東京ウイスキー奇譚

こだわりが強すぎて生きていきづらい40代男性の酒と趣味への逃避の記録

ウイスキーの聖地アイラ島訪問の詳細は以下のリンクから。
訪問記 アイラ島 初日 2日目 3日目
蒸留所写真  Ardbeg1 Ardbeg2 Laphroaig1 Laphroaig2 Bowmore
アイラ島写真 
アイラ島への旅行についてのアドバイス エディンバラ2日目  グラスゴー

  

松本のバー摩幌美に再訪して私の2019年が終わる

またしてもふらっと旅に出た。ウイスキー好きの聖地のひとつ、バー摩幌美のある松本へ日帰りの旅。

前回摩幌美にお伺いしたのは11月、We Love Expediaにて「ウイスキーを巡る東京からの小旅行」というお題で記事を書かせていただいた時。しかしその時からずっと心に引っかかっていたことが。記事で人さまにお店をお薦めしたのに、取材だったので自腹では飲んでいなかったのだ。その上無理言って取材許可をいただいたにも関わらず、オーナーバーテンダーの堀内さんと奥様には初めてお伺いしたのに大変良くして頂いた。それなのに裏を返せていないというのもあり、順序は逆になってしまったが何とか年内に再訪して自分の金で飲むのが今回のミッション。

バスタ新宿から10時55分のバス。電車だと東京行き最終が20時10分と早い。ノイキャンヘッドフォンして低周波ノイズをカットするとバスも快適。安住紳一郎の日曜天国の2019年総集編をニヤニヤしながら聞きつつ弁当食べて、ちょっとうとうとしているうちに昼過ぎの松本に着いた。中央道は年末なのになぜか全く渋滞がなかった。所要時間3時間、片道3800円。

お店は19時半からなので、前回は慌ただしすぎて見られなかった国宝松本城へ。江戸時代から残る天守閣は全国にたった12、そのうちの5城が国宝でそのうちの一つ。サイレンスバーのある丸亀と摩幌美のある松本の両方に江戸時代からの天守閣があるというのはどういう偶然か。松本城は学生の頃以来で改めて天守閣に登ってみたいと思っていたのだが、とても残念なことに中には入れなかった。お役所の御用納めとともに年内は閉まっているらしい。書き入れ時なのに。

松本の気温は5℃。日が隠れるとさすがに寒い。だが運よくお日様が顔を出し、雪つりされた松と雪を頂くアルプスと松本城、という写真が綺麗に撮れた。
f:id:KodomoGinko:20200102103033j:image
開智学校も閉まっていて中には入れなかった。色付きのガラスが見たかったのに。
f:id:KodomoGinko:20200102103030j:image
洋館なのに玄関の上には鳳凰像や仏像の雲座のような模様があって面白い。
f:id:KodomoGinko:20200102103051j:image
お城の裏にある開智学校からまた戻ってきて写真を撮った。
f:id:KodomoGinko:20200102103037j:image

松本の街もなんだか面白い。

謎の自転車屋
f:id:KodomoGinko:20200102103044j:image

謎の小道。「ファミリーパブ ナワテ横丁」。
f:id:KodomoGinko:20200102103047j:image
横丁入口にある彗星倶楽部、というお店が渋かった。大抵のところは怖気なく入るけれど、なかなか入りづらい店構え。後から知ったが両腕にタトゥーを入れたお姉さんが有名なのだそうだ。外から見えたらさらに入りにくくなったかもしれない。
f:id:KodomoGinko:20200104131059j:plain

ぐるぐる歩いているうちに体が冷えてきて、蕎麦でも食べて温まろうかと思ったが夕方に開いている蕎麦屋が見つからず、結局5時過ぎに居酒屋「まるか」さんへ。

臭みが全くない馬刺しは薬味なしで全然オッケー。本番に備えて肝臓の無駄遣いは禁物だとは知りつつも寒いので麦焼酎のお湯割りやお酒を飲んでしまう。おでんもカキフライもおいしく、親戚のおじさんおばさんの家でご馳走になっているかのような居心地の良い店だった。

f:id:KodomoGinko:20200102103055j:plain

それでもまだ時間があり、酔いも冷ましたかったのでひとっ風呂浴びることに。銭湯は好きなのでそれなりの数を訪れたが、その中でも秀逸、かなりの風情。

f:id:KodomoGinko:20200102103041j:image
番台のある銭湯は久しぶり。カーテンの奥、ちょうど男湯と女湯の間におばさんが座っている。大人400円は東京の470円と比べるとえらく安い。タオルとシャンプーリンスセットを買う。長野だけに御嶽海の優勝の額のポスターがあるのもまた渋い。
f:id:KodomoGinko:20200102103026j:image
思ったほど熱いお湯ではなかったが、塩化物鉱泉で湯冷めしにくくずっとポカポカしていた。壁画は富士山、ではなくてモダンなデザインのタイル張りでちょっと意外感があった。いいお風呂。ひとっ風呂浴びてからバーに行かれるなんて最高だ。


塩井の湯を出るとさすが松本、底冷えする寒さで耳は冷たいけれど、暖まった体がポカポカして幸福感に満たされ、すっかり暗くなった街を歩く足取りが心なしか軽い。おそらく色街だったであろう寂れたあたりをふらふらと歩き、少し年末の雰囲気のある飲み屋街を冷やかしながら摩幌美へ。

最終の21時のバスで帰る予定だったので、19時半の開店から90分一本勝負。
風呂で暖めた身体もそろそろ冷え始めてきた。普段の生活の中で起きる最も残念なことの一つは、サウナや銭湯入った直後に入ったバーのタバコの煙がきつくてせっかく綺麗になった体や髪の毛がタバコの匂いがつくことだが、摩幌美は禁煙なのでありがたい。

f:id:KodomoGinko:20200102104400j:image
寒い街ならではの二重になっているドアを開け、堀内さんと奥様に過日お世話になったお礼を申し上げた。お二人ともお変わりない。事情をお伝えしてあったので、本来の開店時間より少しだけ早くお店に入れていただけてお気遣いがありがたかった。

お店の開店当時、つまり40年以上前から使われているカウンターと椅子に落ち着き、最初にいただいたのはロイヤルブラックラの1970年蒸留、16年。ゼニスが詰めたもの。およそ半世紀前に蒸留された酒だが57°ということもありとても状態が良い。こういう麦感のあるのを飲みたかった。
f:id:KodomoGinko:20200102104420j:image
そして閉鎖蒸留所の研究家である堀内さんに最近グレンガイル蒸留所のことについて調べました、というお話をしながらスプリングバンクをいただく。彼はグレンガイル蒸留所3周年記念のパーティーに東洋人として唯一招待されるぐらいスプリングバンク蒸留所と関係が深い方だ。ベンウィームス蒸留所の話がスラスラできる人も世界広しといえどもそんなにいないだろう。

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

キャンベルタウンの街の歴史とその隆盛について教えていただきながらスプリングバンクを飲む経験ができるバーもなかなか珍しい。

前回伺った時は私にとって初訪問の上に初めての取材ということもあって緊張していたが、今回はただ自分が楽しむために飲む。当然その方が気楽で落ち着ける。
f:id:KodomoGinko:20200102104417j:image
カウンターに座ってじっと黙ってウイスキーを味わうことに没頭して終わるお店もあるけれど、開店して1時間ほどずっと堀内さんとお話ししながら飲むのが楽しかった。ロッホナガーを飲みながら今のロイヤルファミリーのお話を伺う。気持ちのお若い、サービス精神の強い方だなあと改めて感じ、41年もお店が続いている理由の一つが分かった気がした。
f:id:KodomoGinko:20200102104413j:image
今回いただいた中で一番好みだったのはこのオーヘントッシャン
オールドの加水は抜けてしまったりひねてしまったりするものもそこそこあるけれど、松本の気候もあってかどれもとても状態が良く、「昔のウイスキーは旨かった」という人たちに向かって「あなたたちが当時飲んでいたのと変わらない、もしくはそれより状態のいいものを飲んだことがあります」と胸張って言えそうな気がする。
f:id:KodomoGinko:20200102104407j:image
そして〆はこの95アラン。前回飲んでこれまで飲んだアランとは全然異なり軽やかでフルーティでソプラノ歌手のようで深く感銘を受けたものを再び頂く。
f:id:KodomoGinko:20200102104410j:image
私の後にお店に入ってきた20代前半と思しき男性二人は、安曇野出身だけれど横浜に今住んでいて、白楽にあるバーラディで摩幌美の周年ボトル見たので一度長野に帰省した時に来てみたかった、と言っていた。

堀内さんが彼らにお薦めしたボトルの一つが摩幌美の周年ボトル、イチローモルトのブレンディッド。

東京や横浜の普通のバーでは倍の値段でも飲めないと思うし、将来「あの時あの店であれ飲んどいてほんとよかったー」ってきっと思うだろうから間違いなくそれ注文した方がいいよー、とついカウンターから後ろのテーブルに座っている若者に向かって余計な老害発言をしそうになり、思いとどまる。
お店の方に一杯ごちそうすることができるようになった時は自分も大人になったなあ、と思ったが、さすがにカウンターの隣にいるわけでもなく一言も話もしていない見ず知らずの人の初めの一杯を突然ごちそうするのもどうかと思いそれも差し控えた。

せっかく横浜の名店でウイスキーを知って松本の名店に来ているわけで、ウイスキーにがっつりはまってくれる上手いきっかけができればいいな、という単純な老婆心なのだけれど。

そしてタイムリミットが近づき、お勘定をいただいて改めてのお礼と年末のご挨拶をして辞去。松本バスターミナルまで歩き、最終の新宿行き高速バスの出発5分前に3列目の窓際の席に座る。

ゆるゆるとバスが動き始め、暗闇の中で後方に流れていく信州の景色を眺めているうちに一年が終わる実感がようやく湧いてきた。去年は全くの他人だった人たちと今年たくさん知り合うことができた、と思い改めてさまざまな機会をいただいたことに感謝した。そしてお世話になった方に自分が納得いく形でちゃんと裏が返せてよかった。

はてなブログ編集部のMさんからお声がけいただいて書く機会を頂戴したウェブ原稿はとっくに納品・掲載済みなのだけれど、摩幌美を再訪できた今晩をもって私の中ではようやくミッションコンプリートとなった。さようなら、私の2019年。


 

jp.mahorobi.com

 

 

 

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

 

 

 


 

台湾にて人の好意と偶然に支えられて奇跡のような一日を過ごす

台中での二日目は南投蒸留所訪問。その前に朝7時過ぎに部屋を抜け出して軽くランニング。晴れていて湿度も低く、気持ちのよい一日の始まり。朝公園に集まったお年寄りたちが思い思いに謎めいたゆっくりとした運動をしている。台湾はお年寄りが元気で、若い人が多くていい。植物園の温室の前に巨大オブジェがあり、一瞬夏の夜の安眠を耳元で切り裂くあいつかと思ってぎょっとした。お年寄りたちがバカでかい蝶のオブジェの周りでみんな思い思いの方向にジョジョ立ちしている。
f:id:KodomoGinko:20191225235009j:image
しばしの休憩から再び朝の街を走り、一息ついて宿のすぐ近くのお店にて朝食。暖かくて甘い豆乳が慢性アルコール過剰摂取の体に沁みる。これ東京で毎朝飲みたい。ハム入りオムレツみたいなのもおいしい。
f:id:KodomoGinko:20191225235224j:image

腹が満たされて少しゆっくりした後、ホテルからさほど離れていない国光客運朝馬バスターミナルにバスで移動。南投行きのバスに乗って蒸留所の最寄りの軍功里へ向かう予定。バスは1時間に1本程度、所要時間は約一時間で運賃94元。蒸溜所まではそこから歩いて15分ぐらい。

バスターミナルには特段時刻表やディスプレイなどはなく、バスが来るたびにお姉さんが中国語の大声で行き先を叫んでくれるだけ。南投、というのは中国語でも日本語でも発音が一緒でわかりやすい。時刻表はないし、Google Mapは10時26分が定刻だというし、切符売り場のお姉さんは10時40分発だというし、よくわからない。二日連続で明後日の方向に向かうバスには乗りたくない。

9時半過ぎにバスターミナルに着いてヘッドフォンで音楽聴いていて、ふとバスターミナルの外を見たら「南投」と書いてあるバスがまさに出発するところ。時刻は10時過ぎ。どうなってんだよ、と悪態をつきつつ慌ててカバンひっつかんで外に飛び出そうとしたら、さっきの切符売り場のお姉さんがカウンターから飛び出してきて引き止めてくれた。後から思うと南投発台北行きのバスだったのだと思う。お姉さんのお陰で台北に行かずに済み、無事に正しいバスに乗れた。
f:id:KodomoGinko:20191226222528j:image
バスに乗り込むとレースのカーテンといい見上げた時のエアコンの吹き出し口といい車内の昭和濃度が予想以上に濃い目で感動する。カラオケとか歌いだす人が出てきそうな蒲田のスナック風味。

f:id:KodomoGinko:20191226222641j:image
順序が狂いましたが、ここ大事なところですのでよく聞いてください。台湾はIT先進国なので台湾でスマホ使えないとマジ詰みます。バスの路線も時間も分からない。スマホさえあれば私のように言葉も通じず色々ドはまりしてもGoogleMapかGoogle翻訳使って最悪何とかなる。たまにGoogle先生に嵌められるけど。


安くあげたいなら台北空港に着いた途端にSIMカード買ってください。SIM差し替えれば3日ネット使い放題で1200円とかなので、一日当たり何千円も払って日本で何とかWiFiとか借りて弁当箱みたいにかさばるWiFiルーター持ち歩く意味わからない。日本にいる時にキャリアのHPでSIMフリー化しとけば空港のSIM売り場でiPhone渡すとお店の人が全部セットしてくれる。台北から台中までの新幹線のチケット買ったらオマケで5日分のネット使い放題のSIMついてきた。もう3日分買っちゃったっての。SIM差し替えると電話番号は台湾のものになってしまうけれど、最近みんな電話もLINEとかでしょ?最悪日本出る時に携帯の留守電メッセージに用事あればLINEしてくれって吹き込んでおけば無問題。

GoogleMapで経路探索できれば自分の乗ったバスがどこにいるのか把握できるので、乗り過ごしたかも疑惑を抱えながらバスの中で気持ちがざわざわすることもない。当然バス停着いてから歩く道も心配いらない。

無事に軍功里のバス停で下車成功。諸パイセン方のブログで目印になっているセブンイレブンを通らない行き方をGoogle先生が推してくるのでそちらを採用しよう、と思ったら同じバス停で降りた20代後半ぐらいに見えるカップルも同じ方向についてくる。よく見ると彼女の方はポートシャーロットのTシャツ着ている。彼氏の方もダンピーボトルがデザインされたTシャツ。二人が英語で話していたのが聞こえ、「You guys are going to the distillery, aren't you?、蒸溜所に行くんでしょ?」と話しかけると「何でわかるの?」と不思議な顔をされ、「いやそのカッコ見ればわかるでしょ」というと笑っていた。

どこから来たの?と聞くと香港からとのこと。アイラに直近行き、タスマニア余市、駒ケ岳にも行ったことがあるというので相当重症な人たちだった。田舎道を3人でテケテケ歩きながらウイスキーの話をする。初対面の異国人とでも共通の趣味があると話題が弾むなあ、ありがたい、と思いながら田舎道を歩く。年末も近いのに抜けるような青空の陽射しがきつく、短パンTシャツでも汗が噴き出してくる。
f:id:KodomoGinko:20191226222500j:image
誰も通らない道をほんとに暑いねえ、と3人で話しながらようやく蒸留所にたどり着く。人気がなくて物音もせず、車もあまり走っておらずとても静か。
f:id:KodomoGinko:20191226223150j:image
人が本当にいないのでどこに行けば見学できるかわからなかったけれど、よく見たらOmar Whisky、と書かれた看板を発見。とりあえず3人でゆるゆるとそちらに移動。

扉を開けると試飲コーナーが。

f:id:KodomoGinko:20191226223715j:image
本当は事前にメールで予約を取らないと蒸留所の中を見学できないとのこと。だが香港人が中国語でカウンターの中にいる社員の方に「ツアーやってくれませんか?」と交渉してくれる。台湾の人と香港の人は言葉の壁がなくてうらやましい。

香港人のプッシュのおかげで我々3人と試飲コーナーにいたちびっこ連れの若い台湾人夫婦の計6人でプチ蒸留所見学プライベートツアーを急遽やってもらえることになった。私一人だったら絶対無理。めちゃくちゃラッキーだ。わざわざ台中から一時間かけてきただけのことはあった。

黒い革ジャン着た陳さんがガイド役となり、広東語と英語の両方で説明してくれるので私にも理解できてありがたい。蒸留所見学の中身は先のブログ記事を見ていただきたいが、彼はすごく親切に蒸留所に関する細かい質問にもできる限り答えてくれ、30分ほどの見学の後の試飲の間もそれぞれのボトルを解説してくれ、台北のおススメのバーも教えてくれた。連絡先も交換。どんだけ親切なんだよ。
f:id:KodomoGinko:20191226223729j:image

そもそも本来なら試飲しかできなかったかもしれないのに、急遽見学ツアーやってもらって解説付きで試飲させてもらったりとめちゃくちゃよくしてもらったので流石に手ぶらで帰るわけにもいかずそのつもりもなく、バーボン樽熟成のシングルカスクカスクストレングス2013年詰め、4年11カ月熟成のボトルを購入。ちなみにスコットランドではエンジェルシェアが年率2-3%のところ、台湾では7-8%近くと物凄い早さで熟成が進む。5年弱の熟成でも短熟とは必ずしも言えない。

f:id:KodomoGinko:20191226231326j:image私がこのボトルを買うためお金を払おうとした時、バス停から一緒だった香港からのカップルの男性の方が「マジかー!!」って叫ぶので「え、どうしたの?」と聞くとあらびっくり。マネークリップに私の会社のIDカード挟んでいたのが見えたらしく、実は彼は私と同じ会社に勤めていることが判明。彼、コナンは香港オフィス勤務。

こんな偶然ってあるんだねーと二人で驚きながら、会社の携帯でメルアド交換。東京にまた来ることがあれば私の好きなバーに何軒か連れて行くよ、と約束する。世の中どれだけ狭いんだよ。

試飲も結構な量を注いでもらえるのでそこそこ酔いが回りつつ、そろそろ辺鄙なところにある蒸留所からどう帰ろうか頭を悩ませ始める。

案内してくれた陳さんが「どこか帰るのに便利なところまで車に乗せて行ってあげますよ」と言ってくれる。本当に親切で申し訳なくなる。だがコナンが「友達が2時に迎えに来て、自分と彼女と友達の3人で晩ご飯食べることになってるから友達の車で南投のバスターミナルまで連れて行ってあげるよ」と言う。台中で買ったウイスキー2本とオマーウイスキー1本、計3本を2泊3日の荷物とともにリュックに背負って行きとは違うバス停まで40分くらい歩かないと、と思っていたので車で送ってもらえると聞いて本当にありがたかった。

迎えが来るまであと30分ほど。試飲している時からカウンターの後ろで社員の人がずっとテイスティングをしているので、「ブレンダーの方なのですか?」と聞いたら「ブレンダーじゃないけどカスク売るので樽ごとのティスティングノートを作っている」とのこと。
f:id:KodomoGinko:20191226223710j:plain
5年熟成のバーボン樽5つのコメント書いているのを隣で邪魔にならないよう眺めていたら、「置いてあるボトル勝手に飲んで大丈夫だよ」と笑って言ってくれる。「本当?」と聞くと「全然問題ない」といわれたので、飲み比べをさせてもらう。同じスペック、シスターカスクで大きく味が違わないものもあれば「あ、これは違う」というものもある。あまり違いがないものも違いを書かなければいけない仕事は大変だろうな、好きに飲んでいる我々とは全然違う世界なんだろうな、と想像しながら横でちびちびウイスキーをいただく。

そのテイスティングしている若いお兄さんが立ち上がってシェリー樽とヴァージンオーク樽熟成のボトルを7本持ってきてくれる。どうしたのかと思ったら「好きなのどれでも勝手に飲んでいいよ」、だって。全然テイスティングに関係ないのに。どんだけラッキーなんだ俺。
f:id:KodomoGinko:20191226223719j:plain

f:id:KodomoGinko:20191226223726j:plain

ちなみに中国語でシェリー樽は雪莉桶、バーボン樽は波本桶と書く。


お言葉に甘えて何本かいただくが流石に全部飲んだら酔いつぶれてしまいそうだったので少し遠慮した。

まだ2時なのに結構酔っ払い、無事コナンの友達に送ってもらって南投のバスターミナルで降ろしてもらい再会を誓い、遅い昼食を食べながら台北行きの高速バスを待つ。

f:id:KodomoGinko:20191228071934j:image
南投から台北まで結構渋滞していて3時間以上かかった。


ホテルにチェックインを済ませ、軽く食事をした後で蒸留所の陳さんが勧めてくれた台北のMOD Public Barで飲む。六本木にありそうなかっこいいバーで、客層もイケてる男女ばかり。山崎25年も含めハイエンドなボトルがバックバーに並ぶ。私はここでオマーのブラック・クイーンワイン樽フィニッシュをいただいた。バーテンダーのJintはウイスキーの知識も豊富だがカクテルを作る手さばきも美しく、エスプレッソマティーニ作ってもらって飲んだらとてもおいしかった。ここでもすごく良くしてもらえて本当にありがたい。

f:id:KodomoGinko:20191226234351j:image
f:id:KodomoGinko:20191226234340j:image
お勘定をもらい、「Merry Christmas and Happy New Year!」と言って店を出た。

それからまたテクテク歩いてThe Malt、麦村へ。

f:id:KodomoGinko:20191226234359j:image
f:id:KodomoGinko:20191226234348j:image
f:id:KodomoGinko:20191226234344j:image
相変わらずの品ぞろえで価格も良心的。閉店間際までゆっくりとした時間を過ごした。
f:id:KodomoGinko:20191226234355j:image
この日起きたことを思い返してみた。親切なバス会社のお姉さんのおかげで正しいバスに乗れ、そのバスにたまたまコナンとガールフレンドが乗っていて、彼らがいてくれたおかげで本来できなかったはずの蒸留所見学ができ、想定外の試飲も含めて3時間近く掛けて蒸留所を満喫できた。一人で来ていたら「事前申し込みがないと見学できません」と言われて諦めて数杯試飲するだけで蒸留所をとぼとぼと後にしていただけだっただろうと思う。そして陳さんに教えていただいた台北の素敵なバーに行って日本とゆかりの深いウイスキーを飲むことも、美味しいカクテルをいただくこともなかっただろう。

まさに思いがけない偶然に支えられた1日。一足早いクリスマスプレゼントをいただいたとしか思えない。実はいつも気づかないところでいろんな人に支えられ、幸運にも恵まれて今の自分があるのだということに改めて思いを馳せた。

 

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

 

南投蒸留所訪問記、オマー(Omar)ウイスキーについて調べてみた

蒸留所概要

南投蒸留所は台湾で唯一海のない内陸県の南投県南投市にあり、スコットランドで使われるゲール語で「琥珀」を意味するオマー(Omar)という名を冠したウイスキーを2008年から生産している比較的若い蒸留所。

f:id:KodomoGinko:20191225082111j:plain

伝統的にウイスキー熟成に使われるバーボン樽やシェリー樽だけでなく、茘枝(ライチ)酒、梅酒、ワイン、オレンジブランデーなどの樽を使ってフィニッシュさせる世界で最もイノベーティブな蒸留所の一つ。
こういうといわゆる「イロモノ」的な印象を受ける人もいるかもしれないが、バーボン樽熟成がうまくいかないとユニークな樽でフィニッシュさせても美味しいウイスキーはできないし、実際に茘枝酒の樽で熟成されたウイスキーを飲んでみるとこれは一つの新しいスタイルだと感じさせられる。

歴史

日本の統治時代から塩や酒、たばこは国有の専売局のみによって販売が許されていたが、台湾解放後も政府の財源確保のため菸酒公賣局がタバコ、酒などの生産を独占。2002年に台湾のWTO加盟により専売制が廃止され公売局が民営化、現在の南投蒸留所を保有する臺灣菸酒股份有限公司(Taiwan Tobacco and Liquor Corporation, TTL)が設立された。沢山あった公売局の蒸留所、醸造所の中で南投蒸留所(南投酒廠)だけが2008年にウイスキー造りを開始。ちょうどその年は同じ台湾のカバラン蒸留所がウイスキーを初出荷した年だった。

民営化後で外国製品との競合もあり財政難の中で設立された。コストセーブのため蒸留設備は後述するように各地で眠っていたポットスティルが集められたためそれぞれ形状が異なる。生産開始当時はウォートとウォッシュは近くのビール工場から持ってきていた*1が、2009年にマッシュタンとウォッシュバックを新設。

2013年には初のシェリー樽とバーボン樽熟成のシングルカスクカスクストレングスを販売。
2015年にはライチ酒、梅酒、ブラック・クイーンワインの樽を用いてフィニッシュをかけたウイスキーの販売を発表。
2016年からは国際的なウイスキーコンクールで数々の賞を受賞。世界的に評価される蒸留所となった。

特徴

南投蒸留所はもともとビールやワイン、ライチ酒、梅酒、オレンジブランデーなど醸造酒・蒸留酒ともにさまざまなお酒を造っていた。この樽のバリエーションを活かして先行するシェリー樽熟成で有名となった同じく台湾で作られるウイスキー、カヴァランに対して差別化を図っている。

麦芽は複数のモルトスターからの仕入れ。アンピーテッドの多くはイングランドから、ピーテッドの多くはスコットランドから購入*2

麦芽はドイツ産のミルで粉砕されて70%グリスト、20%ハスク、10%フラワーとなる。
f:id:KodomoGinko:20191225082117j:plain

この辺はTTLが台湾で最も人気のある国産ビールを造っていたノウハウが活かされている。
これらグリストは半ろ過式のドイツ製のマッシュタンに送られる。マッシュタンの容量は15000リットル。温水は3度に分けて加えられる。

f:id:KodomoGinko:20191225082114j:plain

ウォートはステンレス製のウォッシュバックに送られ、イーストによってウォートの中の糖分が二酸化炭素とアルコールを作り出す発酵プロセスが始まりアルコール度数7から8%程度のウォッシュになる。通常の近代的な蒸留所での平均的な発酵工程は48時間程度のところ、南投蒸留所ではフレンチディスティラーズイーストを用いて平均72時間をかける。

f:id:KodomoGinko:20191226143004j:image
ウォッシュはウォッシュスティルに送られて初留が行われ、アセトンやメタノールなどの有害物質が取り除かれエタノール、芳香性化合物と水分を含むアルコール度数の低いローワインとなる。そこから再留釜であるスピリットスティルに送られより高い度数に精製される。

南投ではウォッシュスティルとスピリットスティルが2つずつ計4つある。会社が財政難にあったため、安価な中古のスティルを買い集めて蒸留設備が作られた。そのためそれぞれラインアームやスティルの形状が異なる。大きさも1つは7000リットル、2つは5000リットル、1つは2000リットルと大きく違う。
f:id:KodomoGinko:20191226143007j:image

f:id:KodomoGinko:20191225083017j:plain

Whisky Magazineの日本語記事を見ると4つのポットスティルのうち3つはスコットランドのロセスにあるフォーサイス製、1つはベルギーのFrilli Engineering SPA社製、とされている。記事にクレジットがなく文末にWMJ Promotionとの記載、受賞歴の画像も南投蒸留所のHPからのものに思われるのでおそらく蒸留所による公式な説明に近い。かつての蒸留所の写真を見ても「比利時(=ベルギー)」という説明書きがついていた。

こちらがフォーサイス社製のポットスティル。

f:id:KodomoGinko:20191225082959j:plain

f:id:KodomoGinko:20191225083020j:plain

しかし私が撮った写真をもとに調べてみるとベルギー製とされているポットスティルはイタリアの老舗、1912年創業の蒸留設備製造業者フリーリ(Frilli)社製と思われる。そもそも表記がイタリア語。会社名の後のSpAやs.r.l.というのはイタリア会社法上の株式会社と有限会社のことだ。直近スカイ島の隣にあるラッセイ島に新設された蒸留所もフリーリ社の蒸留施設を採用している。

f:id:KodomoGinko:20191225083010j:plain
ちなみに現在はフリーリ社はベルギーには生産拠点やオフィスはない。昔はあったのかもしれないので何とも言えないが、ベルギー産ではなくてもしかするとベルギーの蒸留所で眠っていたポットスティルがはるばる東アジアまでやってきたのかもしれない。
f:id:KodomoGinko:20191226103307j:image
自社製品の最も重要な生産工程にあるスティルの出自が何だかあやふや、というのも面白い。

f:id:KodomoGinko:20191225083006j:plain

蒸留回数は2回。私が訪れた時は蒸留中で、スピリットセーフの中でニューポットが流れていた。

f:id:KodomoGinko:20191226171657j:imageスピリットセーフはフォーサイス社製。
f:id:KodomoGinko:20191226171701j:image

貯蔵・熟成

残念ながら私は貯蔵庫を見ることができなかったので、貯蔵・熟成の写真は前回のキルケラン同様にK.67/鯨さんからお借りいたしました。

蒸留所内には3つのウェアハウスがあり、第二貯蔵庫がシェリー樽熟成用、第三貯蔵庫がバーボン樽熟成用、第一貯蔵庫がライチ酒、ワイン、オレンジブランデーなどのその他の樽での熟成用。

f:id:KodomoGinko:20191226215449j:plain南投では一番寒い1月でも平均最低気温が18℃、平均最高気温は27℃、真夏はそれぞれ27/35℃とスコットランドとは比べ物にならないぐらい気温が高い。そのせいでエンジェルズシェアは年率7-8%とスコットランドの2-3%程度と比べて圧倒的に多い。

仮に南投のエンジェルズシェアを7.5%、スコットランドのそれを2.5%として、10年熟成すると当初1リットルだったウイスキーは南投では0.459リットル(0.925の10乗)まで減ってしまうが、スコットランドでは0.776リットル(0.975の10乗)までしか減らない。台湾で10年熟成するのとスコットランドで31年熟成するのとが計算上では同じ量のエンジェルシェアとなる。
それだけ南投では熟成も早く進み、同じ熟成年数のウイスキーで比較するとスコッチの6割程度の歩留まりしかないので1.7倍高くても文句言えない。

f:id:KodomoGinko:20191226215559j:plain

バーボン樽でサードフィル、フォースフィルと使われてきたものはライチ酒の保存に使われる。樽の力が弱ってもスポンジのようにライチ酒のエキスを吸収し、それらの樽を使ってバーボン樽で熟成された原酒をフィニッシュすることで上品で主張の強すぎないウイスキーが産まれる。
f:id:KodomoGinko:20191226215531j:plain
ちなみに1999年9月21日の深夜に南投を震源とする死者2400人を超える921大地震があり、ブランデーを貯蔵してあった南投蒸留所の熟成庫は全焼。今の熟成庫は地震に耐えたもの。

 

テイスティング

Black Queen Wine Barrel Finished Cask Strength (215/950, Cask No. 21090336, 21090345, 21090346)

f:id:KodomoGinko:20191226151641j:image

バーボン樽熟成、ブラック・クイーンワイン樽フィニッシュ。

色は綺麗なアンバー。香りの立ち上がりは穏やかで安らぐ。潤いの残る干しぶどう、オレンジ、濡れた革、遠くにわずかのブラックペッパー。
口に入れると上品な甘味が広がる。東ハトオールレーズン(!)、微かなライチ、杏仁豆腐。フィニッシュは少し渋みが残るが嫌味はなく綺麗な余韻が続く。軽くウッディ。
ワイン樽熟成ってどうなの?という先入観あったが嫌いじゃない。

このブラック・クイーン樽フィニッシュというのはある意味台湾と日本の絆の象徴。

ブラック・クイーンというブドウ品種は日本固有のもので、1927年に新潟県上越市の岩の原ブドウ園の創業者の川上善兵衛氏によって開発された。川上氏は勝海舟の勧めでブドウ栽培とワイン醸造を始め、今日の国産ワイン醸造の礎を築き、その功績から「日本のワインの父」と呼ばれている。
川上氏はブドウの改良にも取り組み、開発に成功したブドウは22品種、マスカット・ベリーAなどもその中に含まれる。

そんな日本と深い縁のあるブドウで造られたワイン樽で熟成された台湾のウイスキーは、二つの国(というと怒る人もいるかもしれないが)の強い結びつきのシンボルと言っても言い過ぎではないだろう。

 

PX Solera Sherry Cask 2008 10 yo

f:id:KodomoGinko:20191226153511j:image

シングルカスクカスクストレングス、8年バーボン樽、2年PXソレラシェリカスクにて後熟。 

色は相当濃い。香りはシトラスやオレンジなどの柑橘系、マジックインク、マッチの煙。口に入れると粘度を感じながらもスムース、砂糖の入ったダージリンティー、みかんの缶詰のシロップ、黒いぶどう。フィニッシュはウッディ、最後に少し渋みとわずかな硫黄系のえぐみ。いわゆるドシェリー系。圧殺系ではない。 


Cask Strength Lychee Liquour Barrel Finished

f:id:KodomoGinko:20191226153645j:image

色は通常のバーボン樽熟成と変わらないが香りが全然異なり、オリエンタルな香木を思わせる。わずかなミカンのような柑橘感、リコリスキャンディ。バーボン樽熟成の原酒の特徴を失わない中でライチの甘さが口の中に広がっていくが主張が強すぎず、上品なまま余韻につながっていく綺麗で儚い感じ。

 



インドや台湾のウイスキーというだけでなぜだか遠ざけてしまう人がいて、その人たちは「本当にまじめに作ってるの?ちょっとまがいものっぽくない?」という疑問を持っていることが多いように思われるのだが、確かにいろんな資料を見ていると事実関係が若干明確でなかったり、違った記述が見受けられたりしてきちんとしたブランディングにはなっていないと感じることは多々あった。

(南投蒸留所の皆さん、私に日本語HPの改善手伝わせていただけませんか?相当いい翻訳ができると思います!)

しかし実際に蒸留所に訪問してみたことのあるオマーとカヴァランは、プライド高く真面目にウイスキーを造っていると強く感じられた。オマーは日本ではまだまだマイナーな蒸留所ですが、バーなどで見つけられたら試す価値は間違いなくあると思います。
個人的にはシェリーよりもバーボン樽の使い方が上手な蒸留所というイメージ。ライチもブラック・クイーンワイン樽フィニッシュも良かったな。

 


参考

http://www.omarwhisky.com.tw/jp/about.aspx

http://www.omarwhisky.com.tw/en/about_story.aspx

http://whiskymag.jp/omar_03/

https://asia.nikkei.com/Life-Arts/Life/Omar-whisky-a-Taiwanese-tale-of-grapes-and-barley

http://www.whiskygeeks.sg/2019/06/27/nantou-distillery-visit/

http://www.whisky-distillery.net/www.whisky-distilleries.net/Asia/Seiten/Nantou.html

https://www.masterofmalt.com/distilleries/nantou-distillery/

https://www.mansworldindia.com/experiences/fooddrink/rise-taiwanese-single-malt/

 

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

 

 

*1:TTLは現在でも台湾産のビールとしては最も人気のある台湾啤酒を製造している

*2:両者とも多くがスコットランドから、という記述も見受けられた

ガイドブックも持たずに適当に旅に出て3度もしくじったけど結局何とかなったという大したオチのない話

なんとなくJALのホームページを見てたら、この時期たった19000マイルで台北に行かれることが判明。休暇は取ったものの何も予定を立てていなかったので、木曜日に急遽予約して日曜日から2泊3日で台湾の南投蒸留所見学に行くことに。いつもながらテキトーな旅。


羽田発の国内線でセントレアに行き、台北行きの便に乗り継ぐ予定にしていたのだが、セントレアまで来て完全な私のミスであわや台北行かれないかも、という想定外の事態に。本来羽田のJALカウンターでパスポート見せて国際線の分も合わせてチェックインすべきところを、いつもの国内出張のようにJALICカードでそのまま搭乗してセントレアの国際線カウンターで改めてチェックインすればいいと勘違いしていた。セントレアの国際線カウンターにたどり着いた時には台北行きの飛行機のチェックイン締切り、搭乗時刻1時間前を過ぎていた。

 

そのせいで台湾に行くはずが手羽先、味噌カツあんかけスパを楽しむ2泊3日の旅になりかかったのだけれど、泣きを入れて何とか飛行機に乗せていただき、無事桃園空港に到着。
f:id:KodomoGinko:20191225212041j:image
しかしさらに苦難は続く。空港にて台湾新幹線の高鐵桃園駅から高鐵台中駅までの切符を買い、地下鉄で高鐵桃園駅に向かうはずが間違って地下鉄の反対方向台北行きに乗ってしまう。本日2回目の痛恨のミス。なんか乗車時間長いなあと思ったんだよ。

気を取り直して高鐵台北駅から台中に向かう。高鐵は品川から熱海に行くこだま号風味が濃厚。この案内とか車内とかまんまじゃん。
f:id:KodomoGinko:20191225212021j:image
f:id:KodomoGinko:20191225212027j:image
こだま号風味を堪能した後、予定より30分遅れて3時過ぎに台中駅に到着。市内に向かう方法をGoogle先生に聞いたら151番のバスに乗れ、もうすぐ出発だ、という。目の前にいた151番のバスに飛び乗ってみたらまたも反対方向、郊外に向かうバスに乗り込んでしまうという本日3回目の痛恨のミス。どんだけアホなのか今日の俺は。

GoogleMap見てすぐに方向間違えたことに気づいたものの、バスは高速に乗ってしまい次のバス停までがえらく遠い。流石に凹む。どこで損切りするか悩み、タクシーが捕まりそうなところで降り、タクシー捕まえて市内へ。8㎞ぐらい中心部から南に離れたところにいたらしく、550元、2000円ちょっとのタクシー代でホテルに到着した頃にはもう夕方になっていた。ガチで自分のアホさ加減にクラクラした。

腹減ったな、そういえば昼食食べていなかったな、と思いホテルに荷物を置いて何か食べるものを探しに出た。そごうのある交差点の地下道を通ったらたくさんの張り紙が。
f:id:KodomoGinko:20191225222350j:image
壁は手書きのメッセージでびっしり。結構衝撃的な写真も多く、「次は台湾だ」という危機感が強く感じられるものだった。こんな写真をTwitterで上げたりすると次に某国に入国したら帰ってこられなくなりそうで怖い。

悩んだ挙句その交差点近くで行列ができていた「麻辣大腸麺線」というところでホルモン入り汁ビーフンと鶏のから揚げを食べた。どちらもめちゃ旨いがクリスピーチキンはこれまで食べた中でも一、二を争う出来。100元、400円弱ぐらい。
f:id:KodomoGinko:20191225225028j:image

それからまたふらふらしてたら街角に普通っぽい酒屋があり、ちょっと覗いてみようと思って入ったら全然普通じゃないとんでもないところだった。

イチローモルトのジョーカー、1968年蒸留の軽井沢などがレジの後ろに飾ってある。

f:id:KodomoGinko:20191225225745j:image
こちらはThe Whisky Agencyの恐らく台湾限定リリース。89グレンギリー2014ボトリング、95カリラ2014ボトリングなど見たことのないラベルが。
f:id:KodomoGinko:20191225225752j:image
こんなどんぐりも見たことない。
f:id:KodomoGinko:20191225225807j:image
そしてソサエティの品ぞろえもすごい。
f:id:KodomoGinko:20191225225801j:image
ウイスキーだけでいうと目白の田中屋の1.5倍ぐらいのバラエティ。Glenlivet13年台湾向け限定や、この店のオーナーが樽買いしたKavalanのシェリカスクなどあってとても楽しく、たまたま入った店でこれだけ充実している台中ってすげえすげえ、と一人で大興奮。
f:id:KodomoGinko:20191225225756j:image
ちなみにこちらのお店になります。結局1時間近く滞在し、TWAのカリラとカバランを購入。
f:id:KodomoGinko:20191225225748j:image


ボトルを置きに部屋に戻り、心の弱いダメな中年はついホテルのサウナにふらふらと入ったりしてしまう。それからまたホテルを出てタピオカ飲んだりしながらあてもなく歩き、ダメ中年は大したこともしていないのにまた腹が減ってきたので台中で一番にぎわっているという逢甲夜市に行き、牡蠣のオムレツと焼き海老と葱餅みたいなのを食べた。

f:id:KodomoGinko:20191225233616j:image

それからさっきの酒屋でおススメしてもらったKC Cigar Bar/凱西咖啡というバーに行き、Ardbeg Drumとマンハッタンを飲んだらもう真夜中近く。
f:id:KodomoGinko:20191226001759j:image
もう一軒行きたかった方酒坊というバーも日曜日で早じまいしておりあきらめて宿に戻った。

翌日は辺鄙なところにある南投蒸留所を高速バスに乗って訪問する予定、だけど今日一日で運を使い切ってしまったかもしれず無事たどり着けるのだろうか、今度はガチの迷子になるのだろうか、いやもういいおっさんなんだから流石に迷子はないだろう、などと思っているうちにいつもと違う枕なのに気が付いたらぐっすり熟睡しておりました。

 

続編は↓こちら。

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

 

キルケランの歴史を調べたら想像以上に面白かった

先日日本向けにリリースされたキルケラン2004年、15年熟成のオロロソウッドを飲んで大変感銘を受けた。これはファーストヴィンテージの276本限定だし価値あるものだと思い即ポチりたかったのだがウェブ上では残念ながら見つからず、在庫が残っていることを祈りつつ実店舗まで足を運んだ。

どのようなボトルなのかソサエティ風に表現すると「暖炉の前で真新しい革ソファーに座りながら楽しむ濃い目のグァテマラ産コーヒーと和栗のモンブラン」。長いよ。

輸入元の商品紹介のコメントは以下の通り。

キルケラン2004 オロロソシェリカスクは創業年である2004年蒸溜の15年熟成で、日本市場限定のシングルカスクカスクストレングスボトリング。リフィルバーボンホグスヘッドで5年間熟成後、オロロソシェリー樽で10年間熟成しました。

つまりオロロソフィニッシュというよりむしろバーボンとオロロソのダブルマチュアードなのね、と思いながら東中野Coffee Bar Gallageで美味い、美味いとアホみたいな感想しか言わず飲み、また別の機会にも改めて試す。

f:id:KodomoGinko:20191217102819j:plain

でも何かが引っかかった。それが何なのかしばらく自分でもわからなかったが、1日経ってようやく気が付いた。

フィニッシュでとても素敵なエステル香がするのだけれど、これはオロロソ樽の後熟で出てくる香りではなくバーボン樽に由来するものに思われる、すなわち最後に熟成させたのはシェリーではなくバーボン樽なのでは?

そう思い気になって仕方がなくなったので別のバーでもう一度飲んだ。何の確信もない。お店の方にも聞いてみたけれどよくわからない。気のせいかなあと思ってふとボトルを手に取ってみたらバックラベルにはこう書いてあった。

This Kilkerran Single Malt Scotch Whisky has been matured for ten years in a fresh oloroso sherry butt, followed by five years in a refill bourbon hogshead.

f:id:KodomoGinko:20191217102628j:plain

やはり先にオロロソ10年熟成、後からリフィルのバーボンホグスヘッドにて5年熟成と書かれており、インポーターの説明と熟成の順番が逆。ビンタしてから抱きしめるのと抱きしめてからビンタするのではだいぶ意味が違う気がする。(喩えが無茶苦茶なのは承知の上ですが、シークエンスが重要ということです)


Whisk-eさんのコメントが先入観として左脳に入っていたのだが、私にしては珍しく直感、すなわち右脳が勝った。

でもそもそもなんでグレンガイル蒸留所なのにキルケランというネーミング?どういう歴史なんだっけ?どうしてこんなハイクオリティなのにあまり人に知られていないしこんなに割安なんだっけ?といろいろと気になって夜も眠れず、ご飯も食べられず、酒も飲めず、美女が声掛けてくれたのにも気づかず、サウナにも入りたくないという魂が抜けた状態になってしまったのでキルケランについて調べ始めたら想像していたよりもはるかに面白いストーリーがそこにあった。

せっかく調べたのだし、たまにはウイスキーブログにふさわしい記事を書いた方がいいかと思っているところに「テイスティングコメントもレベル低いしただのおっさんらしいよーキャハハー」とマクドナルドで隣り合わせたJKがdisってたというあながち否定できないツイートが回ってきた夢を見たので以下まとめてみました。

 

蒸留所概略

キルケランはスプリングバンク、グレンスコシアに次ぐキャンベルタウン3つ目の蒸留所であるグレンガイル蒸留所で作られるシングルモルトウイスキー。1872年に操業を始めたが1925年に閉鎖。

2000年に「大人の事情(下の歴史参照)」もありスプリングバンクが閉鎖された蒸留所跡を購入、閉鎖蒸留所では珍しく閉鎖前の建物をそのまま活かす形で2004年に操業を再開。

スプリングバンクと原材料の多くを共有したり同じ職人が作っているのにもかかわらず少しの製法の違いが大きなテイストの違いになる、というウイスキーの奥深さを体現している蒸留所。

この記事の一番下にある蒸留所長のフランク・マクハーディ(Frank McHardy)氏のインタビューのYouTubeのビデオを見ていただければ蒸留所やキャンベルタウンの雰囲気が分かる。

f:id:KodomoGinko:20191217000228j:plain

(写真はウイスキー仲間の鯨/K.67さんからご提供いただきました、蒸留所のシンボルマークと全く同じ構図の景色。鯨さんのブログはこちら) 

f:id:KodomoGinko:20191217174649p:plain

歴史

グレンガイル蒸留所は1872年にスプリングバンクを経営するミッチェル一族のウイリアム・ミッチェルによってスプリングバンク蒸留所の400メートル先で創業され、翌年操業開始。ウイリアムの独立のきっかけは農場で飼っていた羊を巡る兄弟喧嘩(!)の末に当時の共同経営者だったジョンと袂を分かったためだと言われる。逆に言うと羊で兄弟喧嘩していなければキルケランはなかったということ。まあもともと兄弟仲が悪かっただけで羊はただのきっかけだと思いますが。

f:id:KodomoGinko:20191217000255j:plain

(写真はウイスキー仲間の鯨/K.67さんからご提供いただきました、ロゴの中の教会、The Lorne & Lowland Churchを望む景色。鯨さんのブログはこちら) 

キャンベルタウンは大麦とピートの生産地だったこと、雨が多く水に事欠かないこと、港からすぐにあるクロスヒルロッホという湖の水がウイスキー造りに適していたこと、マクリハニッシュ炭田から数キロと近かったこと、キャンベルタウンの港が大西洋の荒波を避けることができアメリカへの輸出や需要地グラスゴーへの出荷に向いた良港だったことなどの好条件が重なり栄華を極め「世界のウイスキーの首都」と呼ばれた。


19世紀後半のピーク時には24*1もの蒸留所が操業、1891年の人口はたった1969人だったのにイギリスで一人当たり所得が最も高い街(当時のイギリスは世界最先端だったのでおそらく世界一)となり繁栄を謳歌

しかし1920年アメリカでの禁酒法導入、鉄道の開通によりより軽やかなハイランドモルトが入手しやすくなったこととブレンディッドウイスキーの隆盛、質より量を求めるウイスキーの粗製乱造、大恐慌による需要の減少を経て多くのキャンベルタウンにある蒸留所が閉鎖となった。


グレンガイル蒸留所も同様の憂き目に会い1919年にWest Highland Distilleriesに売却され、1924年には300ポンドで再売却された翌1925年に閉鎖。1925年4月8日にすべてのストックを競売にかけ売り払ってしまった(とされていた)。

閉鎖後すぐに建物はキャンベルタウンのミニチュアライフルクラブに賃貸され、その後農業関係の会社の貯蔵庫や販売事務所として使われたため、閉鎖されたキャンベルタウンの蒸留所の中でも最も保存状態が良く、それものちに再建される理由の一つとなった。

1940年代に蒸留所とグレンガイルの商標がブレンダーのブロックブラザーズ(Bloch Brothers、グレンスコシア蒸留所も保有)に買収され、その時蒸溜所再建計画もあったものの第二次世界大戦のせいもありご破算に。その時まだ実は若干のストックが残っていたらしい。

1957年にはキャンベルヘンダーソン(Campbell Henderson Ltd)の下で復活させる計画もあったがこちらも適わず、その後蒸留所跡地はライフル射撃場などとして使われた。

1970年代までにはキンタイア農業協同組合の本部、フロアモルティング用のスペースは事務所となりキルンは動物用飼料の袋詰め作業場となった。

2000年にヘドリー・ライト(Hedley Wright、スプリングバンク蒸留所を保有するJ&A Mitchell and Co Ltd.の現チェアマン、スプリングバンク創業者Archibald Mitchellの玄孫(4代後)、グレンガイル蒸留所創業者のウイリアム・ミッチェルの4代後の甥にあたる)が旧蒸溜所を購入、ミッチェル家の手にグレンガイル蒸留所が再び戻った。

実はこの蒸溜所再建プロジェクトの背景には大人の事情が。当時スコッチウイスキー協会(Scotch Whisky Association)がスプリングバンクとグレンスコシアの2つの蒸留所しか残っていなかったことからキャンベルタウンをウイスキーの産地呼称(ワインでいうところのアペラシオン)が許される地域としての認定を取り消そうとした。そのためスプリングバンクあるいはミッチェル家としてはウイスキー産地としてのキャンベルタウンの名前を守るため、街で操業している蒸留所の数を最低3つに増やす必要があったのだ。


「基本的にグレンガイル蒸留所設立は”Springbank’s big middle finger to the SWA”だ」、と某所に書かれていて個人的に超ウケた。

そして2004年、キャンベルタウンで100年以上ぶり、スコットランドで21世紀になって初めての新設蒸留所となるグレンガイル蒸留所が再建され蒸留が始まる。

先述の理由で極力コストを掛けずに第三の蒸溜所として認められるだけのアウトターンを産み出す必要があったことが、贅沢としてではなく必然として昔からの製法での少量生産という理想のウイスキー造りにつながっていく。そして広告宣伝費もほぼないため多くの人はそのクオリティに気づかないままでいる。 

設備

スプリングバンク蒸留所でフロアモルティングされ軽めのピートを焚いた麦芽が運ばれ、かつてクライゲラヒー蒸留所で使われていたモルトミルで粉砕され、半ろ過式のマッシュタンで透明なウォートを作り糖化。

それをボートスキンラーチ*2で作られたウォッシュバックで酵母を加えて発酵。ボートスキンラーチを使って長時間発酵させるとフルーティーウイスキーができるとのこと。

そして閉鎖されたベンウィヴィス蒸留所から移設されたポットスティルを用いて蒸留。
ベンウィヴィスはスプリングバンク蒸留所長のフランク・マクハーディ(Frank McHardy)が1963年からウイスキー造りのキャリアをスタートさせたインヴァーゴードン蒸留所内にあり1965年に操業開始、1977年に解体された。あまり使われていなかったというポットスティルは傷みも少なかったそうだ。ちなみにそのままの姿では石造りの建物に入らなかったので蒸留釜のショルダーの部分がより丸まっている。

また気化されたアルコールをコンデンサー(冷却器)に導く釜の上部から出ているラインアームもやや上向きに調整され、一部のアルコールが釜に戻されることによって軽やかで香り高いウイスキーができる。設立当初から軽いピートと軽快なキャラクターを狙って製造されている。

f:id:KodomoGinko:20191217000158j:plain

(写真はウイスキー仲間の鯨/K.67さんからご提供いただきましたグレンガイル蒸留所のポットスティル、鯨さんのブログはこちら)

設備レイアウト・設計はおなじみロセスにあるフォーサイス社が担当、上記写真で中二階部分にある設備は作業効率や昔からのしきたりもあって高さが同じにそろえられている。

設備のうち6割は新設、残りは他の蒸留所で使われていたもの。先述のポットスティルの他にもコンデンサーやスティルセーフやスティルレシーバーもベンウィヴィス蒸留所から移設された。麦芽を粉砕するモルトミルはクライゲラヒ蒸留所で使わなくなったものをタダで譲り受けてメインテナンスし使っている。

なぜグレンガイルではなくキルケランなのか

一義的には現在グレンスコシア蒸留所を保有するロッホロモンドディスティラーズがブロックブラザーズからグレンガイルの商標権を引き継ぎ、現在も保有しているため。
かつてFraser MacDonald Distillery名義でGlen Gyle 8 Yearsというヴァッティッドが出ている。そのヴァッティッドモルトとの混同を防ぐためもありキルケランと名付けられた。

thewhiskeyjug.com


グランスコシア蒸溜所が再開した際にスプリングバンクがご近所のよしみでウイスキーの製法の改善を手伝ったという記述もあるけれど、「そこまで手助けしたのにグレンガイルの商標を譲ってもらえなかった」という恨み節に聞こえなくもなくて、それもまた人間臭くて面白いと思った。ただしグレンスコシアの公式HPにもグレンガイル蒸溜所の復活のおかげでキャンベルタウンの蒸溜所の数が3つになってウイスキー産地の呼称が守られた、とちゃんとクレジットされている。

キルケランはキャンベルタウンの街ができる前にここに入植したアイルランド十二使徒の一人聖キエランの名に由来する。
キャンベルタウンはもともとゲーリック語で「聖キエランの教会がある湖のほとり」を意味する「キンロッホキルケラン」という名前の街だった。

またあまり表立って言われることの少ない理由がかつてのスプリングバンク黒歴史によるもの。一時ピートが効いて重厚なキャンベルタウンのウイスキーが軽やかかつ華やかなスペイサイドのウイスキーに席巻されて売れ行きが低迷し、また粗製乱造でブレンダーからそっぽを向かれて多くの蒸留所がバタバタと倒産していた頃、スプリングバンクは生き残りを賭けてプライドを捨て「ハイランドウイスキー」を名乗っていた時期があった。あのキャンベルタウンのプライド高きスプリングバンクがホンマかいな、と私も思ったがよく考えたらWest Highland標記のスプリングバンクが存在しているのでガセではない。

f:id:KodomoGinko:20191218090939j:plain

2004年の復活にあたってはハイランド/スペイサイド*3ウイスキー(=黒歴史の存在)を連想させる「Glen」という名をつけずキャンベルタウンの伝統的なウイスキーであることを象徴するキルケランという名前が相応しいとされた。

キャンベルタウンがウイスキー産地として認められなくなってスプリングバンクやグレンスコシアが「ハイランドウイスキー」の一つとされるかもしれなかったことに抵抗してスプリングバンクが旧グレンガイル蒸留所を買収して再建したことを考えると、仮にグレンガイルの商標をロッホ・ロモンドグループから譲ってもらえたとしてもグレンガイル蒸留所で作られるウイスキーの名前はグレンガイルではなくキルケランというキャンベルタウンを象徴する名前にしていたのではないか、と私は思う。
 

世間の評価

Whiskybaseの点数を見る限り、最もコストパフォーマンスがいい蒸留所の一つと言わざるを得ない。

オフィシャル12年46度という最もスタンダードな1本のWhiskybaseでの評価は素点で86.32/100点、調整後86.52点*4となるが、本体価格5000円以内でいつでも買える(「本数が少ない=貴重なもの=美味いに違いない」バイアスがかからない)ボトルとしては破格のレーティング、1点あたり55.5円というとんでもないコストパフォーマンス。これ貰って喜ばないウイスキー好きがいたらびっくりするわ。

直近発売された15年熟成のカスクストレングスシリーズも軒並み90点台弱と高評価、どこかのバーで見つけたら試されることを強くお勧めします。

 

 


キルケラン 12年 700ml 46度 箱付

価格:4799円(税込、送料別) (2019/12/17時点)

 

参考


Frank McHardy taking us through the whisky history of Campbeltown and Mitchell's Glengyle Distillery

http://jp.mahorobi.com/column.html

https://scotchwhisky.com/whiskypedia/1859/glengyle
http://springbank.scot/about/story/
https://whiskymag.com/story?the-times-they-are-a-changin-springbank
https://en.wikipedia.org/wiki/Glengyle_distillery
https://www.whisky.com/whisky-database/distilleries/details/glengyle.html

 

 

 

*1:一説には34ともいわれる

*2:カラマツの一種、ボートの外装に使われフルーティーウイスキーを産み出すとされる

*3:かつてはスペイサイドはハイランドの一部とされていた

*4:上位評価2.5%と下位評価2.5%を切り捨てして調整、極端な人の極端な評価を避けることができるため個人的に重宝している

渋谷ロックバー  道玄坂ロック

モルトバーにて散々いいボトルを飲ませてもらって気持ちよく酔っ払い、次の日のことを考えたらそのまままっすぐ家に帰ればいいのに、つい寄ってしまうバーがある。

渋谷の猥雑な一角にある雑居ビルの5階。私がそのビルの中にある怪しげな店に直接向かうと勘違いして客引きがエレベーターに飛び乗ってきたことが何度かある。自分の成績にしようとしたかったらしい。エレベーターのドアが開くとバーの扉は目の前。

バー「道玄坂ロック」。カウンター6,7席、テーブル席2つのさほど大きくない店。通常はお酒が置かれているカウンターの後ろにはレコード棚とオーディオ、JBLのスピーカー。カウンターの外にも物凄い量のレコードがある。バックバーはカウンターの外。その隣には1960年代製と思しきGibson Firebirdが飾ってある。

f:id:KodomoGinko:20191124092940j:plain

店主は(とても)愛想がないので驚くかもしれないが、心配する必要はない。あなたにだけ愛想がないわけではないので。そこそこ訪問しているはずの私でも世間話などしたことがない。

こういうお店のウイスキーはスタンダードなものしかない場合が多いのだが、このバーには山崎12年、余市10年や旧ラベルのラフロイグ18年などウイスキー好きがみたらニヤニヤしてしまうようなボトルが置いてある。この3つは在庫がなくなれば終わりだろう。私はたいていラフロイグ18年かタリスカーやエライジャクレイグのソーダ割をオーダーする。ストレートで頼むとテイスティンググラスに入れてくれるのも、この手のバーではあまりないので嬉しい。
f:id:KodomoGinko:20191203140126j:image
お通しには木の器に入ったピスタチオが出てくる。カウンターでピスタチオの殻を割っていると、手持ち無沙汰な感じがしなくなるのでありがたい。きれいに割れたり、なかなか割れなかったり。そもそもウイスキーととても相性が良い。

この店は客が自分の好きな曲をリクエストできる。レコードは数千枚あるぞ。CDも12000枚ぐらい。厚さが10センチ近くあるカタログには邦楽洋楽と時代を問わず大抵のものが乗っている。Robert Johnsonから松田聖子からプロディジーメタリカまで。そして目の前においてある紙に自分の聴きたい曲を書いて、店主に渡すスタイル。紙を渡した途端に握りつぶされくしゃくしゃにしてポイ捨てされるが、そんなことでめげてはいけない。

流れている音楽がレコードからのものだと壁にそのジャケットが飾られる。CDからだとプロジェクターでジャケット画像が壁に映る。

f:id:KodomoGinko:20191124093723j:plain

まあこれも「ジャムパンが好きかカレーパンが好きかで喧嘩するな」のたぐい、人の趣味の問題なので私が口を出すことではないのだが、店にあとから来た客はしばらくどんな曲がかかっているか確かめてから、比較的ジャンルの近い自分の好みの曲からリクエストするのが好ましいと思う。他のお客さんや店主の趣味やその時の気分をリスペクトするという意味で。

しばらく待ってみて自分の趣味寄りの曲がかからない時は、他のお客さんのリクエストがないときを狙って自分のリクエストをお願いするのが無難なように思う。私がそうしているだけだけれど。

ちなみにキリンジのエイリアンズをリクエストすると自分の手書きのリクエスト用紙の写真が「本日のエイリアンズ」としてTwitterに晒されることがあるので注意。

 

普通の尺度で言うと居心地いいサービスのバーとは言えないのだが、スピーカーの前に座って自分のリクエストをレコードからかけてもらって聴くと、そんなことはどうでもよくなる。

JBLのスピーカーはやたらと音の分解能が高く、録音のいいレコードだと、ストラトキャスターやファイアバードのピックアップからアンプにケーブルで突っ込んだそのままの生の音が突き刺さってくる。目の前でライブを見ているかのよう。
先日Johnny WinterのLiveから1曲目、「Good morning little school girl」を掛けてもらったのだけれど、ツインギターの左右のセパレーションもくっきりしていて臨場感が素晴らしくうっとりした。
CDよりもむしろレコードの方が音質良く感じる。ぜひカタログからレコードを選んでかけてもらってほしい。

何度か来ると分かるが、いつ来ても恐ろしくきれいに掃除されており、いつものものがいつもの場所にきちんと置いてある。レコードの棚も乱雑になっているところを見たことがない。

f:id:KodomoGinko:20191124092936j:plain
そして禁煙というのも私にとってはありがたい。店の奥には喫煙スペースがあるようなので愛煙家の方も困ることはないだろう。私は行ったことないので知らんけど。

壁にはアルバムジャケットが映し出されていないときはクルマで都内や沖縄、タイなどを流しているときの車窓からの風景が映る。川崎辺りを走っている映像だったとしても何だかぼうっと見入ってしまうから不思議なものだ。

f:id:KodomoGinko:20191124092943j:plain

音楽が好きな人なら一度は行ってみてほしい。いい音で自分の好きな音楽が聴かれるモルトバーには残念ながらまだ出会ったことがない。自分がバーをやるならこれぐらいのこだわりを持ちたい。自分のリクエストを掛けてもらったあとに井戸さんが私の好みの延長線上の知らない曲を掛けてくれるとただ愛想良くしてくれるだけがいいサービスではないことがよくわかる。

 

 

 

 

 

dogenzakarock.com

 

 

 

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

 

 


 

私がウイスキーのネガティブなコメントをしない理由

先日信濃屋さんのお招きで台湾のボトラーAqua Vitae(アクアヴィッテ)のAllen Chenさんによるテイスティングイベントに参加した。「自分の好きなオールドスタイルのウイスキーはなかなか見つからないので気に入ったものを自分で詰める」「味や香りが開くまで手間のかかるオールドのボトルを気軽に飲めるようにしたい」というコンセプトで始めたという、比較的若いボトラー。40歳前後だろうか。
「好きなボトルが世の中にあまりないのだったら自分で探して詰めてしまえ」、というのはウイスキー好きの夢。それをお仕事にされているのは本当に羨ましく、既にウイスキーブーム真っ只中の2015年から始めたのにどうやって蒸溜所とコネクションを作ったのかとかいろいろAllenにお伺いできて楽しかった。

Allenと会えた以外にも沢山の有名なウイスキーの飲み手とご一緒できてそちらも大変いい刺激になった(もちろん信濃屋の方々ともですが)。
真剣な飲み手と様々なボトルを飲み比べるうちに、やはり人によって知覚と好みの違いがなぜ生まれるのかという普通の人には当たり前すぎてあまり考えないかもしれないことについて改めて考えてみるいい機会になった。

色んな国の人に「どの色が一番好きですか?」と聞いた答えが国によって全然違う、という調査結果は興味深い。青がどこの国でも圧倒的に一番人気なのは水と青空がないと人間は生きられないという事実を反映しているのかもしれない。最近自分が青いネクタイばかり持っていて、バイクも青でクルマも紺で、ということに気づいて「もしかして俺ってアオレンジャー?」と不安に苛まれていたのだが、世界にアオレンジャーはたくさんいることがわかって少しほっとした。
アジアの国にはなんとなくキレンジャー(含む茶色やオレンジ系)が多い気がする。
国の差だけでなく同じ国の中の男女の差も大きいらしく、アメリカでは40%の男性が青が一番好き、と答えたが女性は24%、イギリスでは40%対27%だそうだ。日本人の答えはないのが残念だが青ではなくて白が一番多いらしい。

f:id:KodomoGinko:20191119131416p:plain

民族が違うと一番好きな色が違う、というのは直感的に納得できるが、同じ日本人同士でも「あなたが見て一番落ち着く色はどれですか?」と10人に聞いたら答えはかなりばらけるだろう。私は緑を見ると一番心が落ち着くが、あなたはオレンジを見てそう感じるかもしれない。
また同じ色を見ていても、私の色味の感じ方とあなたの感じ方が全く同じものとは限らないし、たぶん違う。だから「落ち着く色はどれ?」みたいな質問で人によって答えが異なるのだろう。それを証明するのは極めて難しいと思うが。


それと同様に、同じウイスキーを飲んでも私が感じる味と、隣の人が感じる味は間違いなく違うはず。味覚・嗅覚のインプットに対するセンサーの性能は人それぞれだし、感じたものを分解する能力は人によって異なるだろう。虹の色を7色だと思う人と、5色や9色だと思う人がいるように。

味覚・嗅覚などの知覚情報をポジティブに受け止めるかネガティブに受け止めるかは記憶や経験ともリンクしているはずだ。子供のころにコーヒーやビールをどう感じたかを思い出してほしい。それらの記憶や経験は、当然私と隣の人では全く違うだろう。

またウイスキーというかお酒特有の問題もある。遺伝的にアルコール耐性の高い人はアセトアルデヒドに果実香のような甘さを感じるかもしれないが、耐性がないもしくは低い人は同じアセトアルデヒドを嗅いでも生理的に粘膜への刺激が強いために甘みというよりもアタックや辛さを感じるかもしれない。私は後者の傾向があることに以前Twitter上でいただいたコメントで気が付いた。

(少し話はそれるが、これが欧米人とアジア人(モンゴロイド)では好みの酒のタイプの違いがある理由であってもおかしくないし、台湾のボトラーのボトルが日本で受ける理由の一つなのかもしれない)

インプットを分析するセンサー性能も違い、感じた味覚や嗅覚を脳内で分解し整理する能力も人によって違い、そもそも同じものを飲んでもそれを旨いと感じるかどうかは人それぞれ。そしてその旨さを人に伝えるためにアウトプットする時のボキャブラリーだって人によって全く異なるのだから隣の人のテイスティングコメントが私のそれと一緒のわけがない。

人の好みについていうと、納豆を死んでも食べられない人もいれば大好きでいくらでも食べられる人もいる。私がジャムパン好きだからと言ってカレーパンが一番好きな人を非難しても何の意味もないし、「お前何でジャムパンみたいな食べ物好きなの?カレーパン最高なのに意味わからん」と言われても私の知ったことではない。

ソーピーな80年代ボウモアが好きな人がいても全くおかしくないけれど、私はソーピーなのはいろんな意味であんまり得意ではない。

f:id:KodomoGinko:20191119182728j:plain

けれどソーピーなボウモアを好きな人が間違っているとは全然思わない。(写真は本文とは一切関係ありません)

f:id:KodomoGinko:20191119134613j:image

 

飲む順番だって味覚と好き嫌いに大きなインパクトがある。
ストレートで長熟の甘めのラムを飲んだ後にグレンドロナックみたいなシェリー樽熟成のウイスキー飲んでタンニンを強く感じて嫌いになってしまうかもしれないし、アードベッグスーパーノヴァ飲んだ後に加水のオールドのノッカンドゥー飲んだら水飲んでるようにしか感じなくてなんだこれは、と言ってしまうかもしれない。



それにキルホーマンよりもラフロイグが好きで、ラフロイグよりもアードベッグが好きで、アードベッグよりもラガヴーリンの方が好きだったとしても、ラガヴーリンとキルホーマンの二つが並んだ時に100%ラガヴーリン選びますか?と聞かれると自信ない。自分の中での評価軸が一つしかないわけではないということだろう。時と場合によってどの軸を使うかは異なるように思われる。

というわけで、私はあるボトルを試して自分の好みに合わなかったとしても、自分のセンサーの性能がそもそもポンコツだったかもしれず、飲む順番や体調が悪かっただけかもしれず、口開け直後で固かっただけかもしれず、バーに行く前におにやんまで食べた冷やし鳥天うどんの鳥天にかかっていたコショウが強すぎただけだったかもしれず、池袋の蘭州ラーメン屋の羊の串焼きのクミンが酒を飲まないムスリム向けの味付けでウイスキーに合わないだけだったかもしれず、自分の意見はマイノリティで他の人はこのウイスキーをおいしく思うかもしれないぞ、と思うようにしている。

仮に同じものをその場で居合わせた数人で飲んで評価が低かったとしても、最初に評価をした人のネガティブな評価に引きずられたり、エコーチャンバー効果でちょっとのネガティブがすごくネガティブになってしまうことだってあり得る。誰かが褒めちぎっているボトルを「あんまり気に入らなかったんだけどな…」と思うことはあっても褒めちぎっている人に面と向かってそう言わないのと同様に。

だから自分の味覚の絶対的な正しさに強い確信を持てない私のような人間が、バーでネガティブなことを言ったりずっと残ってしまうかもしれないブログだのSNSだので否定的なことを書くというのはちょっと違うかな、といつも思っている。反対に美味しかったときは声を大にして言っておりますが。

 

私にとってウイスキーは楽しい時間を過ごすための手段であって目的ではなく、極論すると居心地悪いバーで美味いウイスキー飲むよりも居心地いいバーで普通のウイスキー飲む方がいい。こういうと「お前は真のウイスキー好きではない」と言われそうだが、否定はしない。

私は飲んだウイスキーの悪口をわざわざ言ってその場の雰囲気を悪くしたくない。自分の好きなウイスキーの悪口を隣の人が言いだしたら楽しく飲めないから。そのボトルを選んだインポーターやそれを買って客に出したバーテンダーにも申し訳ないし、その場に居合わせたお客さんでそのボトル前回来た時に飲んでおいしいと思った人も気分を害するかも、と思ってしまう。

もちろん私と考えが違う人がいても別に非難するつもりは全くない。ジャムパン好きとカレーパン好きが喧嘩して意味ないのと一緒なので。

私がバーに行く理由の一つは試してみたいボトルがさまざま置いてあるから。
クオリティの高いボトルを日本に引っ張ってきてくださるインポーターさんにはとても感謝しているし、自分が飲んでみたいボトルを私の代わりに買ってくれてさまざま飲ませてくださるバーは超ありがたい。

様々なボトルを入れればハズレもあれば好き嫌いの分かれるボトルもあるだろう。だけどいろいろ入れなければ大当たりを引く可能性も下がってしまう。そしてインポーターさんやバーはある程度ボトルを売り切らなければならないのも事実。そうでなければ商売が回らないし、彼らがつぶれてしまえば私は困ってしまう。それを考えれば飲んだ一杯が仮に気に入らなかったとしても私はあれこれ言わずに黙っていたいし、ネガティブなことを人前で言いきるほど自分のセンスに自信もない。

(ただし私があるボトルについてコメントしなかったからと言って必ずしもそれが好みではない、ということではないので、念のため。気に入ったのに酔っぱらってしまい記憶が飛んだ、とか飲んでて楽しくなってコメント書くのがめんどくさい、とか普通にあります)

ちなみに先週金曜日に飲ませていただいたAqua Vitaeの中でとても気に入ったのがブナハーブンとグレンキース。もちろんこれも異論は認める。1989年蒸留の28年のブナハーブンは度数が落ちてとても口当たりがスムース、70年代のハイランドのウイスキーのように骨格がしっかりとして崩れない。華奢で綺麗な上品なクリームの中にブドウがいるタイプ。グレンキースはマクヴィティビスケットのクリーム味を思わせるバーボン樽熟成の王道タイプ、そもそもキースは好きだしこのスタイルは一番好き。
f:id:KodomoGinko:20191120131715j:image
今度Allenが60年代っぽいエステリーなオールド感のあるボトルで気軽に飲めるものをリリースしてくれたら最高だ。ムチャ言うなという話かもしれないが。
f:id:KodomoGinko:20191120131222j:image

金曜日の20時半から1時間、という営業ゴールデンタイムにJ's Barさんを貸切にして太っ腹に飲み放題、という色んな意味でゴージャスなイベントだった。
信濃屋の(あ)さんとJ's Barの蓮村さんへの私の気持ちとして上記のAqua Vitaeのボトル2本とJ's Barと信濃屋銀座店のジョイントのグレンファークラス、イーグルボトルを注文することにした。(あ)さんメールお待ちしております!(笑)

 

 

皆様の清き一票のお願い

 

ところで奥様、別のサイトに「長野・山梨でウイスキーの蒸溜所と聖地を巡る。東京から1泊2日の小旅行」という記事を書きました。

白州蒸留所、マルス信州蒸留所に行き、松本にある伝説のモルトバー「摩幌美」さんを訪問した内容をまとめた記事です。駒ケ根のArikaさんというバーもよかったな。

皆様にたくさんアクセスしていただくことによって、新しい蒸留所や各地の伝説的なバーを巡って(サウナでも食い倒れでもよいのですが)記事を書かせていただく機会を再び頂戴することを虎視眈々と(?)狙っております。

いつも読んでくださっている皆様、こちらちらっとクリックするといつもよりマジメなわたくしの記事が読めますのでよろしくお願い申し上げます。かしこ。



  https://welove.expedia.co.jp/destination/japan/47576/

 

好きなバーの条件

Twitterの質問箱に「好きになるバーの条件」というお題をいただいた。

f:id:KodomoGinko:20191026231458j:image

Twitter上でお返事しようかと思ったが、140字では言葉が足りなくなりそうなのでこちらに書いてみる。

最近とある媒体にウイスキーやバーについての記事を書いてくださいと頼まれたので、どう自己紹介書いたらよいか悩んで、過去12か月間に自分がどれだけバーにお金を落としたかカードの明細見て調べてみた。結構いいバイクが買えるぐらいだった。東京以外のバーを訪れるための旅費なども入れるともっと膨らむ。それをここしばらく続けている。それぐらいバーで飲むことには思い入れがある。

そもそもなぜバーでわざわざ金払って飲むのか。
家には自分好みのボトルが結構な本数開いている。
静かでゆったりとした自分のスペースで、本を読み好きな音楽を聴きながらお気に入りのグラスで酒が飲める。タバコの煙を気にすることもない。

それなのにバーのカウンターの、大抵あまり座り心地の良くない椅子に座って飲む。「これだったら家で飲んだほうが良かった」と思うこともごくまれにあるが、自分の好きなバーに行って飲むのは基本いつも楽しい。

ではどんなバーを好きになるのか、と聞かれるとまず初めに頭に思い浮かぶのがバーテンダーの顔。バーテンダーをリスペクト出来るかどうかが一番大きい。

リスペクトというといろんな切り口があるが、まず知識の広さ、深さ。
最近キャンベルタウンロッホで飲んでいて、グレンファークラスがどのようなサイクルでいい樽を使いまわし、どの樽詰めのビンテージが当たり年なのかという話を中村さんからお聞きしたのがすごく面白かった(詳細はあえて伏せるので、興味ある方は有楽町行って聞いてみてください!)。

f:id:KodomoGinko:20191026231049j:image
グレンファークラスつながりになるが、池袋J's Barの25周年記念ボトルのラベルには鷲があしらわれている。蓮村さんからは「昔のグレンファークラスのトールボトルで鷲をモチーフにしたラベルのボトルがあって、それは蒸留所にとって特別な意味を持つボトルなのだけど今回の店の周年ボトルはダンピーボトルではあるけれど同じようにイーグルをあしらった」旨の話を伺った。
独立家族経営の誇りの証として孤高の存在の象徴であるイーグルをラベルにあしらうことがどれくらいグレンファークラス蒸留所にとって重要なのかがわかるエピソード。

これらの話は実際に蒸留所と歴史的なつながりが強い方だけが知っていてウェブに転がっているようなものではないので、こういう話を聞けるのはバーならではだな、バーに来てよかったな、と思う。

そして記憶力と表現力。
「このボトルどんな感じですか?」という質問に対しバーテンダーが的確な記憶力と表現力でイメージを飲み手に伝えることができ、実際に飲んでみた感じがそれに近いと「やはりプロはすごい」、となる。店にある相当数のボトルのそれぞれについてしっかりイメージを持っているなんて、そして口開けの時の印象だけでなく、開栓してからの香りと味の変化についても語れてしまうなんて本当にすごい。
自分の家にあるボトルについて、他人にどこまでしっかり説明できるかというと正直あまり自信がない。それも自分が好きで何度も飲んでいるボトルなのに。

新橋のキャパドニックの原子内(はらしない)さんは過去に自分が飲んだ同じビンテージの別のボトルと比べてこのボトルはこうだ、というところまでしっかり教えてくれる。さすがプロ。リスペクト。
f:id:KodomoGinko:20191026235737j:image


そして観察力も重要。
「このボトル上手くバーボン樽の甘みが乗っているのですごくオススメです!多分お好きだと思うんですよね…」(私が微妙な表情→察し)「あ、そういえばこの前これ飲んでいただいてましたよね」的な観察力と機転。こちらとしては「いやそれこの前飲みました」とか超ストレートに無粋なこと言って場を気まずくしたくないので、黙っていても気づいてもらえると本当にありがたい。
記憶力も観察力も残念なバーテンダーの場合、熱いボトル推しトークを何度も聞くことになり、上手く角が立たないように断るのに仕事の時のように気を遣って疲れるので足が遠のいてしまう。

あとは自分の知らなかった世界を見せてくれる提案力。
「たぶんこれお好きだと思いますよ」と勧められて飲んだ、まったくノーマークだったボトルがめちゃくちゃ自分好みだった時は、自分の知らない世界を教えてくれたバーテンダーに心から感謝したくなる。家で飲んでいると自分が知っている世界だけで完結してしまい、自分の知らなかったことを知ることは基本できない。未知の知というか、自分の知らない世界がありもっともっと素晴らしいものに出会える機会があるという当たり前のことをバーで教えてもらえると、大げさだが生きる希望が湧いてきて本当に有難く思う。今は北京に行ってしまったけれど、渋谷のカリラとポットスティルにいた元永さんはこの意味で凄かった。
f:id:KodomoGinko:20191027000040j:image

さらに言うと、技術が卓越していること。
例えば最も有名なウイスキーベースのカクテルの一つマンハッタンは、ウイスキーとヴェルモットをステアしてビターズを数滴たらすとできるという単純なレシピのはずなのだが、家で作ったのと銀座ゼニスの須田さんが作ったものでは全然味が違う。
もっと言うとウイスキーソーダで割っただけのハイボールでもバーで作ってもらった方がたいていの場合美味い。
やはりバーテンダーの技術は単純な飲み物を作ってもらうとすごくよくわかる。
鮨とか天ぷらとかと同様にカクテルも基本はおうちで作るものではない、というのが最近達した結論で、やはりプロの技というのは尊敬に値する。


(こちらでご紹介していないバーマンでももちろん素晴らしい方はたくさんいらっしゃるので念のため)
f:id:KodomoGinko:20191027212008j:image

リスペクトできるバーテンダーがいるというのはそのバーを好きになるために非常に重要なことだと思う。

お客さんがバーテンダーをリスペクトしている店では、バーテンダーが他のお客さんの相手をしているときは自分のグラスが空いても客は自分のオーダーを聞いてもらえるタイミングが来るまで大人しく待っている。それがバーテンダーの仕事に対するリスペクトだから。

そしてちゃんとしたバーテンダーは客が気を遣っていることに気が付いていて、何も言わなくてもすぐに次の一杯を何にするか聞きに来てくれる。それによってお互いをリスペクトする関係が成立する。そして隣にいるお客さんもそれを見て同じような気遣いをする。

だが客が店に気を遣ってもそれに気づかないようなバーテンダーがやっている店はたいてい店が荒れる。
自分に声がかかるのを待っている客がいるのに気づかず、何も考えずに「すみません!」と声掛けする別の客をバーテンダーが先に相手してしまったりすると、お行儀よく自分の番が来るのを待っていた客がバカバカしくなって店に気を遣わなくなる。
そして悪循環が起きてどんどん店が荒れていく。
人からリスペクトを受けられないのに一方的に人をリスペクトするというのは人間の感情の上では非常に難しい。

そういう「言ったもの勝ち」「声のでかいもの勝ち」みたいな、世の中でありがちだけれど自分の理想とは程遠いことが起きる場所にわざわざ金を払って行く理由を私は持ち合わせていない。仕事なのであれば百歩譲って我慢するけれど。仕事を終わった後の自由な時間でそんなことが目の前で普通に起きるようなところにわざわざ金払ってまでいたくはない。

だからリスペクト出来るバーテンダーがいる店が好きだ。そんな店では「金払っている客が一番偉い」みたいな勘違いした人はほぼいない。

 

 

 

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

 

 

 


 

最近食べた茶色い食べ物をひたすら上げていくスレ その3

前回から1年4か月ぶりですが、「最近食べた茶色い食べ物をひたすらあげていくスレ」その3となります。美味いものはたいてい茶色いのだ。あんまり茶色くないとかそういうことは言わないようによろしくどうぞ!

横浜中華街 南粤美食(なんえつびしょく)

先日土曜日の夜、予約なしでふらっと行ってみたらたまたま入れて超ラッキー。
今度放映される孤独のグルメシーズン8の初回に登場するようなので、しばらく再訪できないだろう。

黄ニラと貝柱の卵炒め。

f:id:KodomoGinko:20190924130039j:plain

空心菜と牛肉の炒め。

f:id:KodomoGinko:20190924130032j:plain

海老雲吞麺。

f:id:KodomoGinko:20190924130036j:plain

伊府麺。上に乗っているのは多分エビの卵。

f:id:KodomoGinko:20190924130043j:plain
二階の席に通されたのだが、奥の円卓にいたベトナムフェス帰りのアイドル好きな「おおきなおともだち」8人連れが、紹興酒が来ると「あさはらサイコー!しょうこうしょうこう」とかここでは書けないような下ネタを尋常じゃない声のボリュームでずっと言い続けているので年頃のムスメを連れたトーチャン的にはやや切れ気味。

こういう伊府麺は他ではなかなか食べることができないので食べられてよかった。黄ニラと貝柱の卵炒めや牛肉と空心菜の炒めなど、特段手の込んだ料理ではないのに滋味深いのはすごい。海老雲吞麺は独特の粉っぽさがB級グルメ的でよかった。

 

 

大阪梅田阪急東通り 美舟(みふね)

梅田から歩いて5分ぐらいのところに昭和を煮詰めたようなお好み焼き屋がある。

f:id:KodomoGinko:20190911215832j:plain

中もこんな感じ。一人席に座るのだが、狭すぎてまっすぐに座れない。f:id:KodomoGinko:20190911215934j:plain

小学校の机ぐらいの大きさのテーブル上に鉄板が置いてあり、そこでお好み焼きか焼きそばをいただく。

f:id:KodomoGinko:20190911215913j:plain
こんな感じ。鉄板が暑く冷房も弱いので汗だくになりながらビールを飲み、粉物を食べる。

f:id:KodomoGinko:20190911215853j:plain
こんな昭和を絵に書いたような店内に70年代のハードロックがかかる。大阪らしくていい店だ。 

 

小手指 うなぎ屋酒坊・画荘 越後屋

ヌルヌル系嫌いな方はごめんなさい。小手指越後屋で琵琶湖産の天然ウナギを食べた。養殖ものと比べて大きさが半端ないし色も圧倒的に濃い。

f:id:KodomoGinko:20190925223912j:plain

天然の中で一番大きいのを選んでさばいてもらった。
下の写真、上の深緑の飴色をしたものが天然もので、下の青っぽいのが養殖もの。まるで別の魚のようだ。

f:id:KodomoGinko:20190911215857j:plain

開いてみると大きさの違いがさらに明らかになる。養殖ものはお重にきちんと収まるのが良しとされているのであえて大きくさせない、というオトナの事情もある。

f:id:KodomoGinko:20190911215927j:plain
養殖ものもさっぱりしておいしいのだけれど、天然もののしっかりとした触感と味の濃さには叶わない。大きすぎるとうな重にならない上、天然もののしっかりとした弾力を楽しむために蒸さずに関西風に地焼きにしてどんぶりにしてもらって食べた。上の大きいのが天然、下の小さいのが養殖で食べ比べ。
f:id:KodomoGinko:20190911215845j:plain

サステナビリティ的に問題があるのはわかっているのだけれど、美味しくいただきました。肝吸いの肝も半端なく大きい。

f:id:KodomoGinko:20190925223909j:plain

本当に絶滅が危惧されるのなら供給が少なくなり、需要があまり減らないとするとどんどん値段が上がるはずで、そんな値段ならわざわざウナギ食べなくてもいいじゃん、という人が増えて結果的に市場原理に基づいて資源が保護されるはずなのに、「絶滅危惧種なのに安く食べられるので大量に消費されて絶滅しそう」ってのは矛盾以外の何物でもなく何かが根本的におかしい。ちなみに天然のウナギはさすがにいいお値段しましたがこちらは確信犯なので全く悔いはない。

 

 

池尻 THE BURGER SHOP

差別と非白人を心から嫌うどこかの国の大統領が今年の春に来日した際に千葉のゴルフ場まで出張ってハンバーガーを提供した店。メニューにはパテ2倍の特別なチーズバーガーが。

f:id:KodomoGinko:20190925225012j:plain

この写真見て「この量は無理かもしれない」と怖気づき普通のアボカドバーガーをいただいたがペロッと美味しくいただいてしまったのでやっぱりトランプバーガー食べるべきだったかも、と反省。

f:id:KodomoGinko:20190925225023j:plain
素敵な色白の和風美人がバンズとパテを焼いてくださったのだが、その方がオーナーだったそうだ。

それほど遠くないところに外務省の寮があるから、「あそこのハンバーガーだったらコーラとバーガーキングしか食べないエアリーヘアのおっさんでも機嫌損なわずに食べるやろ」と外務省の儀典担当が思いついて白羽の矢が立ったのかもしれない。おいしいです。

f:id:KodomoGinko:20190925225019j:plain
 

 

担担麺ピリリ 神田店

水天宮前にある本店には何度か行ったことがあったが、神田店が出来たので行きやすくなり最近よく訪れる。汁なしの白ゴマと黒ゴマ、汁あり、成都式のすべてを食べたことがあるが白ゴマと成都式が好き。

f:id:KodomoGinko:20190929204924j:image

丁寧にちゃんと作られていて好感度高い。そして辛めで頼むと辣油と花椒胡麻のペーストのクリーミーさに負けない力強さで、食後に水飲むとめちゃくちゃ甘く感じて自分の舌が痺れていることがわかる。ただの水なのに。

そして麺の味わいが深いのがここのいいところ。胡麻の甘みに隠された唐辛子と花椒のカラシビを麺を噛みしめた甘さで中和したくなり、ついつい麺をがっついて食べがちなのだけれど、麺そのものが旨いので急いで食べてしまうにはもったいなく、よりじっくり味わうために食べるスピードを下げなければ、落ち着け俺、と自分に言い聞かせながら食べる。おいしいものを慌てて食べてもいいことないからね。

 

森下 桜鍋 みの家

東京らしいところで食事したい、と知り合いに言われたら皆さんどこに連れていくだろうか。
私は森下の桜鍋、みの家に連れていくことが多い。馬肉を食べられない人は神田の鶏すき、ぼたん。
どちらも風情ある木造建築。みの家は戦後に建てられたそうだが趣深い。

f:id:KodomoGinko:20190929212320j:plain

靴を脱いで座敷に上がり、下足番のおじさんから木の札をいただく。そして広い座敷には座布団が敷かれていてそこで多くのお客さんと鍋をつつく。

f:id:KodomoGinko:20190929212317j:plain

桜鍋のロース2人前。甘い味噌味で頂く。1人前2500円、馬刺し1900円なのでビール飲んで玉子とご飯で〆ても一人5、6千円程度。桜鍋も甘辛い味噌と相性がよくビールが進む。すき焼きのように玉子にからめて食べるのがすごくおいしい。最後のTKGも。
f:id:KodomoGinko:20190929204928j:image
リーズナブルなお値段で江戸の風情を色濃く感じられる、ある意味テーマパークのようなお店。東京にいるのであれば一度は行ってみるべきだと思う。丸の内線を淡路町で乗り換えて都営新宿線に乗り、森下の駅からすぐ。都心からのアクセスも悪くない。

f:id:KodomoGinko:20190929212313j:image

連れてきて感心しなかった人はこれまでいなかった。何度も来ているけれど来るたびに改めていいな、と思う。

 

 

www.e-minoya.jp



四谷 広東料理 嘉賓

この潔さを見よ。何の具も入っていない焼きそばを。ネギと生姜を油で炒め、その油で麺を炒めてオイスターソースで味付けした一品。それなのに何なのこの旨さ、反則反則~(ヨッピー風)っていうぐらいしみじみと旨い。
f:id:KodomoGinko:20190929204903j:image
細切りレタスのカニ肉、豚肉入り五目あんかけと雲呑スープを合わせて注文。ホワイトペッパーの辛さと蟹と豚、干しシイタケの味がしみ出したあんの甘さと旨みが混然一体となったところをシャキッ、パリッとした千切りのレタスが受け止めていてとても印象的。
雲呑スープに入っているレタスがスープとごま油の旨みを吸っているにもかかわらず硬すぎず柔らかすぎずとてもいい感じ。

薄味のスープと雲呑のエビのしっかりした味とのマッチングが素晴らしかった。

横浜中華街まで行かなくても、ここ四谷の嘉賓と三宿の新記で大体間に合うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

新潟の村上に一度訪問してみることを強くオススメします

先日また新潟の村上に行ってきた。たぶん6回目。そして自分がやっぱり村上が大好きなことを再確認。
去年は一人で行き、割烹 千渡里(ちどり)さんで食べたいくらご飯、お刺身その他があまりに旨すぎて一人だけこんないいモノ食べてしまったという家族に対する罪悪感がハンパなく、翌週末改めて家人を連れて再訪したぐらい。
 

islaywhiskey.hatenablog.com
今年来てみたら昨年泊まったニューハートピア新潟瀬波は休館しているし、その並びにある温泉宿もいくつも競売にかかっていて明らかに寂れてきてしまっている。こんな素敵なところが寂れていくなんてこれはまずい。皆さんぜひ村上に行ってみてください!

ということで今から全力で村上の宣伝をします。

 

村上の魅力というと、

  1. 酒が美味い(〆張鶴、大洋盛の酒蔵がある)
  2. 米が美味い(新潟では魚沼、佐渡と村上の岩船のみ産地が名乗れる、きれいな水と寒暖の差によって食べ応えのある少し硬めのコシヒカリが育つ)
  3. 肉が美味い(コンクールで全国一に輝く村上牛)
  4. 魚が美味い(産まれ育った川に回帰する習性を利用したサケ漁の発祥の地)
  5. 美味い食べ物と酒を楽しませてくれるお店のレベルが高い
  6. 茶が美味い(日本の茶の栽培の最北端)
  7. 夕焼けが日本で十指に入るぐらいの絶景
  8. 温泉が気持ちいい
  9. 人が優しくて温かい

がすぐに思いつく。他にもまだたくさんあると思うが。

とりあえず分かりやすい例を挙げると、2(おいしいお米)と4(おいしい魚)と8(気持ちいがいい温泉)のコンボがこちらになります。

瀬波温泉 旅館はぎのやの朝のバイキング、地元のお米にイクラかけ放題」。

f:id:KodomoGinko:20190922093139j:plain

最高か。炊き立てのほかほかご飯につやつやしたイクラ山盛りかけ放題だぞ。何たる贅沢。
それに7の夕日の美しさもついてくる。

はぎのやの8階大浴場から瀬波海岸に落ちていく夕陽と夕焼けがとても美しくて、露天風呂に入っていた私も含めたいい歳したおっさんたちがみんなため息ついて「いいところだなー」「心が洗われるわー」というぐらい。
マジで誇張抜き。風呂なので写メ撮れなかったことが悔やまれる。ちなみにはぎのやにはいい感じのドライサウナもあった。水風呂はないけれど。

ガチの夕陽マニアの方にはより海岸に近い夕映えの宿 汐美荘さんとか大観荘 せなみの湯さんをお勧めしておきます。

gurutabi.gnavi.co.jp

そして1と9のコンボ、美味い酒と優しい人の組み合わせ。

まず 日本酒「大洋盛」の蔵元大洋酒造がある。直近開催された関東信越国税局 酒類鑑評会純米大吟醸部門で186の蔵の頂点に立つ最優秀賞を受賞。

f:id:KodomoGinko:20190916094040j:plain

こちらの和水蔵(なごみぐら)では20種類ほどのお酒を試飲でき、気に入ったものを手に入れることができる。そして大洋盛の歴史の紹介も。

f:id:KodomoGinko:20190916094031j:plain

f:id:KodomoGinko:20190916094034j:plain

せっかくなので蔵でしか買えないものを頂けますか、とお願いして出てきたのがこちら。

f:id:KodomoGinko:20190916094028j:plain

左側が蔵出し原酒、アルコール度数19度。試飲させていただくと日本酒の旨みと重厚さが凝縮されているにもかかわらずフレッシュさとアルコール度数の高さを感じた。

右は杉樽純米原酒。江戸時代はガラス瓶がなく、酒を大量に運ぶには木の樽に入れて運ぶしかなかった。殺菌性があることと香りのよいことから杉の樽が当時よく使われたため昔の酒は杉の香りがしたそうだ。それを再現して杉樽で熟成した後、せっかくの杉の香が飛ばないように瓶詰めしてから湯煎にする、という手間のかかったお酒。確かに枡酒でいただくときのように杉の香が漂う辛口の酒。

通常は原酒を熱交換器に通して70度弱に加熱してから瓶詰するのだが、急加熱するとアルコール成分が蒸発することで香りも失われる。
それを避けるために瓶詰めしてからゆっくりと酒を温め、瓶が割れないようにぬるま湯、常温、冷水を順に使って温度を下げていくという非常に手間がかかる工程を経て出来上がる。全部手作業だそうだ。当然大量には作れないので地元限定。ここでないと買えないものが買えてとてもうれしい。

実は和水蔵に着いたのは午後4時過ぎ、人気がないなあ、と思ったら和水蔵は4時で営業終了していた。実は大洋盛さんにお邪魔するのは初めてだったのでとても残念で、せっかくなので蔵の写真だけでもと思い自転車停めて写真を撮っていた。
f:id:KodomoGinko:20190916094037j:plain
そしたらしごおわで駐車中の車の中にいた若い社員さんが出てきて、「明日トライアスロンですか?」と話しかけられ、そうなんです、村上好きなんで2015年以来ずっと参加しています、地震で被害でなくてよかったですね、とお話しした。
f:id:KodomoGinko:20190916094048j:plain
その社員さんは自転車に乗られるそうで、過去にトライアスロンのリレーでバイクパートを走られたこともあるらしい。震度6の地震に襲われた村上だが、もっと北の山形県境の方はひどかったそうだが酒蔵はダメージ全くと言っていいほどなかったそうだ。

そんな世間話をしていたらたまたま和水蔵から別の社員さんが顔を出されて、「今まだもうちょっと片付けやっているので、その間せっかくなんで見ていきますか、裏口からでよければ」と言っていただいて、営業時間が終わってるのに蔵に入ることができた、というわけ。ありがたや。融通きかせてくれた社員さんに厚くお礼を申し上げて辞去。「トライアスロン頑張ってください!」と言ってもらう。

その後またバイクで〆張鶴の宮尾酒造へ。

新潟で最近開発された「越淡麗」という酒米を村上の田んぼで村上の水を使って育てて、村上の水で仕込んだまさに村上のテロワール、という酒を買うことができた。
f:id:KodomoGinko:20190922092806j:plain
酒どころ、米どころの新潟なのに、これまで新潟の大吟醸酒兵庫県産の山田錦を使って作られていた。
地元の酒米である五百万石は、40%を超える精米には耐えられない品種で(おそらく水分含有量の問題で割れてしまうのだろう)、50%以上(米粒を半分の大きさになるまで磨く)と定められている大吟醸を作れなかったのだ。

そして今から15年ほど前、ついに新しい酒米「越淡麗」が新潟県農業総合研究所で開発され、地元の酒を地元の米で、という新潟の酒の造り手の悲願が叶ったのだ。

その新潟県産「越淡麗」を村上の田んぼと水で育て、村上の水で仕込んだ酒がこの「純米吟醸 越淡麗 原酒」。

地元のお酒屋さんと蔵元で昨年田植えから稲刈りまで行い、そのお酒屋さんにしか基本的に出していない貴重なお酒を手に入れることができた。

f:id:KodomoGinko:20190922100642j:plain

香りはマスクメロン、シャインマスカット、口に含むとわずかな酸味と甘み、かつお出汁のようなアミノ酸の旨さが広がって切れ味よく消えていき、飲み疲れせずに食中酒にぴったり。

お酒を包んでいた紙には昨年5月の田植えから10月の稲刈りまで丁寧にお米を育ててきたことが分かる写真が載せられていて、テロワールにかける情熱が伝わってきた。米造りの詳細は蔵元HPをご覧ください。 

www.shimeharitsuru.co.jp

買わせていただくときに「これってテロワールのお酒ですよね、ホームページで見ました」といったら蔵の方が嬉しそうに笑ってくれた。「トライアスロン頑張ってください」とこちらでも応援してもらった。そして別の社員さんが「杉玉入れて撮りますよ」と言って記念撮影も。忙しいはずのに有り難い。

f:id:KodomoGinko:20190922102450p:plain

大事なことなので言っておくと、こちらは日曜日は閉まっているので週末来たら土曜日のうちに必ず行ってほしい。営業時間は通常17時まで。 昨年訪問時の記事はこちら。

islaywhiskey.hatenablog.com 

  (こちらは原酒ではない「越淡麗」)


 

 

村上へのアクセスは、東京からだと高速道路で400km、上越新幹線と特急だと3時間強。魚沼の辺りを通るとたわわに実った稲穂が黄金色に輝いているのが見えてちょっと感動します。

高速道路はNexco東日本のETC車専用の周遊プランがあり、3日間新潟近辺の高速道路が定額で乗り降りし放題というお得なプランがあるのでご家族など少し多めの人数で行くならこちらがオススメ。

www.driveplaza.com

 

クルマだと朝東京出てランチに新潟に立ち寄ることをオススメします。新潟までは高速で3時間ちょっと、新潟に着けば村上まで40分ぐらい。

ランチは新潟のフェリーターミナルと魚市場のすぐ横、ピア万代の中にある回転ずし「弁慶 ピア万代店」が大評判。

f:id:KodomoGinko:20190916082746j:plain
大人気のお店なので30分待ちは当たり前ですが回転が速い。早目の時間に行った方がいいが、番号札取って自分の携帯番号登録しておけば順番が近づいたら自動音声で電話かかってくる。
でも時間をつぶすのも簡単で、すぐ横にある地元の農産物や魚の直売所を覗いていると楽しいのであっという間に時間がたちます。

f:id:KodomoGinko:20190922105037j:plain

f:id:KodomoGinko:20190922105039j:plain

ほうぼうが美味かったな。

f:id:KodomoGinko:20190916083229j:plain
途中で城下町新発田によってもいいかもしれない。

以前村上を訪問した時の熱量高めのブログ過去記事はこちら。村上牛や村上のお茶、鮭について紹介してあります。

islaywhiskey.hatenablog.com

 

 

islaywhiskey.hatenablog.com

 

あまり有名ではないけれど、10月や11月の連休の旅先の候補に村上を力強く推しておきます!新酒も飲めるし、これから食べ物美味しくなるしほんといいところですよ!!!

 

f:id:KodomoGinko:20190922111028j:plain

f:id:KodomoGinko:20190922111025j:plain

f:id:KodomoGinko:20190922111022j:plain