滑ってくる。大丸、タカシマヤ、藤井大丸の催し物カレンダーが2面記事を占領していて、京都が相変わらず平和な街であることを確認。とはいえ3週間前に来たばかりだが。

 

「今日は蒸しますね」。

「せやね」。

ほんのわずかな会話の後、男二人しかいない店の中は沈黙で満たされる。開け放たれた窓から、寺町商店街の案内が無限ループで聞こえてくる他は、静かな店内で淡々と時間が流れる。

 

グラスも8割がた空いた頃、通りに面した窓に非常に繊細な和風のガラスが張られていることが気になってマスターに尋ねた。

「あの窓ガラスは、割れてしまったら替えはないんじゃないですか?薄っすい薄っすいから、気をつけないと大変ですね。」

 「せやね、もうないね。だからいくつか先に注文してある」

「昔学生の頃京都に住んでいて、今は東京にいるんですけど、吉原の天ぷら屋さんも同じこと言っておられました。もうないから、注文しただけでおしまいやって。」

「大きな荷物持ってくるお客さんがたまにいるけど、割れたりしないかと思ってドキドキするわ。入り口のドアのガラスももうないね。

でも『薄っすい薄っすい』っていうなんて、やっぱり京都に住んでたんやな」

 

そこから少し雰囲気がほぐれた。やはり京都の人だ。

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グラスが空いて、さらにピートの重いウイスキーのソーダ割りが飲みたくなり、アードベッグのウーガダールをお願いした。ストレートだと重苦しく感じられることもあるアードベッグをさらにヘビーにしたウーガダールだが、ソーダで割るとさわやかな中年、みたいになるから不思議だ。

 

常連客らしき人が入ってきて、鶴の17年ソーダ割りをオーダー。マスターとはぼそぼそと二言、三言だけ話す。そしてまた沈黙。サンボアは静かな時間の流れる大人のバーだった。