台北にて バー麦村とイケメン兵隊さんなど
ホテルのサウナで整ってから、小雨の降る中、歩いて10分ほどのバー麦村へ。何となくThe Whoのロゴを思い出させる看板。
ここはバックバーからボトルを出してきて客に飲ませるのではなく、客が店にあるラックから好きなボトルを選び、自分でカウンターに持って行って注いでもらうというスタイル。日本語も英語も聞こえてくるし、カップルもいれば男2人もいれば私のような一人飲みの人もいる。香港人のお金持ちそうなカップルはジャパニーズウイスキーの高いボトルをずらっと目の前に並べている。
ウイスキーだけでなくフードも提供、誰も食べていなかったけれど。黒板にチョークで書かれたメニューのネーミングがユニークだな、というのはなんとなくわかる。
最初は分かりやすいものを飲んでまず落ち着いてから、そう思って選んだのがコニサーズチョイスのPulteney。GMがコニサーズチョイスをリニューアルしてからデザインもカッコよくなったし、内容もほとんど外れがない気がする。Pulteneyらしさが味わえるドラムだった。
沢山のボトルの中から東京だと飲めなさそうなものを探す。少し悩んだ挙句、ソサエティの最近飲めなくなった昔のラベルのAuchroiskを発見。95.7、2007年リリース。リリース番号一桁はすごい。
奥斯魯斯克、と書いてオスロスク、これは漢字見てなんとか蒸留所名を言い当てられる気がする。
硫黄っぽいマッチを消した後のような香りだが口に含むとドライプルーン、蜂蜜、トフィー、濡れたタバコとアルコールのアタック。余韻は長くて複雑。
サントリーやニッカ、イチローズモルトもなかなかの充実だけれど、台湾でしか飲めないものを探してみた。Kavalanも充実しているが南投蒸留所のOmarが数種類あり、店の方に飲むならどれがいいか伺う。暑いところなので通常は4年ぐらいで相当熟成が進むため8年だとかなりの長熟になる上、シングルカスクのカスクストレングスは珍しいのでこれを飲むべきだ、とのこと。Omarは飲んだこと無かったので貴重な体験。
香りは黒い葡萄と苺、マジックのインク。口に含むと甘い麦感が一気に押し寄せて未熟のバナナ、イチジク、わずかの苦味。8年という年数から想像したよりも良くできていて心を落ち着かせる感じ。台湾で地元の美味いものを発見した、という感じが強くした。
お店の方も「どうやらこいつ変わったウイスキー好きらしいな」と思ったようでいろいろ見繕ってくれてありがたい。「次何飲む?シェリー系飲む?お勧めのいいのがあるよ」と言われたのでありがたく頂戴したのがDufftownの30年、1979年蒸留。
左のグラスがDufftown。色がとても濃い。香りは酸味を感じるコロンビアのコーヒー、ドライプルーン、タバコの葉。口の中では杏仁豆腐、ブラックベリー、柿の渋み、少しカラメルが焦げたクリームブリュレ。ああ美味しい、とつい言葉を漏らしてしまう。
これほんの少しだけボトルに残っていたやつだからどうぞ、と言われて飲んだのが真ん中のエージェンシーのボトル。サウナ上がりに割としっかり注いでもらった4杯飲んだ後なのであまりはっきりとした記憶がないが、どこかで見たことある。
初めての街で初めて来たバーなのにそう感じさせない落ち着ける一軒だった。値段も良心的でクオリティ対比新橋のバーで飲むのと変わらないイメージ。
バーに一人で行くとカウンター席でバーテンダーとのコミュニケーションが必要だからめんどくさい、という人もいるかもしれない。特に日本国外だと。しかしここは一人で来てもスターバックスみたいにテーブル席で飲むスタイルなので人に気を遣わず気楽に飲める。
言葉に自信がなくても自分でラックからボトルを選ぶスタイルなのでちゃんと飲みたいものを注文できるし、バックバーの後ろに隠れているウイスキーが気になるけどバーテンダーに言って奥から取り出してもらわないといけないので申し訳なくて頼めない、なんてこともない。値段もボトルの裏に書かれているので明朗会計。店側も一人で来てカウンター占拠して大して売上に貢献しない「自称常連客」のお話にずっと付き合わされて他のお客さんへの接客が疎かになることもない。
このスタイル、意外とメリット多いかも、と思った。日本でも外国人客が多い店でスタッフ全員が外国語話せるわけではない、だけどジャパニーズウイスキーの品揃えは充実している、みたいな店でこのスタイルでやってみると面白いかも。
そういう意味ではウイスキーを純粋に楽しみたいのでセルフサービスで構わない、ちゃんとしたストックさえ置いておいてくれればいい、という人だけを相手にした店が成立する台湾はある意味成熟したウイスキー文化のある「ウイスキー先進国」なのかもしれないと思った。自分の蘊蓄聞いてもらいたいモルト好きばかりの国だと成立しないと思うが。
101の中で見つけた自動販売機。3万円ぐらい払ってもいいので私も少し知能を補給してもらいたい。
台湾三大観光名所の一つ、中正紀念堂にて。皺一つない儀礼服を着て曇り一つないヘルメットを被った衛兵が蔣介石の像の前に直立不動、ずっと微動だにせず。
一時間の持ち時間ずっと動けなくて、流石に辛いだろうな、と思ってみていたら、実は助っ人がいた。下の写真に写っている黒服の兄さんがマネキンのように動かない兵隊さんにさりげなく近づいて行って耳元に何か囁き、兵隊さんは唇をほとんど動かさずに何か答えている。
そして黒服の人は僅かにうなづくとあたかも兵隊さんの服装が風でわずかに乱れたのを直している、というようなふりをしながらウルトラさりげなく膝の裏を掻いてあげていたのを目撃してしまった。
動くことのできない兵隊さんは、いったん痒い、と一瞬でも思ってしまったらもう頭の中がそれでいっぱいになって気が狂いそうになってしまうことは容易に想像できる。
頼む、ひざの裏が痒くて死にそうなので掻いてくれないか、もちろんだ兄弟、他に何かあったら言ってくれ。
ああ、俺がこの兵隊さんだったら同僚だと思われるこの黒服の人に間違いなく惚れてしまうわー、ボーイズラブの世界を見てもうた、と思いながら人とは違う中正紀念堂の楽しみ方をしてしまった。
麦村で飲んだけれど、流石にずっと運動しないわけにもいかないので早朝の台北の街を走った。101に反射する朝焼けが美しい。
ファイナンシャルディストリクトのようなところを走り抜けると、立国国父紀念館があった。朝の7時前だが公園では太極拳などしている人たちがたくさんいる。
ここでも朝の7時に儀仗服を着た兵隊さんが国旗掲揚を行っていた。国歌が流れ、兵隊さんの手で厳かに国旗が掲げられる。
やはり自らの統治制度の正統性を強く主張しないと大陸に飲み込まれる、という潜在的な危機感があり、アイデンティティの発露というか主張がこういったところに顕れているのかもしれない。市ヶ谷でもやっているのかもしれないが、皇居前広場や東京駅前の行幸通りで同じことをすると拒否反応を示す人はたくさんいるのだろう。彼我の差を思う。
国旗掲揚を見終わってランニングを再開、ホテルまで7㎞ほど走って戻り、屋上のプールに上がって泳いだ後で台北の街を一望。
今までなぜここに来なかったんだろう、とまた強い後悔のようなものを感じるところだったが、むしろこれからもこんな新鮮な驚きが沢山待ち構えていると思うとこの先の人生も楽しみで仕方ない、ということなのだろうな、と台北の街を眺めながら気が付いた。
ウイスキー・ライジング: ジャパニーズ・ウイスキーと蒸留所ガイド決定版
- 作者: ステファンヴァン・エイケン,Stefan Van Eycken,山岡秀雄,住吉祐一郎
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