渋谷ロックバー 道玄坂ロック
モルトバーにて散々いいボトルを飲ませてもらって気持ちよく酔っ払い、次の日のことを考えたらそのまままっすぐ家に帰ればいいのに、つい寄ってしまうバーがある。
渋谷の猥雑な一角にある雑居ビルの5階。私がそのビルの中にある怪しげな店に直接向かうと勘違いして客引きがエレベーターに飛び乗ってきたことが何度かある。自分の成績にしようとしたかったらしい。エレベーターのドアが開くとバーの扉は目の前。
バー「道玄坂ロック」。カウンター6,7席、テーブル席2つのさほど大きくない店。通常はお酒が置かれているカウンターの後ろにはレコード棚とオーディオ、JBLのスピーカー。カウンターの外にも物凄い量のレコードがある。バックバーはカウンターの外。その隣には1960年代製と思しきGibson Firebirdが飾ってある。
店主は(とても)愛想がないので驚くかもしれないが、心配する必要はない。あなたにだけ愛想がないわけではないので。そこそこ訪問しているはずの私でも世間話などしたことがない。
こういうお店のウイスキーはスタンダードなものしかない場合が多いのだが、このバーには山崎12年、余市10年や旧ラベルのラフロイグ18年などウイスキー好きがみたらニヤニヤしてしまうようなボトルが置いてある。この3つは在庫がなくなれば終わりだろう。私はたいていラフロイグ18年かタリスカーやエライジャクレイグのソーダ割をオーダーする。ストレートで頼むとテイスティンググラスに入れてくれるのも、この手のバーではあまりないので嬉しい。
お通しには木の器に入ったピスタチオが出てくる。カウンターでピスタチオの殻を割っていると、手持ち無沙汰な感じがしなくなるのでありがたい。きれいに割れたり、なかなか割れなかったり。そもそもウイスキーととても相性が良い。
この店は客が自分の好きな曲をリクエストできる。レコードは数千枚あるぞ。CDも12000枚ぐらい。厚さが10センチ近くあるカタログには邦楽洋楽と時代を問わず大抵のものが乗っている。Robert Johnsonから松田聖子からプロディジー、メタリカまで。そして目の前においてある紙に自分の聴きたい曲を書いて、店主に渡すスタイル。紙を渡した途端に握りつぶされくしゃくしゃにしてポイ捨てされるが、そんなことでめげてはいけない。
当店でリクエスト可能なアルバムリストはこちらです。
— 道玄坂ロック (@dogenzakarock) March 29, 2019
ただし、リスト記載漏れのアルバムも多数ありますので、リストに無くても一応リクエストしてみて下さい。
左から、アルバムタイトル、発売年、フォーマット、注釈、収録代表曲です。https://t.co/CJgyIIv7rP pic.twitter.com/ufanqs8i77
流れている音楽がレコードからのものだと壁にそのジャケットが飾られる。CDからだとプロジェクターでジャケット画像が壁に映る。
まあこれも「ジャムパンが好きかカレーパンが好きかで喧嘩するな」のたぐい、人の趣味の問題なので私が口を出すことではないのだが、店にあとから来た客はしばらくどんな曲がかかっているか確かめてから、比較的ジャンルの近い自分の好みの曲からリクエストするのが好ましいと思う。他のお客さんや店主の趣味やその時の気分をリスペクトするという意味で。
しばらく待ってみて自分の趣味寄りの曲がかからない時は、他のお客さんのリクエストがないときを狙って自分のリクエストをお願いするのが無難なように思う。私がそうしているだけだけれど。
ちなみにキリンジのエイリアンズをリクエストすると自分の手書きのリクエスト用紙の写真が「本日のエイリアンズ」としてTwitterに晒されることがあるので注意。
リクエストされすぎて店主が聴き飽きている楽曲は以下です
— 道玄坂ロック (@dogenzakarock) September 11, 2019
・エイリアンズ/キリンジ
・ボヘミアンラプソディ/Queen
・ヒーローズ/Dボウイ
・ドントルックバックインアンガー/oasis
・ブギーバック/オザケン+sdp
本日のエイリアンズ pic.twitter.com/dqoBteOX24
— 道玄坂ロック (@dogenzakarock) October 13, 2019
普通の尺度で言うと居心地いいサービスのバーとは言えないのだが、スピーカーの前に座って自分のリクエストをレコードからかけてもらって聴くと、そんなことはどうでもよくなる。
JBLのスピーカーはやたらと音の分解能が高く、録音のいいレコードだと、ストラトキャスターやファイアバードのピックアップからアンプにケーブルで突っ込んだそのままの生の音が突き刺さってくる。目の前でライブを見ているかのよう。
先日Johnny WinterのLiveから1曲目、「Good morning little school girl」を掛けてもらったのだけれど、ツインギターの左右のセパレーションもくっきりしていて臨場感が素晴らしくうっとりした。
CDよりもむしろレコードの方が音質良く感じる。ぜひカタログからレコードを選んでかけてもらってほしい。
何度か来ると分かるが、いつ来ても恐ろしくきれいに掃除されており、いつものものがいつもの場所にきちんと置いてある。レコードの棚も乱雑になっているところを見たことがない。
そして禁煙というのも私にとってはありがたい。店の奥には喫煙スペースがあるようなので愛煙家の方も困ることはないだろう。私は行ったことないので知らんけど。
壁にはアルバムジャケットが映し出されていないときはクルマで都内や沖縄、タイなどを流しているときの車窓からの風景が映る。川崎辺りを走っている映像だったとしても何だかぼうっと見入ってしまうから不思議なものだ。
音楽が好きな人なら一度は行ってみてほしい。いい音で自分の好きな音楽が聴かれるモルトバーには残念ながらまだ出会ったことがない。自分がバーをやるならこれぐらいのこだわりを持ちたい。自分のリクエストを掛けてもらったあとに井戸さんが私の好みの延長線上の知らない曲を掛けてくれるとただ愛想良くしてくれるだけがいいサービスではないことがよくわかる。
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