東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

本を読むことの意味(それもウイスキー飲みながら)

本を読むということは私にとって非常に重要なことだ。他者が人生の大部分を費やして辿り着いた経験知を簡単に手に入れられる。人が老いてからようやく気づいた後悔について書かれた自伝的小説を仮に読んだとすると、私が同じような過ちを犯して死ぬ前に同じように後悔する可能性はわずかながらかもしれないが下がる。その分、自分の人生を後悔なく生きることができるようになるわけだ。それも何十人、何百人といった人の人生の教訓を簡単に得ることができ、それにかかるコストは本代と読書にかかる時間のみ。(念のため言っておくがHow-to本を何百冊も読めとは死んでも言っていないので誤解のないように。それは多くの場合時間と金の無駄遣いだ。)私の生きる時間は有限で一度だけの人生だが、沢山の人が人生をかけて学んだことをわずかな費用と時間で得られる。そして人と会って話を聞くのと違っていつでも自分の都合がいいときに(寝っ転がりながらでも、酔っぱらいながらでも)それに触れることができる。こんなに費用対効果が高いものはない。

私の人生に大きな影響を与えた本「まぐれ」「ブラック・スワン」の著者ナシーム・タレブの邦訳が最近発売された。「反脆弱性 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」という本だ。原書が2012年に出ているので、日本版が出るのに5年もかかったということになる。最近はその本を読むのが本当に楽しみだった。ちびちびとウイスキーを飲みながら読み、電車の中でのわずかな時間でも読む。そして自分の中でまた咀嚼する。
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彼の本から学べることのたくさんのうちからいくつか紹介する。

過去がこうだったから、将来もこうなるとは言えない。七面鳥は飼い主から毎日毎日手塩にかけて育てられ、七面鳥からすると飼い主からの愛情は永遠に続くと思えるかもしれないが、3年経った感謝祭の直前にそれが間違いだったことに気づくことになる。七面鳥は感謝祭のごちそうになってテーブルの上に乗る。1000日間同じことが続いたからと言って、1001日目も同じ1日になるとは限らない。逆もまた真。新しい技術や油田の発見のように毎日何の結果も出なかったとしても、ある日突然とんでもない発見をするかもしれない(逆七面鳥問題)。

したがって未来は予測できない(100年後に人間はとてつもなく荷物を運ぶのを簡単にする画期的な仕組みである車輪を発見する、と予想できる人がいたら、それはすでに「発見」されている)。予測できないが実現すると社会にとてつもなく大きな影響を与えるものをブラック・スワンといい、ブラック・スワンが起きた時に敗者にならず利益を得るものになるためにはどうすればいいのか考えるべきである。未来を予想することができると考えたり世の中で起きていることをモデルで説明できるという人は世の中に自分(あるいは人間)が知らないことはない、という傲慢な考えを他人に押し付けている。

この本がマニアックな本でとっつきにくいと感じる人も多いかもしれないが、全部を理解する必要はない。村上春樹の小説を読了して「だからなんなの?」という人がいるが、いや別に一つの結論とかってものはないんだけどそれが何か?と逆にこちらが聞きたくなる。それと一緒で、得ようとすれば学べることはいろんなところに転がっている。


酒を飲みながら、読んだことの意味を改めて自分の中で反芻する。前にも書いたが酒を飲むとずっとしまったままだった記憶の抽斗が開くことがある。バーテンダーの人と話す時間もそれなりにあるが、本から得たものを触媒にしながら時間に迫られることなく酒を飲んで記憶の抽斗から様々なおもちゃを取り出して脳内で遊んでいるうちに、本から得たものが自らの血肉になっていく気がしている。

最近圧倒的に旨かったのはLagavulinの2017年アイラフェスティバル記念ボトル。もともとLagavulinの16年はバランスがいいけれど、それをもっともっと洗練させてピートのスモーキーさがシェリーの甘さに包まれながら長い余韻が続く感じ。熟したベリーとマーマレード。素晴らしい。あまりの出来の良さに驚きWhisky Exchangeなどで買えるかと思って全力で調べてみたけれど全然見つからない。Caol Ilaのフェスティバルも悪くないけれど、Lagavulinの出来が良すぎて埋没。渋谷のCaol Ilaさんにて。

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新橋のCapadonichさんに久しぶりに行って飲んだElements of IslayArdbegも同系統の旨さだった。ArranもBenriachもバーボン樽のしっかり効いた骨太な造りで私の大好きなタイプ。

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Capadonichは他のお店に比べていいものがリーズナブルな価格でいただけるイメージがある。お一人でやっていらっしゃるからできることなのかもしれない。お客さんもそこからメリットを受けているわけだから、その辺のことをわかったうえでオーダーする人を見ると「ああこの人大人だな」と思う。あるお客さんが注文したカクテル作っていらっしゃるときに横から別のオーダー出したりせずにしばらく待っている人とか、シュワシュワ泡が出るものを頼むときには二人で同じもの飲むカップルとかは見ていて気持ちがいい。

レストランで本当に旨いパスタを食べたいのなら、何人かで出かけたとしても同じ種類のパスタを全員で注文しろ、とか、鮨とショートカクテルは出てきたらカウンターの上に置きっぱなしにするな、とかいうようなことも本や小説から学んだ知恵で、意外と本から得た知識は私の血肉になっている。どちらかというと肉というよりは脂肪として身についている気がするが。