東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

中野 South Parkにて、あるいは初めて訪れるバーに期待すること

先日、中野飲みを敢行するため久しぶりに東西線に乗った。いつも乗っている丸ノ内線とは全然雰囲気が違う。銀座にて仕事帰りに食事したり買い物したり、あるいはそのあとから仕事が始まる女性たちのおかげかかなり雰囲気が華やかな路線に比べ、東西線は車両が古かったせいか照明がなんとなく薄暗く、車内の空気の成分の2割ぐらいはサラリーマンの溜息でできているのではなかろうかという気がした。


猥雑な北口をすこしふらついて、駅からさほど離れていない魚の旨そうな居酒屋へ。微妙な高級感のあるしつらえで、箱がでかい。谷中の新生姜、空豆、シャコ、焼き地ハマグリなどをお願いする。隣では金目の煮つけの大きな皿をつつきながら一人で飲んでいる人がいる。ある意味粋。一皿1000円を超えるものがあるなど中野にしてはハイエンドだが、結局二人で飲んで食べて5000円ほど。クオリティを考えると安い。そしてもう一軒焼鳥屋へ。


おそらく中野は日本一の焼鳥屋密度が高い街だろう。感覚的には5分歩けば20軒以上の焼鳥屋を見つけられる気がする。そして大抵の店は混んでいる。昔の秋葉原と一緒で、「あの店ダメだったらこの店行ってみよう」ということでお互いに補完しているのかもしれない。何軒か覗いてみたがなかなか入れず、しばらく散歩がてら夜風に吹かれつつ店を見つけ、ハイボール飲みながらつくねや皮、レバーなど。ここにも1時間ほどいたがお勘定は4000円ちょっと。2軒回って酔っぱらってお腹もいっぱいになったが一人5000円しなかった。東京の真ん中ではこうはいかない。

飲み終わって私一人で以前から気になっていたSouth Parkというバーへ。松本清張の「砂の器」の蒲田操車場を思い起こさせる暗くて少し寂しい線路横を歩き、紅葉山公園の坂を下った交差点の近くのビルの地下。公園の南だからSouth Parkなのか、あのシュールなアニメから名付けたのか。

店に入ると、思ったよりも広いことに驚く。20人くらい並べるのではないかというカウンターがあり、バックバーもその分大きく、圧巻の数のボトルが並ぶ。そしてカウンターにはCadenheadの黒いラベルのSmall Badgeシリーズと金ラベルのSingle Caskシリーズの角ボトルが二重にずらっと置かれている。カウンターは広くてボトルが二重におかれていても、酒飲みが圧迫感を覚えることはない。

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先客は私の左右に一人ずつ、そして大分離れたところにカップルが。左の人は立ちながら飲んでいて、おそらく私と同様に腰痛持ちなのだろう。親近感が湧く。

日本人離れした上背の一見いかつく見えるスキンヘッドのバーマンが、丁寧にオーダーをとってくれる。ハイランドのバーボン樽のものでお勧めがあれば、とお願いしたら、どこの蒸留所のものを飲んだことがありますか、と聞かれた。結構いろいろ飲みました、と答えると、Teaninichの27年、Bladnoch Distillery Forum向けボトリングを持ってきてくれた。

初めてのバーだとコミュニケーションが少し難しい。席に通されてさてどうしましょうか、というのを上手い感じで言って頂けるとこちらも頼みやすい。常連客の相手をしていてこちらに振らなかったり、店が客を試すような注文の取り方をする店はたまにあるが、そういう店に再び行くことは結果としてあまりない。


大抵わたしから「この地域のこんな感じのものでお勧めを何本か持ってきてください」とお願いし、バーマンがどんなものを持ってきてくれるのかでまず店の雰囲気を探る。そしてバーマンはそれらのボトルを紹介しながら、こちらが何を言いながらどれを選ぶのかを見て客の雰囲気を探っている。

初めてのお店に、あるいはすべてのバーもしくはバーマンに期待していることは、こちらのストライクゾーンを広げてくれる、あるいはこれまで試していなかった超ストライクの球を見繕って投げてくれるかどうか。

ちょっと変な喩えで言うなら、スタイリストにお任せして髪の毛をカットしてもらって、自分だとこのような髪型にしてくれ、とは思いつかなかったけれど、鏡をよく見ると実は意外と自分によく似合っていた、あるいは、最初はなんだかなあと思ったけれど次の日周りの人から「その髪型とってもよく似合っているよ」と言われた、そんなような仕事をしてくれるスタイリストと巡り会えると、とても嬉しい。

それと同様に、見ず知らずの他人同士なのにもかかわらず、わずかばかりのコミュニケーションの中からこちらの好みを見抜いてくれて、それに合う私の知らないもの、そして飲んでみたら感激してしまうようなものを提案してくれるバーマンと巡り会えるのは酒吞み冥利に尽きる。

そんな店のストックを広げるために、初めての店のドアを開く。

持ってきてもらったTeaninichは初めて飲む。こんな蒸留所があったんだ、と嬉しい驚きがあった。まだまだ飲んだことがない蒸留所は残っていることは、むしろ嬉しいことだ。全蒸留所を征服するという目的のためだけに急いで飲むよりも、今後時間をかけて自分の好みの酒を見つけていく楽しみを温存したい。

2杯目はCadenheadから。Cadenだけのメニューというかカタログがあり、おそらく200種類は下らないだろうというコレクション。その中で大好きな蒸留所のひとつであるDailuaineを選ぶ。これも間違いのない選択だった。

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そして3杯目はElginかBurgieかでお勧めがあれば、とお願いして出てきたGreen Elgin。本当に緑がかっている。樽がなせる業に驚くことは多いが、酒が緑色になるとは。そして先入観からかもしれないがさわやかな果実を思わせる涼しげかつ繊細な味わい。いい物を飲んだ。

カウンターで飲んでいた客がカウンターの中に入っていったので???と思っていたら、実はその方は二方さんというオーナーで、初めて来た客であるわたしに挨拶してくださった。奥様もお店に立たれていて、こちらもご挨拶。その後オリジナルボトルのClynelishを飲んで、その日は退散。

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そして数日後、改めてまたSouth Parkへ。今回はわざわざそれだけのために。裏を返す、というかまた何かを期待して。

スウェーデン語で「炎の水」を意味するSvenska EldvattenというボトラーのBenriachから始め、CadenのAuthentic Collectionからお勧めいただいたCaol Ila8年、そしてこちらも好きな蒸留所のひとつ、Burgie21年。

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そしてDuncan Taylor のPeerless Collection、というかDimensionsのCaperdonich37年。ちょっと力強さは失われているがやさしい味わい。最後にIchiro's MaltからMalt & Grainの白黒飲み比べ。

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どれだけのボトルが入れ替わるか、というバックバーの回転の意味では他の店に譲る部分はあるかもしれないが、ストックされているボトルの数で行くと途轍もなく楽しめる店だと思う。もっと通うと、いろんな違った面が見られるのではと思うとまたひとつ楽しみが増えた。

ちなみにSouth Parkは禁煙なので、念のため。

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自分史上最も高くついたウイスキー

 

GW二日目にぎっくり腰、というか腰椎すべり症を発症してしまい、あまりの痛さにベッドに横になっていたいのに寝ているだけでもダメで少しは歩いてください、と言われたので激痛に耐えながら家族と散歩に出かけただけで私の大型連休は終了。

そしてGW明けに嫌な予感がしながらもどうしても行かなければならない大阪出張に行き、何とか無事に仕事を終えて夕方伊丹空港に向かい、フライトまで小一時間ほどあったので空港からすぐのところにある前から行ってみたかった念願のSake Shop Satoへ。珍しいウイスキーがあまりプレミアムを付けずに売られている良心的なお店だと聞いていた。

雨が降る中、タクシーの後部座席の反対側のドアから中腰で降りようとしたときに再び激痛が腰に走る。典型的なぎっくり腰の症状。流石に変な声を出しながら店に入ってきたら怪しすぎるので、うめき声をこらえながら店に入る。「クルマ降りた時に腰を痛めちゃいました、渋谷のCaol Ilaの元永さんの紹介で来ました」と何とか声を絞り出し、店の中の段ボールに手をつかせてもらって深呼吸。しばらくして人間らしい動きができるようになり、お店の中を見せてもらった。

黄色いラベルのSake Shop SatoオリジナルのCaol Ilaが置いてある。「これ飲みましたけど、美味しかったです」というと若旦那が喜んでくれた。痛いのであまりゆっくり見て回る余裕もなく、「お勧めのものを2本程ください」といって選んでもらう。
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飛行機の中で痛み止めが効かず、脂汗をかきながら腰が痛まない姿勢を探し続けているうちに羽田に着き、酒瓶の重さが応えながら帰宅。家からCaol Ilaの元永さんに「お休みの日にすみません、念願のSake Shop Satoに行ってきました、でも店入るときにぎっくり腰になってしまいました」とメール送ると、怪しい客が東京から来たことが佐藤さんから元永さんにすでに通報されていた。Sake Shop Satoには何の落ち度もないが、ある意味非常に高くついたウイスキーだった。

話は変わるが、信濃屋のウェブ上では予約で完売してしまったBBRのDailuaine、1992年22yoを実店舗、というか世田谷代田の本店で発見。大のDailuaineファンとして、手に入れられて本当にうれしい。
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またもう一つ嬉しかったのは、先日アイラの蒸留所の200周年縛りシリーズ、Lagavulin、LaphroaigArdbegを飲めたこと。Lagavulinはまだ8年なので軽さがあるが、それも美点、というか軽快な感じで旨い。これが日本に8000円程度で入ってくるのであればぜひ2本ぐらい買いたい。Laphroaigは以前飲んだが不覚にも酔っぱらってどんな味だったか忘れてしまったのだが、改めて飲んでみて出来の良さに驚いた。2本確保しておいてよかった。信濃屋本店でまだ売っていたので、気になった方はぜひGetしていただければ。ArdbegのPerpetuumは他の2本と比べると何となく有難味が薄い。

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腰痛の痛み止めを飲んでいるせいで、ちょっと飲むだけですぐ眠気が襲ってくる。早く運動できる体に復活して、健康的に酔っぱらえるようになりたい。

G&MのBalblairが終売に

入社3年目までぐらいの20人ほどを前に仕事について何か話してください、と頼まれ、会社の会議室でランチをとりながら3つほど小話をした。

1つ目は、赤白100個ボールの入った箱があってそこからボールを1個取る。100個のうち99個は赤で赤を引くと100万円もらえるが、1個だけ入っている白を引くと2億円払う。あなたはこのゲームをやるか?あなたがマネージャーになったら部下がこのゲームをやりたいと言ったらなんというか?

この問題はかなり奥が深い。100個全部引くと9900万円貰って2億円払うからネットで1億100万円の損。1回当たりの期待値はマイナス101万円。
期待値はマイナスだが、ほぼ100%の確率で100万円がもらえる(ように思える)ので調子に乗ってやりたがる人が多い。特にキャリアの初期に成功者になった気がするので若者はやりたがる傾向が強い。
だけど100万円儲かった、1000万円儲かった、とうれしがって2億円払わされる確率が上がっている (箱にはボールを戻さない)ことを無視しているうちにハズレを引いて結局大負けする羽目に。

白玉引いたらそこでゲームオーバー、だと期待値は1.5倍も悪くなる(残り全部の当たりが引けなくなるので)。

つまりこのゲームはロシアンルーレットと一緒。確率が低くてもダウンサイドを食らったら立ち直れないような賭けは何度もすべきではない(し、もしやりたかったらダウンサイドを小さくしておくべき=誰かにリスク移転する)。

現実世界はもっと難しくて、確率が事前に分かることはなく、ペイオフ(結果が100万円貰うか2億円払うか)も事前には分からないことが多い。

そんなような話をした。残り2つの話も含め、その場でアドリブで出来る話ではない(上に英語で話さなければならない)ので、前の晩に何を話すか考えた。原酒不足のために終売になってしまったGordon&MacphailのBalblair10年を飲みながら。

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蘊蓄をたれると、1790年創業でハイランドで3番目に古い蒸留所を名乗ってはいるが、その近くに1894年に建てられた新しい蒸留所で作られている。タイ資本所有。

今の若い人たちの言い方を借りると、「普通に旨い」。口に含むと加水してあるはずだがピリッとした刺激が口の中に広がり、その後甘みとクリスピーな穀物の感じが残って比較的速く消えていく。派手さはないが、飲み疲れしない。

こういう人目を引かない地味なウイスキーが終売になるのは仕方のないことかも知れないが、存在を忘れないでいることも大事だと思う。絶対値段が上がることはないのだろうが信濃屋渋谷店でストック用にもう一本買った。ウェブで見ると残りがやはり少なくなってきているようだった。

ちなみに残りの2つの小話はこちら。

教室の中で幼稚園児と二人きりになり、マシュマロを1個見せて、「このマシュマロ食べてもいいけど、今から先生が出て行って15分後に戻ってくるときまで食べずに我慢できたらもう1個あげます。」という実験を行った。3分の2の子供は我慢できずに食べてしまって1個しかもらえず、残りの3分の1の子供は15分待って2個もらえた。2個もらえた子供を追跡調査すると、センター試験に相当するテストのスコアが待てなかった子のスコアに対して平均で8%強高かった。われわれがこの実験の結果から得られる教訓は何か?

10年ほど前にNYからシャーロットに向かった飛行機が、離陸直後にバードストライク(鳥の群れとの衝突)によりすべてのエンジンが止まってしまい、不時着せざるを得なくなった機長が乗員乗客200人を乗せた飛行機をハドソン川に着水させて奇跡的に一人の犠牲者も出さなかったという事故があった。NYの市街地に墜落していたら乗員乗客はおろか、とてつもない数の市民も犠牲になったかもしれず、ハドソン川に緊急着水させた機長はヒーローだと讃えられた(ここまではノンフィクション)。その機長が自分のやったことに対して特別ボーナスを欲しい、とマネージャーであるあなたに言ってきた。その時にマネージャーとしてのあなたが考えるべきことは何か?

 

中野 Bar Esterにて

中野という街は、私の住むところからそれほど遠くはないのだが不思議とこれまであまり縁がなかった。

サンプラザ中野で、30年前熱狂的に好きだったギタリストが老いたとはいえまだ健在だったことを確認し、公演後居酒屋に入ったら店の中はまさにさきほど同じコンサートから出てきた中年の善男善女ばかりで、「昔ヘビメタ好きだった人たちは魚の旨い昭和の匂いのする居酒屋に集う年齢になったのだな」と変な感銘を受けた。
外国人観光客もたくさん集まるようになったと聞いた中野ブロードウェイを、週末の午後家族で冷やかしに行き、ダンジョンのような、あるいは大型のビレバンのような猥雑な建物と一部のマニアックな人たちが意図せず発する圧倒的な熱量のようなものでお腹が一杯になった。

私の中野体験というとこれぐらいのものだ。

だが最近、雨のしのつく平日の仕事帰りに中野サンロードからブロードウェイを抜けて早稲田通りを越えて新井薬師のほうに歩く機会があった。最近感度が悪くなっていたわたしの中の好奇心の受信機が、夜の中野の裏道が放つ波長を受けて激しく反応する。下北沢とも渋谷とも歌舞伎町とも違う、集積度の高い飲み屋街がそこにあった。所用のせいで再来を誓って帰宅。

そして昨日、満を持して再訪。自宅から軽く7㎞ほどジョギング。前回来て目をつけていた新井薬師に向かう商店街の中の天然温泉の銭湯、ことぶき湯に浸かって汗を流す。最近訪れた銭湯の中では最も混んでいて、湯船に浸かるのに少し待たなければならないほど。東京の温泉というと黒湯のイメージがあるのだが、ここは透明な柔らかいお湯。でも水道との違いは正直分からない。

中野ブロードウェイの東側にあるいい意味でぐだぐだに店が広がる夜の街角に気になるバーを見つけた。闇に沈む色に塗られた店とMalt Bar Esterと書かれた看板。屈まないと入れない控え目な引き戸の窓からこぼれる光に惹かれて入ってみる。

5、6名ほどしか入れなさそうなカウンターだけの小さな店に先客が一人。カウンターの中には2人は立てないだろう。圧巻のバックバー。ビンテージのボトルのみ。こういうところは一杯目を頼むのが難しい。最近好きなLinkwoodが目に入ったが、Rare Maltsの22年。一杯目にしてはかなりのフルスイングだとは思いながらもお願いする。
1972年の蒸留。私よりも1歳若い。もうすぐ半世紀が経とうとするぐらいのビンテージなのに全く枯れておらず力強い。そんなウイスキーがBaccaratの脚の長いグラスで出てくる。

先客が帰ったので客は私だけになり、お店の方とたわいのない会話が始まる。一昨日に京都の千ひろでいただいた食事が素晴らしかったこと。バックバーはネットのオークションではなくオールド専門の酒屋から仕入れていること。ネットオークションだと偽物が多くて、お客さんがイタリアから買った1950年のTaliskerが偽物だったこと。でも黙って飲むと違う蒸留所でも古いビンテージの原酒を使っているのでそれなりに旨いこと。などなど。

そんな話をしていると立ち飲み屋から流れてきたというやや酔っ払い気味の二人連れがご来店されて静かな会話はいったん終了。現行のボトルをほとんど置いていない店なのでウイスキーに詳しくない人が限られた知識の中でオーダーしようとすると結構大変。一杯の値段と好きな感じを伝えてお店に任せるのが得策なのだろう。

よく行く渋谷の店も、かなりハードコアなモルトバーなのにもかかわらず場所柄「どんな感じのお酒が好きですか?」と聞かれて「ウイスキーみたいな強い酒『以外』だったらたいてい好きです」的な答えをするカップルも割と来店し、そんな客にも嫌な顔一つせず美味しいカクテルを作って出すのだが、こちらの店も雰囲気に惹かれてウォークインで予備知識なく入ってくる人が結構いるかも。でもおそらくカクテルは作ってもらえない。

その後、偽物のTalisker1950年、というのを少し舐めさせていただいた。やはりTalisker独特のクレゾール臭がするので飲み比べたことのない人間からすると本物の気がする。そしてスペイサイドのバーボン樽熟成のお勧め、といういつものリクエスト。Benriachのオールドの10年を何本かの中から選び、完成度の高さに驚く。
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自家製のおつまみをいただきながら、カウンターに置いてあるSpringbankの丸くてずんぐりした陶器でできたボトルが気になる。オールドのものはベリー系の香りがするらしい。それもラズベリーではなくストロベリーのような甘い香り。そんな話を聞いていたらまた少しだけ味見をさせていただいた。確かにいちごのように甘いエステル臭。世の中にSpringbankのマニアの人がいるのも納得。だが私の好みはDaluaine、Glen Elgin、Capadonich、Mortlachなどで、幸いなことに値段がそれほど上がっていない蒸留所のもの。

そしてMaltmanのMortlach13年をお願いして〆とした。いい感じでパフューミーで旨い。Hart Brothersの22年を少しだけ飲み比べさせていただいたが、22年はパフューミー過ぎてちょっときつかった。今日のハイライトはオールドのBenriach。最近流行っているBenriachだが、昔のオフィシャル10年という基本のキがあそこまで旨いとは、と感心した。お勘定は3杯飲んで諭吉が2人いなくなって漱石が1人帰ってきた。まあそんなものだろう。
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気が付いたら真夜中近くなり、酔っぱらって走って帰るわけにもいかないので中野駅から新宿に出て、春の宵に咲くツツジを愛でながら歩いて帰宅。ツツジは桜などと比べて圧倒的に過小評価されているけれど、東京の街によく似合うとても美しい花だと思う。

 

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信濃屋巡ってお宝ハンティング

仕事用の小ぶりのアタッシュケースが欲しくなり、ウェブで物色していたら運よくよさそうなものを発見。実物を確かめ、内貼りをベージュから上品なパープルに変えてもらえたら即買い、と思い銀座に出掛けた。
革もいいし、思っていたサイズ。少々追加料金払ってもいいので内貼り変えてもらえるか聞きたくて店員を呼ぶ。
東レのウルトラスエード使ってあるとホームページに書いてありましたが、同じウルトラスエードの中にある薄紫色のものに変えてもらうことは可能でしょうか、もちろん追加料金は払います」「いえ、お受けできません」「少々値段が高くなってもいいので、お願いできませんでしょうか」「いえ、それはちょっと」
そんなめちゃくちゃなお願いをしているわけではなく、お金払えば何とかなる話だと思うのだが、相手にしてもらえず。なんだかな、と思いながらやさぐれ気味に店を出て、ストレス解消にウイスキー物色しようと近くの信濃屋に吸い込まれる。

やはり一人で来る信濃屋は楽しい。Laphroaigの200周年記念の15年が目に入り、まだ売っているんだ、知らなかった、と思って手に取って見ていたら、「それすごくいいんですよ~。それに普通の値段で出しています」と若い店員さんに声を掛けられる。信濃屋で店員さんから声かけられるなんて初めて。一度渋谷Caol Ilaでいただいたことがあるのだが、酔っぱらっていたせいか明確な記憶がない。そこまで勧められると飲みたくなり、飲んでみて美味しかったら困るので2本お持ち帰り。

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そしてその隣はCaol IlaのUnpeated15年2014年ボトリング。最近バーで飲んで感激し、自宅用に苦労してウェブで探し当てた一本。わざわざアイラのウイスキーでピート使ってないものを、という人も多分いると思うが、これが旨いのだ。いつか飲む機会が来る日までいい状態で眠れるよう、パラフィルムを巻き付けてLaphroaigとともに自宅の倉庫の奥にしまった。

昨日は娘がツクシを採りに行きたい、というので池尻大橋まで散歩。せせらぎの道、という遊歩道の横に毎年ツクシが生える。昨年は不作だったのだが今年はにょきにょき映えている。お浸しにして食べたいというので形のいいものだけ選ばせた。20本ぐらい採れたところで、大きなレジ袋にツクシをたくさん入れた二人組が上流側から来たのとすれ違う。その二人とすれ違った後は、ぺんぺん草も生えない、という表現がまさにぴったり。一本も残っていなかった。あきらめて、川沿いに歩いて代田の信濃屋本店へ。

信濃屋のウェブサイトでは売り切れになっていたCaperdonich、BBRの復刻ラベル for LMDW (La Maison du Whisky)[1992-2015]を見つけ、これも確保。Caperdonichは以前飲んだ際大好きになったので、LMDW向けに厳選されたBBR、という二重の保険が掛かっているものを見つけられて嬉しい。だがラベルをよくよく見てみても、LMDW向けとは書かれていない。以前飲んだものには1991 aged 22 years Selected for WHISK-E Ltdと明記されていたのだが、今回はSelected for LMDWと書かれていなかった。店員に聞いても要領を得ず。しかしいずれにせよ、閉鎖蒸留所のBBRボトリングのものを1万5千円ちょっとで買えて得した気がした。

f:id:KodomoGinko:20160313150502j:plainそして店内をウロウロしていたら、Arran The Bothy Batch1を発見。1本限り、とのこと。アラン初のファーストフィルのバーボン樽熟成後のアメリカンホワイトオークのクオーターカスクで18ヶ月以上追加熟成。Arranはこの前訪れたイチローモルト同様、小さな蒸留器が2基しかない小規模な作り手。調べてみると全世界で12000本しか作られておらず、Arranの公式HPで確認してみるとArranのオンラインショップで54.99ポンド、すなわち今の為替で9000円弱で売られているもの、が税込み7000円で売られていて、これも保護。信濃屋、ちょっと良心的過ぎはしないか。これだから信濃屋チェックは飽きないのだ。

 

イチローズモルトの秩父蒸留所に行ってきた

金曜日の遅くまで赤羽で酒を飲んだが職業病(もしくは加齢のせい)で翌朝も早く目が覚める。コーヒー豆挽いてゆっくり朝食をとり、Facebookなど見て過ごす。

家人が起きだしてきて、一人の静かな時間は終わりだな、と思っていたらFacebook上に「秩父蒸留所見学ツアーにキャンセル出ました」との記事を発見。9時池袋駅東口集合、と書いてある。時計を見ると8時10分。ダッシュで身支度を整え、家を飛び出てタクシー捕まえたら30分ちょっとで池袋東口に到着。意外と近いじゃないの。

 

正直いわゆる「オフ会」的なものは得意ではない。だがこの手のものであれば人見知りでもなんとかなるかな、と思って参加。特急券が配られ、誰も知り合いがいない中で2人掛けの席を回転させて向かい合わせにして歓談。10時にもならないのに酒盛り開始。慌てて出てきたので私はボトルを持って来られなかったのだが。

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車窓からは梅が咲いているのが見える。ウイスキー談義で盛り上がるが、まるでバーで隣り合わせたお客さんと話しているときのよう。あっという間に秩父に着いた、と書きたいところだが、レッドアロー号で2時間弱かかる。ということはいい感じ、もしくはそれ以上酔っぱらうということだ。
一度トイレに行って1号車のドアを開けたら、微かなフェノール臭が。

 

秩父に到着、懇親も兼ねてレストランでランチ。マチエールというところで鯛とホタテのグリルを戴いたのだが、大人数でのランチなのに手抜きのないきっちりした仕事で感銘を受けた。かつて秩父を訪問した時にはいい店見つけるのに苦労したのだが、ここは強くお勧めします。
食事を終えて、イチローモルト肥土(「あくと」と読みます)社長にサインしていただくために地元の酒屋でDouble Distilleriesを購入。秩父だからイチローモルトたくさん売ってたりすることはないらしい。

秩父駅からタクシー乗って約20分、4000円弱で秩父蒸留所に到着。予想通りではあるが、やはり小さくて驚く。ビジターセンターは試飲はさせてもらえるが、付属のカフェもなければ小売りは土産物だけでウイスキーは売っていない。

ツアーを案内してくれるブランドアンバサダーの吉川さんいわく、秩父蒸留所の年間9万リットルの生産量というのは、スコットランドの大きな蒸留所の2、3日の生産量程度だそうだ。麦の粉砕から糖化から発酵から蒸留から瓶詰からすべての工程が、小さな小学校の体育館程度の建物の中で一気に行われる。

 

まずは原料となる麦を食べてみる。素朴に旨い。そういえばマクビティースのビスケットってこんな感じだったかも。

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一袋20kg。ここに置いてある160kgが一回当たりの仕込みの量だそうだ。
吉川さんが、粉砕した麦をハスク、グリッツ、フラワーに分ける工程を説明しているところ。小石が入っていたりするので手作業で取り除かないといけないそうだ。

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大麦の絞りかすを取り出しているところ。牛の餌になる。

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麦汁が仕込まれるマッシュタン。ミズナラの木肌に乳酸菌が住み着いていて、独特のフレーバーをもたらしてくれるそうだ。

f:id:KodomoGinko:20160305134610j:plainマッシュタンの中では発酵が進む。

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そして麦汁はポットスティルに送られる。秩父蒸留所はこの2基のみ。

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吉川さんはすべての質問に即答できてびっくり。もともとはバーテンダーをやっていらっしゃったのだが、スコットランドの蒸留所でも働いたことがあるという。何とかイチローモルトで働こうと名前を憶えてもらうために5年間クリスマスカード出し続けたり、断られると凹むのでいつ働かせてくださいと切り出そうかとタイミングを見計らったり、様々な苦労をしながら今の仕事にたどり着いたそうだ。

左側のウォッシュスティルで一度蒸溜されたものを右側のスピリットスティルで再溜し、出来上がったスピリッツのいい部分=ミドルカット(ハートとも呼ばれる)だけを熟成させる。

f:id:KodomoGinko:20160305142014j:plain一番面白かったのは、どこからがハートなのかをスティルマンがノージング、すなわち自分の鼻だけで決める際の決め方。

 

写真はスティルマンの山岸さん。若い。最初に出てくるイヤな臭いってどんな感じか、という質問に答えているので、ちょっと渋い顔をしている。

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 実際に最初に出てくる部分とミドルカットが始まる部分の両方を嗅がせてもらった。

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金属を舐めたときのような重苦しい臭いがきついのがヘッド、すなわち最初の部分。そしてフルーティーさが錆臭さを打ち負かしてミドルカットを始める部分。違いがよく分かった。面白い。
カットするときのスイッチの役目を果たすスピリットセーフはこんなカタチをしている。

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そして第一貯蔵庫へ。

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土の上に樽が直に置かれている。Makers MarkだのJim Beamだのと書かれたバーボンバレルや、シェリー樽など色んな種類があった。

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そして樽工場へ。これまでは樽を海外から仕入れるだけだったのだが、自分たちでも作れるようにしようとしているそうだ。

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新樽の内側に焦げ目をつけているところ。

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そして第二、第三貯蔵庫を拝見したあと、ビジターセンターに戻って試飲。

f:id:KodomoGinko:20160305131512j:plain上の中から5種類ほど飲んだが、面白かったのがニューポット。すなわちウイスキーになるまで熟成する前のスピリッツ。

f:id:KodomoGinko:20160305161013j:plainNon Peated Concertoと書かれているものは、私にはミドルカットの前のヘッドのような臭いというか香りがしてちょっと厳しかったが、Heavily Peated Concertoと書かれている方は既に旨かった。

どこかで見たことあるような(?)絵も飾ってある。

f:id:KodomoGinko:20160305132250j:plainそして肥土伊知郎社長と歓談して、サインを頂いたボトルがこちら。f:id:KodomoGinko:20160305162504j:plain
自分たちで樽を作ることもそうだが、今度は秩父で作る大麦のみを使ってウイスキー作りたい、とか、これまではモルトスターから発芽、乾燥させた麦を買っているのを自分たちでフロアモルティングしてキルンで乾燥させる試みを始める、とか様々なチャレンジを試みているのがまさに株式会社ベンチャーウイスキーベンチャーたるところだ。

正直、妙に人気が出ているので何となく手を出しづらかったイチローモルトだが、ここまで細やかにウイスキー作りの作業をしているかと思うと頭が下がった。

祖父が始めた造り酒屋が行き詰まり、民事再生法が適用されて新しいスポンサーがウイスキー事業の引き取りを拒んだため、行き場のなくなった熟成原酒を決して無駄にしまいと奔走した肥土伊知郎社長の物語は、埼玉県のHPにある彩の国経営革新モデル企業事例集の一部としてこちらで読める。

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0803/documents/555851_1.pdf

 

 

帰りの電車でまた酒盛りが続く。突然決まった秩父蒸留所見学だが、楽しい大人の遠足だった。

 

 

 

 

 

 信濃屋 新着商品の部屋

 

 

 

 

 

 

Restaurant MATIERE

食べログ Restaurant MATIERE

 

アイラモルトと焼きガニ

今月末に東京マラソンを走るので、1月は200km超えたランを2月は調整のみにし、そして禁酒を始めたのだが、あっという間に風邪を引いた。風邪なんて年に一度引くか引かないかなのに。そして思ったのが、いつもと違うことはすべきでない、ということだ。よく考えてみたら、1月に30km超をkm5分ちょっとで走った際も前の晩は吞んでいたではないか。それを言い訳に、今晩もウイスキーを飲む。

 

先日旨いものが食べたくなって、週末ふらっと水戸まで出掛けた。山翠でアンコウ。昔は毎年出掛けていたが、震災後は初めて。東京から100kmちょっとなので比較的近いが、予約を受けないので店で並ばされて結局午後2時になってようやくランチにありついた。

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昔はあん肝は溶かして食べてください、といわれた気がするし、もっと旨くて感動した気がする。山翠ではなく山口楼に行ったこともあったが、大きなお店に私と家内しかいないぐらいの時があって、本当に地方都市は景気が悪いな、と思った記憶が蘇った。ただし初めてあんこう鍋を食べたムスメは大喜び。旨い旨い、といってぱくぱく食べていた。冷静に見るとあんこうって結構グロテスクなのに。

 

あんこう食べた後、カニも食べたいなあ、でも福井とかまで出張るのも面倒くさいなあ、と思っていたら、全く予期しないところで焼きガニを食べる機会があった。何と渋谷のモルトバーで。

 

禁酒を叩きやめてやったので久しぶりにCaol Ilaに顔を出したら、「カニ食べます?」と突然聞かれて目が点に。隣の独り吞み女子はカニグラタン食べてるし。グラタンにも心惹かれたが、焼きガニってアイラのモルトに合うかも、と思って焼いて貰うことにした。

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このチョイスが本当に正解だった。レモンやカニ酢をつけなくても力強いカニの旨みが、Caol Ila12年とLagavulin16年にこの上なく合う。やはり磯の香りとアイラのウイスキーは合わない訳はない。アイラはカキの養殖でも有名で、モルトを垂らして食べたら旨かったことを思い出した。

なぜかオフィシャル縛りしたい気分だったので、その後Caol IlaのUnpeatedの15年を飲んだのだが、これが途方もなく旨くて驚いた。Speysideのウイスキーです、といわれても全く違和感がないぐらい上品でスムースでうっとりとさせられる。つい家に帰ってウェブで2本買ってしまった。数が少なくなっているので気になった方はお早めに。そしてCaol Ila渋谷でのカニフェアももうすぐ終わってしまうので、そちらもお早めに。

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「ヤクザと憲法」と琴奨菊と渋谷Caol Ila

先週日曜日の昼、「ヤクザと憲法」という映画を見に行ってきた。家族でランチを食べて散歩していたら、ふと思い出して私だけタクシー捕まえて東中野へ。

ポレポレ東中野、という人を食ったような名前の映画館で14時40分の回を観ようと思って20分前についたらすでにチケット完売。パイプ椅子の補助席でないと座れない、とのこと。運よく普通の席に座れたが、通路に補助席を置き、階段に座布団まで敷いての超満員。消防法はどうなっているのか。
隣に座った兄ちゃんがLINEのメッセージをチェックしているのをチラ見してしまったのだが、SEALDS RyukyuというLINEグループのメンバーだった。なんだかな。

「実録じゃなくてこれは本物」。ヤクザに長期間密着取材して、ヤクザにはなぜ憲法14条が適用されないのか、という視点で撮られたドキュメンタリー。以下、公式HPから引用。

 

「脅威」を排除するためなら、ちょっとくらい憲法に触れたって…。あれ??どこかで聞いた話じゃないか!

 

銀行口座がつくれず子どもの給食費が引き落とせないと悩むヤクザ。金を手持ちすると親がヤクザだとバレるのだ。自動車保険の交渉がこじれたら詐欺や恐喝で逮捕される。しかし、弁護士はほとんどが「ヤクザお断り」…。日本最大の暴力団山口組の顧問弁護士が、自ら被告になった裁判やバッシングに疲れ果て引退を考えている。「怖いものは排除したい」。気持ちはわかる。けれど、このやり方でOKなのだろうか? 社会と反社会、権力と暴力、強者と弱者…。こんな映像、見たことない!? 強面たちの知られざる日常から、どろりとしたニッポンの淵が見えてくる。

 

指定暴力団として警察庁に登録されている21団体のうちの一つ、大阪西成に本拠を構える東組の二次団体、堺の清勇会の事務所にカメラが入る。
二次団体といっても、清勇会の川口和秀会長は本家の副組長。そして1985年に敵対勢力との抗争の際にスナックで流れ弾に当たって19歳の女子専門学校生(スナックに置いてあったドラムセットでバンドの練習をしていた、とのこと)が死亡した事件で実行犯に発砲を指示したとして22年服役した筋金入り。だが実行犯は一度は会長からの指示があったと認めたが、のちにそれは破門された恨みで偽証した、と裁判所に手紙を送っている。つまり会長自ら冤罪の被害に遭っていて、ヤクザ者は最低限の人権もない、ということをカメラの前で主張するという映画。

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細かいことはネタバレになるので割愛するが、大阪府警の家宅捜索の際のマル暴担当刑事と思しき人間がカメラを前にして吐くセリフを聞くと、ヤクザ相手であれば法律なんか関係ない、というのがひしひしと伝わってくる。
東京と大阪の2つの独立系映画館でしか現時点では上映されていないが、DVD化もされない可能性が高いし上映そのものも公権力の圧力によって終わってしまう可能性もあるので、興味がある方は急いで見に行ったほうがいいかも。

川口会長もパッと見は渡世の人には見えない。分かりやすい人には我々も近づかないが、見た目は普通の人、というのは本当に危険。その会長を追ってカメラが飛田新地で回ったり(普段は絶対にありえない)、上部団体の会長の葬儀の模様が映し出されたり、選挙の投票依頼の電話が極道の携帯に掛かってきたりなど見どころ満載。来ている人の観察も含めて大変面白かった。

映画が終わって、大相撲千秋楽を見逃さないために慌ててまたタクシーで帰ってきて、琴奨菊の優勝シーンを生で見ることに成功。そして家族と一緒に夕食をとり、ストレッチした後に2月末の東京マラソンに向けてランの練習へ。

山手通りを池袋まで上がり、10㎞ちょっとのラン。平和湯で汗を流して着替え、日曜日の夜も空いている渋谷のCaol Ilaさんへ。

渋谷の駅から少し坂を上がり、雑居ビルの外階段を3階まで上がらないとたどり着かないのだが、キロ5分前半で走った後はちょっと辛い。ドアを開けると一人飲みの人が二人。日曜日の夜にバーで一人でウイスキー飲んでいるというのはなかなかハードコアだ。よく見ると奥に座っている方は一年で100本以上Caol Ila12年のボトルを開ける方。ご挨拶して昨年は何本飲んだのか聞くと、123本とのこと。全部一人で飲んでいるのではなく、元永さんとご一緒しているそうなのだが、それでもあり得ないぐらいすごい。

喉が渇いているのでとりあえずArdbegのソーダ割。そして次は敬意を表してCaol Ila12年、三杯目は同じく15年のUnpeat。元永さんいわく「今日はのんびり営業しています」とのことで、珍しくテレビがついている。そのテレビで「堤真一さんがウイスキーの産地を巡る番組の録画見ましょうよ」、ということになって店の4人全員でまったりとテレビ鑑賞。

四杯目はMortlach、SMWSの76.106。元永さんチョイスなのだが私の好みが完全にバレてしまっていて照れる。そして大阪のターロギーソナさんにお邪魔したこともすでに榊原さんから連絡が回っていた。

堤真一さんがLaphroaigBowmoreを見学している映像を見ながら、アイラ島がどうだったか、と水を向けられたので思い出話をする。何もなくて夏でも寒い。ピートを焚いている上に手をかざしても熱くない。Bowmoreでフロアモルティングやっているところは道から覗ける。

そして「これも好みと違いますか?」といってDuncan TaylorのAultmore21年。89年蒸留。確かにMortlachに通じる果実味の強さ。Aultmore初めて飲んだが、やはり人に勧めてもらうのが一番だ。
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そして堤さんがケンタッキーでJim Beamを訪問、というめちゃめちゃサントリー一社提供的な流れになり、元永さんが「これ日本に数本しかないんですよ」といってFour Rosesの手詰めのSingle Barrelを出してきてくれた。バーボンいつもは飲まないのですごく新鮮。樽の若い香りが強く効いているのに柔らかくて甘い。バニラ香の強いシャルドネのようだ。
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結局番組を最後まで見終わったころには、走った後にもかかわらず6杯も飲んでしまっていて、カロリー的にはもしかすると走らないで家にいたほうが良かったのでは、という展開。でも日曜日の夜に気の置けないバーでふらっと飲めるなんて、本当に恵まれている。

北新地 ターロギー ソナ (Tarlogie Sona)にて

10歳の頃、大阪に来た。大阪に引っ越す、と言われても、湘南の海の近くの小学校から徒歩20分圏内ですべてが完結していた小学校4年生には、それがどういうことなのか全くわからなかった。

転校した梅田からほど近い小学校は、お父さんがタクシー運転手で夜は一人で過ごさなければいけない女の子が同級生だったり、町工場を経営するお父さんを持つ子供とそこで働く職人さんの子供が同じクラスだったり、家にお風呂がない子どうしが夜銭湯に行く約束を帰り道でしたり、と自分とよく似た環境で育ってきた友達に囲まれてきた私が全く経験したことのない世界だった。

市立の小学校なのに制服があった。給食費も前の学校と比べてえらく安かった。遠足に母親が魔法瓶に入れてくれた紅茶を持っていったらクラスの仲間から「ハイカラやな!」と言われて大騒ぎになった。人権教育の授業があった。クラスで幅を利かせていた同級生はだぼだぼのジーンズを履いていて、ジーンズはタックが多ければ多いほどかっこいい、とされていた。小学校から近くの公園には毎週土曜日に自転車に乗った紙芝居のおっちゃんが来ていた。近所のおばちゃんが焼いてくれていたたこ焼きは7個100円だった。住んでいたマンションの隣にあった町工場からは毎日アセチレン溶接の臭いがしていた。近所にはスーパーがなくて公設市場、というものしかなかった。カボチャはナンキンで、さやいんげんは三度豆で、おでんは関東煮(かんとうだき)で、鶏肉はかしわで、じゃんけんはインジャンだった。湘南の言葉しか話すことができず、いつも「自分、訛ってへん?」とよくからかわれた。思い返すといじめられていたのかもしれないが、私はあまり気にしていなかった、のだと思う。

そんな街には1年半しか住まなかった。小学校4年生の時にやってきて、6年生の2学期には大阪の北のベッドタウンに引っ越すことになった。わずかな時間しかいなかったので、その頃の友達は今ほとんどいない。

そんな街を久しぶりに訪れた。大阪に2泊3日の出張、会食のない日の夕方、ホテルに仕事のカバンを置いてスーツのままで。本当に梅田から10分ちょっとで歩けたので小さく驚く。JR貨物線の横を歩き、シンフォニーホールを見て、殺風景な通りを少し上がると子供の頃よく遊んだ公園があった。公園そばの交番は昭和56年に見たのと何も変わっていない。

通っていた小学校は昔のままだった。日も暮れたのに子供の声がしていたが、昔も学童保育はあったのだろうか。昔は家の前の道ばたで遊んだり、駄菓子屋に自転車で乗り付けたりしていた子供がたくさんいたのだが、歩いていて見たのはキャッチボールをする兄妹一組だけだった。

学校の正門の前には傾きかけた木造の家があり、そこのガラス窓の中には昭和の女優のポスターが飾ってあったり、観光地の土産物が置いてあったりしてちょっとしたカオスだった。小学生相手に何をアピールしているのか。築40年は経っていると思しき文化住宅がいくつも並び、出世湯、と赤い字で書かれたレトロな銭湯はそのまま残っており、シャッターを閉ざした町工場もたくさんあって、たいていの工場の前の道路は長年ふりまかれた鉄粉でオレンジ色に染まっていた。

当時はまだ日本にバブル景気がやってくる前だったのでみんな貧乏だったのだな、と以前は整理していたのだが、改めて訪れてみるとその認識は必ずしも正しくないことがはっきりわかった。公立の小学校なのに制服があったのには、着ている服の違いで子供に気まずい思いをさせないという大人の気遣いがあったのだ、と気が付いた。


なんだか胸が締め付けられ、その街を足早に去ってホテルに戻った。気分転換に着替えて走りに出かけた。あみだ池筋なにわ筋を南下すると、自分が昔住んだ街よりももっともっと古くてもっともっと小さな家が肩を並べて建っているところがたくさんあった。多くの家には電灯がともっていない。古い市営住宅がだれも住まないまま放置されてゴーストタウンのようになっているところ、大きな幹線道路の横に広大な空き地が広がっているところ、東京にはない景色が広がる。

そんな風景を眺めながら1時間半ほど走った後、ホテルに戻ってコンシェルジュの紹介のカウンター割烹の店で食事をとる。心斎橋の桝田さんに先週行って美味しかったので、同様の店があれば、と言ってお勧めしてもらった。値段は東京で同等のものを食べるのの半分ぐらい。ただもしかするとこの食事の値段と今日たくさん見た小さな家の家賃はあまり変わらないかも知れないと思うと、彼我の差はどこから来るのかと考える。かつての同級生たちは今頃どうしているのだろう。いろいろとお腹がいっぱいになる。

そんな気分を引きずりながら、ウイスキーを飲みに行く。北新地のタクシー乗り場の近くのビルの2階にある、ターロギーソナ。ターロギーというのはGlenMorangieの蒸留所の水源のことだろうがソナ、というのは何なのかよくわからない、と思いつつドアを押す。ドアには「Since 2014」と書かれている。

厚くて密度のある一枚板のカウンターが存在感を主張する。先客が二組。カウンターの真ん中に陣取り、スペイサイドのバーボン樽で何かおすすめがないかお願いすると、Scotch Malt SocietyのLongmorn10年が出てきた。猫がこちらを見ている。 

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期待していたほどバーボンの樽が効いている感じではなかったが旨い。
カウンターは榊原さん一人。隣の女性二人連れは、一人はどうやら常連さんらしく、もう一人がウイスキーにあまり詳しくない方で、榊原さんが丁寧に好みを聞いてそれに合わせて次のボトルを決めていて、その過程がとても興味深かった。常連の女性が頼んでいたSt. Magdaleneがとても良さそうだったので、あまりしないことだが隣の方が飲んでいるものを、といってお願いしたらそれが大当たり。

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昔のSocietyの紙のラベル。1983年に閉鎖になった蒸留所の82年10月蒸留、16年熟成。度数が64.8%と高いので口に含むと力強い刺激が。かといってアルコホリックなわけでなく、力強い余韻が長く続くタイプ。これはいい。見つけたらぜひ買いたい。

次は何か珍しいものを、とお願いしたら榊原さんの師匠のお店の10周年記念のMortlach。Mortlachは大好きな蒸留所の一つだ。スムースで滑らかに口の中で広がる甘い香り。これも好みだ。

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バックバーに置かれたボトルの中で、ガラスのケースに仕舞われたものはおそらく高いのだろうな、と思ってみていたが、その中で和馨、と書かれたボトルを見つけた。なんと読むのかすらわからず、聞いてみると「わきょう」、だそうだ。信濃屋がサントリーにアプローチして作った山崎ミズナラを使ったブレンディッド。後で調べたら2015年3月に539本限定で作られたものらしい。かなりのお値段だとのことだったがせっかくなので飲んでみることにした。

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確かにミズナラの香りが強く感じられる。だがかつて山崎のミズナラを普通に飲めていたことを考えると昔が懐かしい。2012年の暮れに金沢に行ったとき、ふらっと入ったバーで山崎シェリーカスク、バーボンバレル、パンチョン、ミズナラと一通り飲み、その後勢い余って白州シェリーカスクとヘヴィリーピーテッドまで飲んだことを思い出した。

そんな話をしながらフェイスブックをチェックすると、2016年ヴィンテージの山崎シェリーカスクの当選メールがすでに届き始めているとのこと。私も申し込んだが残念ながら落選したようだ。2013年は3本買えたのだが、あの頃はもう戻ってこないのだろう。

気がついたら日付が変わっていた。大阪に来ると忘れていた昔の思い出がよみがえってきてつい飲みすぎる。



 

 

新橋 キャパドニックにて

いつも夜のランは我が家から郊外あるいは東京のはずれを目指すことが多かったのだが、今回は銀座に向かって走ることに。銀座8丁目にある銭湯、金春湯に行きたくなったのだ。

 

我が家から渋谷まで出て、青山通りから六本木通り、ヒルズや六本木交差点を越えて溜池山王から虎ノ門ヒルズを通って新橋まで。そこから久兵衛のすぐ近くの金春湯へ。11.5㎞、1時間のラン。いつも通り下駄箱は縁起を担いで55のゾロ目。番台には小ちゃいおばあちゃんがちょこんと座っていて、諭吉しか持ち合わせがなかったのでそれを出すと、こちらが不安になるぐらいの時間をかけてすごく丁寧に9540円のお釣りを出してくれた。

 

ようやく真冬の寒さがやってきたので、走って体はポカポカだが手先は寒い。早くお風呂に入りたいので、急いで汗まみれの服を脱ぐ。風呂に入ろう、としていたら番台の下の扉が開いて先ほどのおばあちゃんが出てきて、その扉の隙間から女湯にいた女性と目が合った。こっちは全裸。向こうは着衣。別に見られても恥ずかしがるお年頃ではないので構わないが、反対のケースは何故ないのだろう、と思案にふける。

 

そして風呂に入ってビックリ。見てくれこのご立派な鯉のタイル画を。そしてケロヨンならぬモモテツと書かれた真っ黄色のタライを。なんで桃太郎電鉄がお風呂屋にタライを入れる理由があるのかよくわからない。

昭和の銭湯を満喫して、客引きに声を掛けられながらウイスキー好きの聖地信濃屋でも冷やかそうと銀座の街を歩く。夜10時過ぎの銀座の酒屋は戦場のようだった。クラブからの電話がガンガン鳴り、手際よく近くの店まで配達の手配。恐ろしいほど回転するのだろう。品ぞろえは本店のほうが面白いかも、と思って店を後に。

 

その後、新橋にあるモルトバー、Caperdonichキャパドニック)へ。初めての訪問。

実は前日に目白の田中屋まで走って行ってウイスキーを眺めていたら、2003年に閉鎖された蒸留所でCaperdonichという蒸留所があるということを不勉強ながら初めて知った。GlenGrantの弟分的存在だったそうだ。閉鎖蒸留所なのにBBRの1991年の22年物が1万円台で買えるという。EllenやBroraだと1本20万円でも驚かないのに、なぜ1万円台?閉鎖されてすでに12年以上経つというのに値段が上がらないということは、今後も値段が上がることは想定しにくいうえにそもそも美味しいのか?投機目的ではもちろんないが、飲まずに買うのはリスク高くどこかで飲めれば、と思っていたら同名のバーがあることが判明。それが金春湯からそれほど遠くないところにあるというので行ってみることにした。

 

新橋の裏道の雑居ビルの4階に上がるとそこがCaperdonich。カウンターに二人連れと一人のお客さん、奥のテーブル席に6名の団体。カウンターの真ん中に席を作ってもらって陣取る。バックバーにはオフィシャルのボトルに混じって面白そうなものがたくさん並ぶ。

 

走って風呂に入った後は喉が渇いているに決まっている。タリスカーソーダを頼んでごくごく飲む。

 

内装があまり金がかかっていないしマスターも若いしバックバーも頑張っていろいろ並べました感が強いので最近できた店なのかな、と思いながら次に何を飲むか考える。そういう店がだめだ、というのではなく、むしろ若いがいいお店なのであれば応援してあげなければ、という意味で。

 

「次はどうされますか?」
「せっかくなのでGlenGrantでお願いします」
だが残念ながらGlenGrantはほとんど残っておらず。そこで次に飲もうと思っていたCaperdonichをお願いする。すると昨日田中屋で見てまさに買うかどうか悩んだBBRの復刻ボトルの1991年21年物が出てきた。これは旨い。最近大好きなDaluaineに通じる骨太な味わい。バーボン樽特有のバニラの香りと穀物感が絶妙。今度見つけたら買わないと。


Caperdonichご存じなんですね」
「いや、昨日初めて知りました」
それをきっかけにマスターと話をする。店を始められてから1年ほどしか経っておらず、ウイスキー好きの人たちの間での知名度がまだ上がらない中で頑張っていらっしゃるのがよく分かった。

 

3杯目は目の前にあったGlen Elgin1985、28年物、ハンターレインのOMC。これもバニラの香りが漂いながら骨格を感じる私が好きなタイプ。カスクストレングスなのに45.4%とアルコール度数低くなっているが全く枯れてはいない。

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走った後にごくごくウイスキーソーダ飲んで始めたので酔いが回るのがいつもより早い。そしてまだ週の前半な上に東京マラソンを1か月半後に控えて走り込まなければならないので早めに撤収。

 

若いバーマンが腕一本で一生懸命頑張っているのを見るとこちらも励まされる。いいお客さんが付くバーになることを祈りつつこれからも応援していきたい。